城をつなぐ国~泡沫の楽土④~
夜、宿屋の食堂は彪比古こと「アヤさん」の送別会のようになってしまった。先ほどからマサは、酔いに酔い、泣きに泣き崩れ収拾がつかない。そんなマサを皆が笑いながら酒のつまみにしてさらに酒を飲む。彪比古もずっと酒は控えていたが、今日だけはと自警団のみんなに言われて乾杯の時に酒を飲んだ。本山では飲むことがないような安い酒ではあったが、こんなに慕われ、大事にされて、仲間と飲む美酒を彪比古は知らなかった。自警団のみんなも、ここ数日修繕を手伝う彪比古の様子を見て、更に彪比古に好感を持ったらしく、マサでなくても離れがたいようだった。
そんなどんちゃん騒ぎの中、彪比古はロクに外に誘われた。正直、今日の昼頃までなら嫌みの一つでも言われるのかと思うところだが、先ほど熱い握手を交わしたのだからそれはないかと思いながらも、半信半疑でついて行った。
村の真ん中に位置する場所にある時計台の辺りついた。これが、おセン様の言っていたみんなのための時計台なのかなどと思っていると、ロクが踵を返してこちらを向いた。
貴方のことを、怪しんでいました。
ロクの目は笑っていない。怪しんでいたとは、どういう意味なのだろうか。どこかの国のスパイという意味なのか、ふっと視線を外して月を見つめるロクの横顔はやはりこの国の民族とは少し異なっているが、この横顔を美しいと思うのは正解共通だろう高い鼻筋に長いまつげが月明かりに照らされる。
先生の知り合いが訪ねてくることなど、遠縁の叔父という人しかいなかった
きっとそれは朱山公のことだと察しがついた。おセン様の住む家の持ち主で何度も様子を見に来てくれたとおセン様が言っていた。
それが偶然、幼馴染が道の遮断でこの村に滞在するとか都合がよすぎる。きっと先生を迎えに来たんだろうと思った。
脇目で彪比古をロクは睨みつける。それは疑いの眼差しなのか、「幼馴染」という称号を自分が得られないという憎しみからなのか彪比古にはどちらにも見えた。ロクは、彪比古の周りをぐるぐると歩いていく。探偵が犯人を追い詰めるときのように。
貴方…。貴族ですよね?それもかなり高位の。
彪比古は、何故ばれたのかと思ったが、表情には出さなかった。貴族社会では公の場で表情にイチイチ出すこと良しとしない風習があるため、小さい頃より身についていた。仲姫の前以外では、彪比古はこれができるのだ。
先生が、豪商の家などではなくきっと、私には手の届かない高貴な人だというのは誰よりも側にいた私がよくわかっています。それでも先生は、この村に必要な人なんです。
そういう口調は淡々としていたが、目からは必死さが伝わってくる。彪比古がこのままただで帰るのか確認したいのだろう。彪比古は深いため息の後、
おセン様は、自分の意志でこちらに滞在している。私はそれを尊重する。
とだけ、伝えた。明らかに目が輝いたロクに、初めてあどけなさを感じ彪比古は少し笑みが漏れた。
また、こちらに寄せていただくこともあると思います。その時はまた、よろしくお願いしますね。
そういうと、彪比古から今度は手を差し伸べた。ロクは、軽く頷きながら手を握り返すのだった。




