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城をつなぐ国~邂逅の日⑤~

 西日がシエッドの窓から指してくる。このシェッドは持ち主が、趣味に使うのか、そもそも大きく作られており、手作りなのか長い机が4列置かれている。部屋の前に仲姫が使うための机も置いてあった。

 案内してくれたカズには先に帰るように伝えた。二人にすることに不安があったのか、カズは自分もいると駄々をこねたが、仲姫が「昔からのお友達なのよ」と伝えると、しぶしぶ帰っていった。彪比古は長机の一つに座る。西日が丁度当たらないあたりを選んだ。仲姫は手慣れたように彪比古にお茶を入れた。慌てて恐縮する彪比古にくすくす笑う仲姫は、手慣れたものでしょ?と茶目っ気のある顔をする。こんな顔をする人だっただろうか、まじまじと彪比古は仲姫を眺める。今も十分色白だがあの頃よりも日に当たっているのか健康的な肌色になっていた。女将たちが言うように髪は肩で綺麗に切りそろえられている。本山にいたころから化粧は公式の場でするくらいだったが、更に化粧気がなくなったように見えるのに、何故だかあの頃よりも輝いて見えた。彪比古が避けた西日の当たる席に仲姫は躊躇なく座る。まさかそちら側に座ると思わなかったから、代わると慌てて席を立ったが、大丈夫と断られた。仲姫はお茶を一口飲んでふぅっと溜息をつく。


 「バレちゃったわね」

そういうと、微笑んだ。バレたということは、ほとんどの人間に隠しているということ。彪比古は、尋ねる。

 「姫殿下は…いつからこちらにいるのですか」

 

 精一杯の質問だった。会えた喜びももちろんあるが、竜見の城にいると見せかけて、移り住んでからずっとこちらなら自分が城に赴いて閉じられた仲姫の部屋に話しかけたり、会えるまで帰らないと座り込んだりしたことは何だったのかと動揺しているのである。

 重い口を開いた彪比古の言葉に、仲姫は慌てるように釈明を始めた。10年前、ボロボロになって結城に戻ってきた仲姫は、国境に近い竜見の城に入った。そこまでは彪比古も知っていた。「もうどうにかなりそうで、おかしくなりかけていた」そう言って、仲姫は髪の毛を触り、数日たって本山に戻るわけにもいかないと思ったから髪を切って、国王に送ったという。それから一年は、竜見の城で病的に過ごしたらしい。いつか生きていたら皇太子が自分を頼ってこの竜見に来るかもしれない。そう願ってとどまったが、仲姫に届いたのは、嫁ぐはずの国の滅亡の知らせだった。少し気分転換にと、心配して竜見に来てくれていた朱山公爵から、この村の自分の別荘へ逗留することを勧められ、二週間の約束で、この村でただただ、ぼおっと過ごしたそうだ。ただただ、神宮を見つめていた仲姫は10日くらいたったころに、みすぼらしい幼い兄妹がふらつきながら森のほうから歩いてくるのを見つけた。この家に来て初めて自分から外に出た仲姫はその二人に近寄ると、とても驚いた。顔立ちがあの国の人のものだったからだ。声を掛けられ安心したのか妹は膝から崩れて倒れこんだ。二人を保護し、この村の一員にしてほしいと頼んだ。朱山公にお願いして逗留期間を延ばし、身分を偽りアズマの名のある豪商の人間ということにした。そして、村長に引き取られた幼い兄妹にこの国の読み書きを教えていると村の子どもたちが集まり、今に至るという。知らない間にこんなに時間がたったと笑う仲姫に後悔の色は全くなかった。

 「幸せですか」

 彪比古は再び尋ねた。すると、ここでは南でもしていいのよ。と両方の手のひらを見せてきた。仲姫の手には、あれほど注意して作らなかったタコがあった。

 「剣術をされているのですか?」

 と彪比古が聞くと、笑いながら首を横に振り、今のライフワークだと言って、裏側の扉を開けた。そこには、民家の畑にしては大きめの畑があった。

 仲姫に会うことができたら、立派になった騎士としての自分を麗しく着飾った仲姫に見せることを夢見ていた。しかし、現実は雨でびしょ濡れになった軍服を何日もよれよれにきた状態で、仲姫は質素な木綿の袴姿であった。であったころと同じ袴を履いていることに何かしらの縁すら感じる。自分はどんな仲姫に会いたかったのか。この10年泣いて過ごしている仲姫に会って傍で長さえしたと思っていたのだろうか。彪比古が慕う仲姫がそんな弱い人間でないことくらい知っていたのに。弱弱しい仲姫なら自分のところに来てくれるなどと、そんな自惚れた考えだったのだろうか。現実のこの状況に心から笑えてきた。 笑う彪比古を不思議そうに見ながら仲姫は、何度も彪比古tが竜見に訪れてくれていたことは、竜見を行き来する侍女からちゃんと聞いていた、ありがとうと言った後、はっとした顔で

 「そういえば、彪比古さんお兄様ではなくて、私の義弟になったので」

とにやっと笑った仲姫を見て、ぶぶっと彪比古は噴き出した。

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