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城をつなぐ国~鬼の曹長④~

 稽古開始から5年がたった。仲姫は、もうすぐ12歳になる。成人の儀にあたる裳着をするのも時間の問題だろうか。最近、仲姫の姉君にあたる大姫が北の大国の皇太子とご婚約されたと聞いた。王族というのは、自分の意志に関係なく国のために嫁ぎ先まで決まるのかと、もう五年も師弟関係を続け、見込みのあるこの麗しい姫さんに愛着というよりも深い感情をもっていた。よく考えると、自分の子供は二人ともどんな理由にせよ、途中でやめたり怖がったりしていた。なのに、五年間ほとんど毎日この高貴な二人は欠かさずに稽古をしていたある意味、おこがましいが娘と息子のように思っていた。だからこそ、成人して遠い存在になってしまうのではないかという懸念があったのだ。


 私は、裳着をしても稽古をしたい。


 休憩時間に汗を拭きながら、仲姫は笑顔で言った。


もちろん 師匠のご迷惑でなければですけど


心配そうに上目遣いになる仲姫は、その辺の貴婦人なんかよりとんでもない破壊力だ。ヒロマサは、娘のように思っていなければ懸想しているところだと、ふふっと笑った。


姫さんが、迷惑だと思うくらい練習しましょうかね


と、言うと二人は笑いあった。


 時は、病気がちであった王が王太子に譲位なさるとアズマはその話題で持ちきりで、「古都」でお茶をしていても耳に入ってきた。次の治世はどうなのか、一の姫様が輿入れを決められているから国際問題は安定するのか…大盛り上がりだったが、国外から渡ってきた人たちは口々に、あの国とのつながりについて心配していた。あの国とは一の姫の嫁ぐ国である。

北の大国は、閉鎖的であまり外交がない。しかし、そのあたりから逃げてきた者もいる。商売を邪魔された者もいる。もしかしたら、即位式で何か起きるかもしれない。ヒロマサは嫌な予感がして、近衛隊にも古巣の警備隊にも懸念を伝えが、どちらもお祝いムードに水を差すなと言わんばかりだった。


 そして、即位式の日ヒロマサは自分の隊にだけは何か起きるかもしれないという陣がいつでもとれるように指示をして、式に臨んだ。新国王がお披露目となり王妃とともに民の前に姿を現したとき、唸り声とともにけたたましい銃声のようなものが聴こえた。まずいと思った時には、やはり動けるものがヒロマサの隊、数名しかおらず、飛び出した。王族の身の安全を取ることが第一であると思い、ヒロマサは新王にとびかかり覆いかぶさった。ほかの者たちは、王妃や姫君にしゃがむように促し、身を挺していた。何発か続く銃声がなったのち、起き上がった王族と近衛兵は、立ち上がらない曹長に驚いた。


 覆いかぶさった新王は、ゆっくりと体を起こし、生温かいものが手に当たったことに気が付く。それは、ヒロマサの鮮血であった。


 新王に覆いかぶさるときに、右足ふくらはぎ辺りを撃ち抜かれたのだ。ちぎり取られたかのような状況に鬼のヒロマサは、痛みで顔が歪んでいる。即位式は、当然中断した。ヒロマサは新王に


 御手を汚してしまい申し訳ありません。


と謝ったあと、救護院へ搬送された。リハビリを毎日行い、数か月後、歩けるようにはなったヒロマサだったがとても、第一線で戦える状況ではなかった。もう早めに辞めるしかないとヒロマサが思ったのは、何よりも家族からの懇願があった。アキが泣くのだ。もう、随分と大人びた口を利くようになったのに、頬を汚したときの記憶が蘇るのか、食事ものどを通らなくなってしまっていた。杖なしでも歩けるようになり心配する国王に謁見し、第一線を退きたいことを伝えると、自分のために申し訳ないと涙を流された。犯人は、やはり北の大国から迫害を受けた者たちが差し向けたものだった。その後無事逮捕されたらしい。そして、王の命を守ったことからの再びの受勲と曹長から少尉への昇任を伝え、時機を見ての退役を赦された。

 復帰してからは後進の指導を中心に行った。あの時、ヒロマサの進言を無下にした上官たちは、戒告処分となったらしい。近衛では孤高の鬼であったヒロマサを慕う者たちが、療養中に増えていたのだ。そして、数か月ぶりに仲姫に会った。


 仲姫は、大層心配していたようで姿が見えるとすぐに駆け寄り、椅子を進めてきた。傷の具合や今後のことなどを話し、稽古はつけなかった。次の日も、翌々日も話をするだけだったので、退役をするまでは指導をという約束をヒロマサが確認すると、仲姫は首を横に振った。

即位式での事件の最中、足がすくんで動けなかった仲姫は、飛び出して命を盾に国王を守るヒロマサに、自分がなんと弱いものなのか、今までの剣術を誇りに思っていた自信が打ち砕かれたと話し始めた。


それは、私とひめさんの置かれた立場では仕方のないこと…


そういう、ヒロマサに


軽はずみな行動で師匠の体の負担にはなれない


と、悲しそうにほほ笑んだ。


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