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十八


「――先ほどの戦っている姿を見て、分かったことがあります」


 聖堂は驚くほど静寂に包まれていた。周りの混乱が嘘のように――まるで、聖堂の静寂だけは壊してはいけないように、それは穢れなく神聖に満たされている。

 そんな聖堂の蒼い絨毯の上を先導しながら口を開いたセレスの言葉に、シェオルは後ろから問いかけた。


「なんですか」

「貴女が、力をつけたということです――戦うための力を」


 振り向くことなく続けるセレスに、シェオルは無言で応える。言葉で応えることに迷いがあった。それは、セレスの声が悲しみを含んでいたから。


「だから……」


 セレスは足を止め、言葉を搾り出した。迷いは断ち切れていない。辛そうに、苦しそうに――重い口を開いた。


「だから、一緒に連れてこなければいけないと思いました。貴女が……十年をかけてこの時のために力をつけたのなら」


 答えは今だ出ていない。もしくは、シェオルを連れてくるということが答えなのかもしれない。その答えが、どんな結果を導き出すか分からなくとも――

 セレスは振り向き、シェオルを見つめた。その後ろには娘――セリッサもいる。

 迷いなく見つめてくる二人の瞳。こうして二人揃って見つめられるのも十年ぶりだった。その十年越しの瞳が、それぞれ何を語っているのか、決意しているのか――セレスは静かに口を開いた。

 答えを聞くために。自分が出せなかった答えがここにあることを信じて。


「どうするつもりなのですか、シェオル」


 今でも、その名を呼ぶのに何の意味があるのだろうと、シェオルはふと思った。そして、ほどなくして分かる。

 シェオルと呼ぶのは、味方をしないためだった。もし、もう一つの名を呼べば、自分に対して何もできなくなることを知っているから、セレスはシェオルと呼んでいる。それは、聖女として正しい判断だった。

 セリッサはどうだろうと思う。今、名前を呼んでと頼んだら、どちらの名を言うのだろう。母と同じように答えるのか、それとも――


「――――」


 シェオルは腰に手を回すと、制服の中から短剣を取り出した。身体に固定させ、服の下に隠していた刃。自分の心と同じもの。


「シェオル、なにを――」


 手にした短剣にセレスが驚き、止めようとした瞬間だった。


「こうするんです」


 シェオルは短剣を投げる。セレスの顔の横を通り過ぎ、一直線に真っ直ぐ、そして、的確に、明快な意思を伝えて。

 短剣は、まるで一突きで殺すようにアテネの胸の中心へと突き刺さった。


「駄目っ――――!!」


 セレスが声を上げる、が、もう遅かった。

 アテネの全身にヒビが走っていく。パラパラと破片が落ち、そして、砕け散った。


 それは、まるで、アテネから産まれたかのように――

 水晶の中で眠っている少女が現れた。黒き衣に、紅の刺繍が入った漆黒の装束を纏った長い黒髪の少女。


 漆黒の聖女――フルール・ヘスティア。彼女は、そこにいた。


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