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城をつなぐ国~泡沫の楽土①~

 彪比古がこの村で寝起きを始めて一週間。補修工事も始まって3日が経過した。当たり前のように、彪比古は朝起きて食堂でみんなと話す。周りの人々はもう「アヤさん」と馴染みあるように呼んでくれる。食事を済ますと、仲姫改めおセン様の所に行き、寺子屋の備品を作ったり、勉強を一緒に見たりした。彪比古は、意識して姫殿下と呼ばないようにおセン様と呼ぶようにしている。本山では見ることがなかったほど生き生きとしているおセン様が、身元がばれてここにいられないことになっては困る思った。

 再開した日、三姫との馴れ初めなどかなり痛い腹を探られそうだったので、慌てるように宿に戻ると、彪比古と「先生」が昔からの知り合いだと食堂はざわついていた。口裏を合わせた通り、彪比古はおセン様は幼少時よりお世話になっている家のお嬢様で幼馴染だということで村のみんなには話をした。周りの人々が「アヤさん」などと気さくに話してくれるようになったのはおセン様効果というべきか。ただ、あの自警団長は、あまりいい顔をしていないことは、よく分かった。他所者を嫌っているのかとも思ったが、彪比古がおセン様の家に通っていることを知るとさらに不機嫌であったような気がした。その話をおセン様にすると、苦笑いをしていた。


 自警団長は、ロクという名前でおセン様がこの村に留まることになった理由の兄妹の兄である。寺子屋の一期生で、村長が後見についており、広い村長の屋敷内の離れに妹と住んでいるらしい。現在は村長の右腕として働いている。現在息子のいない村長が可愛がっているので、ゆくゆくは村長の後を継ぐのではないかと噂されている。おセン様を命の恩人として崇め、女神のように慕っているらしい。今でこそ、村人に慕われているロクだが、ここにきたときはそれまで辛い思いをしていたせいか、ほとんど心を許さず、味方はおセン様だけだと思っていたようだ。だから許してやってほしいとおセン様は笑った。

 

 おセン様の秘蔵っ子ならば、あの自警団での的確な指示にも納得である。


 本山の教育は教養が多いが、国のために尽くしたいと国土の地理や災害時の対応などについても興味を示されていた仲姫が、この村に合わせておセン様としてきっとロクにもその術を叩き込んでいたのだろう。朝から畑仕事をして、子どもたちの勉強を楽しそうに見ている。あの頃の仲姫も好きだったが、今のおセン様の方が健康的で麗しいと思ったからだ。そんなおセン様にずっと面倒を見てもらってきたなら好きならないはずがない。ロクは自分を恋敵として見ているのだろう。


義弟であることを伝えますか?


 と彪比古はおセン様に尋ねたが、首を横に振った。彪比古の素性がいつか明るみになると、そこからバレてしまうかもしれないからということであった。国の王女が隣家に住んでいるとは思わないが、一兵卒としてエリート貴族がまぎれていることは想像するかもしれないと言われて、そんなものかと思った。

 おセン様の傍でもう少し過ごしていたい。この村に来て、叶わない願いばかり心に宿してしまっていると彪比古は少し反省する。順調にいくとあと数日で補修が終わるだろう。この足でチユと一緒に急げは、視察団の最終地点には間に合うだろう。しかし、この幸せな時間を自分の手で手放したくはないのだ。誰かに指摘をされれば仕方なく旅立つことはできるかもしれない。しかし、きっと言い訳を探してしまう。

 彪比古は、この矛盾と葛藤していたのだ。

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