城をつなぐ国~鬼の曹長③~
アズマで一番の猛者「鬼のヒロマサ」を、姫の指南役なんで考えも及ばない話である。返す言葉を失っていると
そこ元の実直な仕事ぶり見事である。我が仲の姫は、武芸に興味がある。ぜひどんな武具でも使いこなす曹長に、指南してほしいのだ。
ヒロマサは、この申し出を受けることにした。美しい王太子殿下の表情は、父親そのものであった。聞けば王妃からの条件は、続けた厳しい練習はしてはいけないだとが、過剰な筋肉の丈量が見込まれる練習はしてはいけないだとか、姫としての禁止事項が多くあまりいい気分はしなかったが、あの殿下の表情を見たら、自分がアキを思う気持ちと何ら変わりない人の親なのだと思ったからだ。それなりに腕に覚えがある近衛兵の中で、中立でとなると人が限られれくる。そんな中で退位なさった院がヒロマサの武勇を褒めていたことを思い出し、見合った男か調べたというのだ。断りようがなかった。
初めて仲姫に出会ったのは、姫がヒロマサの大剣よりも背丈が小さかった頃…。まだ帯結びの儀をする前、6歳頃であっただろうか。上等な着物ではあったが動きやすいように袴を履いて立っていた。
娘のアキより少し年下の女の子なんて、少し練習を始めたら泣き出してそれで終わりだろうと思っていた。しかも王族となれば、不敬だとか不忠だとかいわれのないいちゃもんをつけられる可能性だってある。そう思っていたのに様子が違っていた。
よろしくお願いいたします。お師匠様
そう言った袴の少女は、なるほど王族の一人だけあって、娘のアキもかわいいが、とんでもない天使のような愛らしさであった。ここでは王族と臣下ではなく、師弟関係であることを確認した。姫はだまって頷いた。最初は基礎体力つくりや、竹刀を使って練習をしたが、全くやめる素振りはない。泣くこともないし、弱音を吐かない。ただただ、ヒロマサを
師匠
と慕ってくれる。王妃に何度も嫌みを言われているような話を聞くが、全くやめる気などないという様子であった。ある日、どうしてそんなにも武芸に努めるのかと尋ねると、
自分に自信がない。両陛下のお役に立ちたいのです。
と悲しそうに笑った。世間は、王妃が王子を生んだことで盛り上がっていた。姫は自分の存在意義について、幼い胸を痛めているのだと思った。片手剣が振れるようになる頃、姫と一緒に、これまた上流貴族の公爵の嫡男がやってくるようになった。
ヒロマサは、小侯爵のことを「アヤ坊」と呼び、仲姫のことを「ひめさん」と呼んだ。ヒロマサは、仲姫の成長とともにレイピアに柄物を絞った。結城ではあまり馴染みがないが、軽やかに動き回る仲姫にはちょうど良いと思ったからだ。仲姫はヒロマサの言うことを聞き続け、その辺の若手の剣士よりも剣さばきは上であったと思う。ヒロマサの何の面白みもなかった近衛勤めに、毎日行われるこの訓練は活力となっていた。この訓練は5年以上つづいたのだ。
お互いにこの日々を大切にしていたのに、突如として終わりを迎えた。それは、ヒロマサが退役に追い込まれるほどの大けがをしたからであった。




