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城をつなぐ国~鬼の曹長②~

 鬼のヒロマサの跡取りとして生まれたタカマサは、幼い頃より道場に行けば「ヒロさんの子供」という目で見られ、さぞかし武芸に秀でているのだろうという目で見られた。小さい頃は、あまり感じなかったその視線も次第に期待する大人の目から、「親の七光り」という子供たちの嫉妬の目に伝染していった。

 決して才能があるわけではなかったが、武道をすることは好きだった。体を動かすことも好きだったが、あまり笑わない父ができるようになった時にふわっと笑うことがうれしかったのだ。しかし、周りの嫉妬の中でそれを打ち払うだけの実力がないタカマサには、武道を逃げ出すしか道がなかった。


強くありたい


そう思えば思うほど、周りの子供たちの目は自分をあざ笑っているように見えた。喫茶店に誘われたときに自分がされている嫌がらせについて話したかった。でも、それを言わなかったのは、「鬼のヒロマサ」の息子としてのプライドだった。言いつけることは簡単だ。でも、それに逆上して父親があの子たちに正義の鉄槌をくらわすこともまた違うと思ったのだ。この場から逃げるが、負けたわけではない。なんとなく気が付いていた母は、タカマサに


勝負に負けても、戦に勝てばいい


と言った。どういうことかはわからなかったが、ほかの道で見返してやればいいという意味だということを理解した。



 ヒロマサのもう一人の子供は、アキという娘だった。ハルに似て愛らしく、ヒロマサの癒しだった。活発で、武術に興味があったようなので、練習場に連れて行ったときに、いつもは優しい父親の緊迫したオーラに泣き出したので、それ以来仕事にかかわることに連れてはいかなくなった。


 ヒロマサが、もうすぐ40歳に手が届くかという頃だっただろうか、酒場での暴動鎮圧のために出動したときのことだった。制圧するのに時間がかかるほどの大混乱で、野次馬も大勢出ていた。もう数人を止めれば…といったときだった。女の子が泣きながら騒動の中にするりと入ってきてしまったのだ。野次馬が入ってこないように規制していたはずなのに、小さい体ですり抜けてしまったようなのだ。酔っぱらって大暴れしていた男が何を思ったか小さい彼女に向かってフォークを突き立てようとしている。咄嗟にかばったヒロマサの右頬にフォークは突き刺さり、頬肉をえぐるように床に落ちた。


 ヒロマサは、しばらく治療院にて入院を余儀なくされた。傷がふさがるまで食べるのも容易ではなかった。傷は右側頬から口元まであり、口元が避けているようになってしまった。容姿にさほど頓着するほうではなかったが、見舞いに来たアキが大泣きして帰ったのは、さすがに傷ついた。ヒロマサの髭はこの後から伸ばし始めた。ふさふさの鼻下の髭のおかげで頬にシミのような痣のような傷跡が見えるだけとなった。傷跡はたまにひきつることもあるが、とくに支障もなく傷が髭で隠れたおかげで娘とも良好な関係に戻ることができた。



 鬼のヒロマサが、近衛に異動して数年。自分を近衛に抜擢した王は代替わりをした。この機会に警備隊に戻ることも願い出てみたが、何故か受理されずにいた。貴族派閥に属さないヒロマサは、周りの社交やり取りには目もくれずにいた中立の立場が当時の王にあたる先代王に好感を持たれたらしい。余計なお世話だと思いながら日々を過ごしていると、王太子殿下から名指しで呼び出されることに突然なった。


 この国の王族は本当に美しい容姿をしているというのは、老若男女問わずで、当時王太子であった現国王もまた、天の御使い様なのかと思わせるほどの神々しさであった。そんな殿下からの直々のお召しに、アズマ一の猛者ともいえるヒロマサは震え上がった。殿下の御前で膝をつき挨拶をする。殿下の様子は、好ましいものを見るような顔つきであった。その頃の殿下は、歳は三十を迎える頃だった。ご成婚の際、アズマの警護をしながら見かけた10年以上前の容姿とほとんど変わらない。むしろ色気が増して麗しいご様子だった。そんな、殿下から言われたのは、思いもよらない話であった。


仲姫に稽古をつけてやってほしい


下げた頭で、必死に考えたがヒロマサには全く理解できない話であった。


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