城をつなぐ国~泡沫の楽土③~
仲姫は、王室の姫としての気品を十分に備えていたが、どこか自信のなさがうかがえる姫君だった。しかし、今の彼女は何か自身に満ち溢れているという様子だ。身分も素性も全て偽りの中の生活なのにもかかわらずだ。
民は国であり、城である
もともと、彼女の王族意識は、父王のため、もしくは母王妃のためにどう身を捧げるのかといったようなものであった。もちろん、民のために尽くせという教えもあったと思うが、それは、王族として相応しい人間たれといったような思いだったと思う。しかし、民は国であるというような考え方に行き着いたのだとおセン様は言うのだ。
もともとは、あの方の考えだったの。人は城、人は石垣…
「あの方」というのは、結婚するはずであった亡国の皇太子のことであることは言うまでもなかった。有名な思想の一つである。しかし、その考え方は国を動かすうえでの考え方であり、救済措置ではない。
あの方は、上に立つ人間は社会的貢献を果たしてこそその地位にいることができるとおもっていたの。人の支持を得られなければ上に立つ意味などないってね。
かの国は、特権階級の絶対的主義が蔓延していた。しかし、その中で心ある人たちが「ノブレスオブリージュ」の考え方をもって、奴隷制度などを見直していたと聞く。あの頃の私は、そんな理想的な話についていくのがやっとで、実際に何かできたわけではなかったとおセン様は笑った。
そんな大層なものではない。そういいながら話を続ける。この村で生活をして、民とふれあい、私なりに出した答えは、この民の幸せのために尽力することが、ここに流れ着いた私の義務のようなものなのだというのだ。自分の地位を利用してでも、かなえられるのならば小さいことから、大きいことまで目立たないように小出しにしてと、笑った。
例えば、通常小さな村の子供は自分の家で読み書きを習い自分の家の仕事を覚えて大人になっていく。読み書きができないまま大人になる人も少なくない。だから、悪徳な人たちに騙される。そんな悪循環を終わらせるために、読み書き計算のできる大人になってほしいと、ロクたちに読み書きを教えながら思って続けているのがこの寺子屋なのだそうだ。そして、時間を守って快適に過ごしてほしいと大きな時計台を村の真ん中に作った。適当な仕事時間ではなく、毎日の生活サイクルと作っていくためにも必要だと思ったから、自分からとは言わず、朱山公の力を借りて村長からということで建てたらしい。
ここの生活に満足しているというおセン様は、なんだか照れているようだった。彪比古は、宿屋に帰りながら、自分の在り方について考えていた。自分の地位を使って仲姫のために尽くすことは考えても、「民のため」などと考える余裕があるのだろうか。自分の家族、妻にすら尽くせない自分が…。
さらに数日たって、山道は本山からの支援もあり無事に整備された。彪比古は、今まで身にも見ることがなかった修繕の様子をこの数日は確認しに行き、手伝えることは手伝った。おセン様の言う、自分にできることとはまた違うのかもしれないが、これくらいしか自分がここにいることの正当性を見いだせなかったのだ。商人たちは、彪比古に感謝するように早々に出発した。彪比古も、年貢の納め時と言わんばかりに出立の準備をする。商人たちが出立した翌日、この村を離れることを決めた。
ここを離れることを知った女将やカズ、マサは寂しがった。いつでも来るように女将は念を押していたし、マサは何処にいても親友であると泣きついた。すると、今まで彪比古に見向きもしなかったロクが、近寄ってきて握手を求めてきた。驚いた彪比古だったが、思ったよりも冷たいその手を握り返して微笑んだ。




