四
――ギィンッッ!
金属音が聖堂に響き渡り、漆黒の聖女と漆黒の少女の影が重なった。エリスは漆黒の大鎌を創出させ、無言でシェオルの短剣を受けていた。
受けた一瞬、シェオルは大鎌を左手に握り、より身体を密着させた。逆手に持った短剣を閃かせ、最小の動きと最短の距離で脇腹を狙う。だが、エリスは軽々と大鎌の柄を振り短剣を止めるとともに、回転させシェオルの手も弾いた。流れで向けられる鎌の刃を紙一重で避け、シェオルはなお近接しようと足を踏み出す。
エリス――フルールの身体は同年代に比べて小さい。だが、当然ながらそれよりもシェオルは小さかった。小さな相手に近接されると厄介になる。それをすぐに悟り、エリスはタンッと身体を退き、間髪入れずに踏み込んでくるシェオルに大鎌を振った。目の前に振り下ろされる刃、瞳に映る閃光を身体を倒すことで避け、シェオルは鎌を振り背中を見せているエリスの右側へ足を滑らせた。身体の流れとともに開いた脇へと短剣を閃かせる――だが、シェオルは目の前に現れた炎に包まれ弾き飛ばされた。転がる身体を床を叩くことで飛び上がり体勢を整え、足が地についたと同時に再び蹴り上げる。
「…………」
エリスはスッと大鎌を構え、僅かに唇を開いた。瞬時に炎の渦が放たれ、距離を詰めるシェオルの目の前を覆い隠す。
本来なら避けることはできた。それだけの時間と余裕は十分にある。だが――
「っ――」
エリスの表情が変わる。シェオルは構わず踏み込んできた。炎に巻かれながら迫る少女に、牽制し間合いをとるためにエリスは横薙ぎの一閃を放つ。
しかし、シェオルのほうが一歩速い。鎌の刃の内側に入り左手の甲と肩で柄を受け、シェオルは足を滑らせた。身体を屈め、走り抜けるまま胴への一閃を放つ。だが、エリスは大鎌を握った右を引き、左を押すことで短剣を受け、そのまま身体を下げ柄を振り抜いた。短剣を防がれたまま柄に巻き込まれるように押し出され、シェオルは横へと飛ばされる。
ザザッ――と地に足をつけることで身体を支え、シェオルは壇上の下で膝をついた。魔法の傷は大したことはない。だが、やはり力では敵わなかった。受けられると弾かれる。
だったら受けられないようにするだけ、シェオルは簡単に答えを出すと立ち上がった。エリスはこちらから視線を外さず見下ろしている。分かっているのだろう――いや、『分からせた』。隙を見せれば斬られるということを。
「リュテちゃんっ!」
声を上げるセリッサに答えることはなく、シェオルは飛び上がりの一歩で壇上へと上がり、瞬時に足を踏み出した。先程よりも速く、鋭く地を蹴り上げる。
「――――」
エリスが放つ不可視の圧力、魔法で創られた風の壁を短剣で薙ぎ、頬や制服を烈風で切り裂かれながらもシェオルは飛び込んだ。返しの刃で迫る大鎌を弾き、そこでまた一段速度を上げる。
ギキィンッッ!!
首を狙った一閃を大鎌の柄で受け止められ、シェオルは瞬時に手首を返した。柄に添り握っているエリスの拳、その手首を狙う。だが、それもまた鎌を振り押し返されることで防がれ、シェオルは一歩飛び退いた。無理に押すことはしない。相手の流れに合わせ、その力を利用する。斬ることに力は要らない。
シェオルは、ダンッと踏み込み懐へと入り込んだ。エリスは近接を嫌がり、後ろへ退きながら大鎌を振り下ろす。首に迫る三日月の刃を持ち替えていた左の短剣で受け、力に逆らわず右へと流し、シェオルは身体を回転させエリスの背中へ回りこんだ。しかし、エリスも大鎌を薙いだ勢いのまま身体を回し、シェオルへの一撃を振り下ろす。
頭上に迫る刃を短剣で流し、シェオルは踏み込みとともに鳩尾への突きを放った。だが、鳩尾に迫る切っ先に、エリスは大鎌を離した腕を振り抜きシェオルを弾き飛ばす。飛ばされるままシェオルはタンッと地を蹴り、体勢を整えるとともに再び踏み込んだ。
ギィンッ、ギキィィンッッ――――!
首、手首、胸、脇腹、鳩尾――瞬時の間断もない流れるようなシェオルの動き。そんなシェオルに、エリスの表情が僅かに変わった。
最小で最短で確実に致命傷を与えようとしている。この幼き少女は、自ら言った言葉通り『死を与えよう』としていた。惑いなく、迷いなく。怒りも悲しみもないままに、ただ殺すことを行っている。
(――この娘)
信じられるはずがない。人間が、ましてや、魔法少女が魔女の眷属である自分に対し死を与えようとしている。『恐怖を与えようとしている』。これは逆さまなことだった。




