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十六


「いいですよ、すぐ終わりますから。待っていてください」


 シェオルは平常通りに簡単に答え――この状況下で平常でいられるほうが異常なのだろうが――ファーノへ向かって笑った。


「さあ、やろうか。待たせるのも悪いし」

「貴女はっ!!」


 叫んだのはファーノだったが、先に動いたのはイリスだった。真っ直ぐにこちらへ向かい、一気に距離を詰める。


 ――ザッ!


 間合いに入る手前で地を蹴る足に力を込め、イリスは一段速さを上げた。真正面から戦いを挑んでくる、体術に自信があるイリスらしい。

 だが……それでもまだ拙い。


「…………」


 迫るイリスを見て、シェオルは少し失望した。イリスが魔法少女に成っていたなら、もう少しマシだったはずだ。魔法少女で、武器である刀を使ってきたなら。イリスは試合の経験はあっても、実戦の経験はないのだろう。従僕との実戦ではない、人間との実戦。死を覚悟した戦いの経験を。

 懐に入ったイリスは、鋭い息吹とともに貫手を打ち込む。肩の付け根を狙った右の貫手、一つずつ身体の機能を削っていくつもりなのだろうが、そんな悠長な考えでいる時点で負けだった。『格上』を相手にするなら、打ち込みは慎重にしなければならない。

 一歩、左足を踏み込むだけで貫手を避ける――その瞬間、


 ズザァァァッッ!!


 イリスは後ろへ吹き飛んだ。背中を叩きつけ、地面に滑らせてから身体が止まる。イリスが踏み込む瞬間に合わせシェオルが胸へ掌底を打ち込んだのだ。

 ただ、見た目は派手だが、それほどダメージはないはずだった。タイミングを合わせて身体を押しただけに過ぎない。それに、シェオルも本気で打ち込んだはいなかった。

 間髪いれずシェオルは走り出す。腕を向けていたファーノは動揺し、体勢を整えるため今の場所から移動しようと身体を動かした。ファーノが魔法を打ち込んでくることを――おそらくは動きを止める風の魔法で、近くに倒れている先輩二人に当たらないように狙いを絞ったものだろうが――シェオルは気付いていた。魔法という選択は正解だ。上級生二人やイリスに比べるとファーノは体術に秀でていない。だから、距離をとって対応することも正しかった。

 しかし、そんなことはシェオルも当然分かっていた。魔法少女と戦うなら魔法への対策を考えていて当たり前だ。準備はしている。


「――っ!」


 距離を詰めるシェオルにファーノは息を飲んだ。焦りがなければ、あるいは魔法を放てていたかもしれないが、瞬時に構成を諦め距離をとるために空へ飛ぼうと地面を蹴る。だが、そのこともシェオルの予想の範囲内だった。右手には話の途中で手にしていた小石がある。事前にポケットへ忍ばせていたものだ。

 走りつつ最小の動作で右手を振りぬき、シェオルはファーノへ向かい小石を投げ飛ばした。


「った!」


 空へ飛ぼうとした瞬間、額に小石がぶつかりファーノは思わずしゃがみこんだ。真っ赤になった額を押さえ、涙目になりながらも何とかシェオルへ顔を向けようとする。


「はい、チェックメイト」


 ポンッとしゃがんでいるファーノの頭に手を置き、シェオルは笑った。魔法少女の弱点だ。予想外のことがおき、集中力が途切れれば魔法を使えなくなってしまう。

 ともあれ、シェオルは周りを見渡し状況を確認した。言葉無く呆然とするセリッサ、レオネ、シュティ。上級生二人はやっと立ち上がり、イリスも身体を起こし始めていた。ファーノはまだしゃがんだままだ。学園長であるセレスは動かず、ただこちらを見つめていた。

 上級生にしても、イリスもファーノも、もう戦いは挑んでこないだろう。そう判断し、冷静に観察していたステルへ向かいシェオルは口を開いた。


「あなたもする、ステル?」

「……やらない」

「そ、いい子」


 シェオルは微笑み、セレスの方へと向き直った。だが、終わったと思っていた会話の後に、ステルはシェオルの後ろに向かって言葉を続けた。


「やれば、私が勝つよ」

「そう」


 振り返りもせず答えるシェオルに、ステルは視線を鋭くする。


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