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十七


「やっぱりやる」


 踏み出し開花を唱えようとするが――それは小さな手に阻まれた。

 シアは両手を大きく伸ばし、背中でステルを止めた。小さな身体で、まるでシュティたちを守るように身体を目一杯広げ、幼く純粋な瞳をシェオルへ向ける。


「駄目だよ、シェオル」


 恐れなく真っ直ぐに見つめてくるシアの視線。同級生なのに、下級生だと度々勘違いしそうになるシアの真っ直ぐで強い姿に、シェオルは振り返り苦笑した。シェオルもシアには弱い。下に見ているわけではない。その才能を認め、他のクラスメイトと同じく侮ったこともない。だが、シアの瞳で見つめられるとどうしても心が和らいでいく感じがした。


「わかってるよ、もうしない」


 苦笑したままシアの言葉に答え、シェオルはふっと息を付いた。どちらにしろ、時間はもうない。それは、おそらくセレスも感じているはずだった。


「リオ、ヴィオラ。シェオル以外の初等生を教室へ戻しなさい。後は、魔法少女(パラディオン)の指示を聞くこと。いいですね」


 すでに立ち上がっていた二人にセレスは静かに命じた。もう戦うことはしないだろうと確信して。シェオルの実力は皆も――そして、自分も十分に分かった。


「……はい」


 一瞬の間があったものの、リオは素直に頷いた。これ以上の戦いは無意味だ。激昂にかられ倒そうとするなど魔法少女としてあるまじき行為だろうし、何よりこれ以上時間をとるわけにもいかない。仲間たちは戦っている。

 ファーノもイリスも異存はないようだった。従い、歩き出す。ステルは少し不満そうだったが、それでも逆らうことはせず、レオネ、シュティ、シアも校舎へ向かって歩き出す。

 セリッサは一人立ち止まっていた。白銀の聖女と漆黒の少女を見つめ、それは自然と口から放たれていた。


「お母さん、わたしも居させてください」


 その言葉に、校舎へ戻ろうとした全員が振り返る。


「…………」


 セレスは娘――セリッサの視線を受け、僅かに拳を握り締めた。

 学園では『お母さん』とは呼ばず『学園長』と呼ぶようにいっていた。それは学園と家庭を区別するためだ。学園長と生徒、聖女と魔法少女、そして、母と娘。その線を明確にするために、『母』と呼ぶことは禁じていた。

 だが、セリッサは『お母さん』と呼びかけた。無意識にでた言葉なのだろうが、この時に何故、母と呼んでしまったのか――


(あの子が――シェオルがいるから)


 それが分かっているから、セレスは揺らぐ感情を抑えることができなかった。


「…………」


 シェオルも何も言わず、セリッサからセレスへと視線を向けた。その視線の意味は分からない。シェオルの考えも、娘の感情も理解できなくなっていた。

 自分は母親として何をしていたのか――子の気持ちすら分かることはできない。 


「――分かりました」


 だからこそ、セレスは頷いた。セリッサの気持ちが分からないからこそ、離れさせたくなかった。セリッサがシェオルと一緒にいたいというのなら、その気持ちを尊重したい。学園長として聖女として正しいかどうかは分からない。だけど、二人を一緒に居させるのは大事なことだと感じた。

 今から始まることを考えれば、尚更――


「行きましょう、ついてきてください」


 セレスは振り返り聖堂へと歩き始めた。その後ろにシェオルも続く。


「セリッサ……」


 呼ぶレオネにセリッサは微笑みだけ返し、足を踏み出した。

 シェオルの背中を見つめ、離れないように――離さないように、手を伸ばせば届くところまで近づいて。


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