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「どうなってるのよ、一体」


 ファーノのその言葉にすぐに誰も答えなかったのは、今が自習時間で静かにしていなければいけないからというわけではなかった。誰もがその言葉の意味を分かり、同じ気持ちでいたからだ。


「ここ一週間で、二十七体。三日前なんて一日で六体も現れたのよ。異常すぎるわ。しかも――」


 外を見ていた窓から離れ、ファーノは不満とともに言葉を吐き出した。


「私たちが入学してから毎日だなんて、いい気がしない」


 クラスメイトであり、仲間でもある新入生七人に目を向ける。ファーノの気持ちは分かるが、かといって、やはり今度もすぐには誰も答えなかった。

 ファーノの言葉の後、教室はしばらく静寂に包まれた。今は他の教室も授業中、または、自習中なので当然ながら教室には八人だけしかいない。担任であるミュゲは会議の為、朝に一度顔を出し自習を命じただけで、その後は見ていなかった。おそらくは、今日一日会うことはおろか見ることもできないだろう。

 そして、当然、そんな事情は学園に居る全ての魔法少女が知っていた。真紅の聖女であるファイス・ネルケが聖都から来ていることも聞いている。それだけ事態が切迫しているといえるが、もしかしたら、ファーノの苛立ちはファイスが来ていることへの不満もあるかもしれない。

 一様に沈黙するのを確認して、ファーノはふんと息を吐き、再び窓の外へと目を向ける。穏やかな蒼天の陽の光りを浴び、綺麗なファーノの紅の髪がルビーに輝いていた。

 暖かで静かな風景――まるで、連日の従僕出現が嘘のように街は春の空気と色を穏やかに緩やかに描いている。だが、静か過ぎるとこうも思う――これがまさに嵐の前なのではないかと。


「…………」


 セリッサはシェオルへ視線を向けた。三人が並んでゆっくりと座れる長机が二列に三段。八人では広すぎる教室だが、入学する人数が分からないため、広く造るのはしょうがないともいえた。そんな長机に並ぶ椅子に、ファーノ以外の七人がそれぞれ好きに座っている。

 シュティとシアが並んで座り、イリスとステルは離れて一人で座っていた。レオネはセリッサの後ろの席に座り、そして、シェオルは席を一つ空けてセリッサと同じ机に座っている。

 シェオルは教科書をパラパラとめくり、最後のページが指から離れるとともに時計に視線を向けた。レオネと同じく退屈そうにも見えるが、何故だかセリッサは気になっていた。時計を見つめる視線に、静かな気配に。

 思えば、頻繁に従僕が現れるようになった始まりも、あの時の……シェオルとレオネと三人で街へ出かけた時に現れた従僕だった。しかも、あの従僕はアルカンシエルで一ヶ月振りに現れた従僕だったのだ。

 それから連日のように現れるようになった従僕。そして、その数は日に日に多くなっている。偶然と思う……関係ないと願っている。

 でも……


(シェオルさんは……まったく変わっていない)


 まるで予め知っていたかのように、従僕が増える事実をシェオルは静かに見つめていた。何より街での出来事のように、事前に従僕が現れることを悟っている感じさえする。


「……もしかして、あたしたちも戦ったり?」


 ペンを倒し呟いたレオネの一言に、セリッサは思索していた頭を現実に戻した。

 新入生を戦わせることはしない――それは、隊長であり担任でもあるミュゲが言った言葉だ。だが……


「そうなるかもしれません……今の状況だと」


 学園長の娘であり、聖女の娘である自分が不吉なことを話してはならないと自覚しつつも、レオネへ振り返ることはせずにセリッサは静かに呟いた。


「そっかぁ、そうなるよね、今の感じだと」


 頭の後ろに手を組み天井を見上げるレオネに、誰も否定はしなかった。

 今の感じ――その言葉に、セリッサは不吉な推測を思い起こさずにはいられなかった。想像してはならないと分かっていても、従僕の頻度を考えれば頭に浮かばざるを得ない予兆――

 魔女の使徒の襲来。それはまさに、あの時、あの時代のような――


「『エリスの災い』」


 およそ言葉が思い出させる意味と重さとは程遠い可愛い声が突然聞こえ、セリッサだけでなく、教室の全員が声の主へと視線を向けた。


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