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「学園長先生と、漆黒の聖女が使徒と戦ったお話♪」

「ええ、そうですよ」


 教科書に指を差すシアに、シュティは微笑んで答えた。同い年にも関わらず、その姿はまるで姉妹のように見えてセリッサも思わず微笑んでしまう。


「……まったく、呑気なものね」


『エリスの災い』という言葉に教室の空気が張り詰めたが、二人のやり取りにその緊張が溶かされていった。ファーノは苦笑し、シュティへと近づく。


「一体、急にどうしたの?」

「シアちゃん、『黒白の聖女』のお話が好きみたいで」


 シュティの答えに、ファーノは「ああ、なるほど」と言いつつ、ますます苦笑してしまった。

 自分たちより上の世代にとって『エリスの災い』は生々しい記憶となっているが、ファーノたちよりも下の世代には英雄譚としてのイメージが強かった。人々を守った魔法少女の活躍や精神を忘れず伝えるために、おとぎ話や童話、絵本にもなっており、幼い頃には誰もが一度読んでいるほどにそれは普及し、人気をたもっていた。シュティのいう『黒白の聖女』もそんな童話の一つだ。ファーノも幼い日に読んだことがある。

 とはいえ、現実に魔法少女学園に入学すると話そのままを受け取ることはできなくなるし、童話に夢見る年齢でもなくなった。だからこそ、シアの無邪気さにファーノは苦笑してしまった。


「あー、あたしも好きだったなぁ、黒白の聖女。まさか、童話に出てくる白銀の聖女の子供と友達になるなんて思ってもなかったけど」

「初等学園の時に、よく言ってましたね」


 レオネの言葉にセリッサも苦笑する。初等学園入学の頃は、その事でちょっとした騒ぎになったこともあったのだ。今でさえ、幼い子から『黒白の聖女の子供だ』といわれたりもした。嬉しくないことはないのだが、やはりどう対応していいか分からず困ってしまうことが度々あった。


「……私も同じよ」


 溜息とともに呟いたのはファーノだった。シェオルたちが座る机に歩いていき、おそらくはこの教室で唯一気持ちが共有できるセリッサへと話しかけた。


「まあ、私の場合は白銀の聖女ほどではないけど」

「そんな……ファイスさんもすごいです。強く、誇り高い、歴代の真紅の聖女の中でも屈指の聖女といわれているではないですか」

「私にとっては、ただのうるさい叔母さんよ」


 ファーノはそっけなく返し、肩を竦める。聖女に向かってこんな言葉が言えるのも身内だからこそだろう。セリッサもその気持ちは分かった。母……白銀の聖女を誇りに思い尊敬もしているが、英雄と謳われることには娘として違和感がある。


「でも、歴史的に魔法少女の大きな戦いは何度もあっているけど、やっぱり『エリスの災い』だけは特別みたいね。まあ、私たちにとって近い歴史だからってこともあるかもしれないけど」

「おそらく、八年の間であれだけの使徒が現れたからだと思います。それによって、聖女の後継も多くなりましたし……後は、エリスの襲来だと」

「そうね、確かに」


 ファーノは頷き、暗記していた――暗記というほどの量でもないが――事柄を諳んじ始めた。


「十年に一度現れるかどうか分からないといわれる使徒が、八年で六体も襲来した。しかも、姿を現したとしても世の中を掻き回すだけ掻き回して消える使徒を倒すまでに至っている。六体全ての使徒を、ね。これは、長い魔法少女の歴史の中でも稀有なことよ。おそらく、同じような事例を探そうとするなら、千年以上遡らないといけない」


 教師のように歩きつつ説明を続け、ファーノは、セリッサたちの方へと振り返った。


「『エリスの災い』と呼ばれる八年。その始まりに、彗星が煌めくごとく現れたのが――」

「漆黒の聖女っ」

「そう、漆黒の聖女、フルール・ヘスティア。このアルカンシエル学園でまだ訓練生だった少女が、名の通り花を咲かせるように歴史に登場した」


 声を上げたシアに微笑み、ファーノは話を続ける。自然とファーノへと注目が集まるが……セリッサだけはシェオルへと一瞬視線を向けた。

 シェオルに変化はない。いつもと変わらぬその表情に、セリッサの胸は苦しくなった。出合った日のように……似てると思ったあの時のように。


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