十一
月が照らし、闇が空を染める頃――
静かな夜の刻が訪れる。夜は人々が魔女の刻限と呼ぶ。毎日訪れる日の半分なのに、何故、魔女の刻限と呼ぶようになったのか――おそらくは、神祖の魔女が夜の女神だったからだろうが、自分には忌み嫌う意味が分からなかった。夜は自然のものなのに。
夜は好きだった。昼が嫌いというわけでもないが、どちらだと言われれば夜のほうが自分には合っている気がする。月も好きだった。魔女の娘が暗躍するといわれる満月も。
それだけで背信者扱いされることはないだろうが――といっても、もうすでに手遅れな気もしている。事実、それだけのことをしていたし、実際、背信者なのだろう。
今、まさにそれをしようとしているのだから。
シェオルは、真っ直ぐに伸びる蒼い――いや、藍の絨毯の上を歩いていく。夜の聖堂は暗い。白い壁も、正面にある校章と紋章が施された布も深く暗く沈んでいる。陽が落ちてから灯される蝋燭は明け方まで消えることはないが、聖堂の全てを照らすには心細すぎた。
シェオルの他には誰もいなかった。今は就寝前の僅かな自由時間。こんな時間に聖堂に居る生徒はいない。
静寂に包まれた冷たい聖堂を、シェオルは足音もたてず進む。正面に在る像へと――こちらを見下ろすように立っているアテネへと。
「――――」
シェオルは見上げ、鎧を纏った美しき女性を見つめた。像であってもその壮麗さと優雅さは見るもの全ての心を捉え揺さぶる。それは、アテネが魔法少女にとって魂を共有する同一の者であり――母だからというのもあるからかもしれない。
物言わぬアテネ――像だから当たり前なのだが、無言のアテネを見つめ続け、やがてシェオルは静かに俯き瞼を閉じた。
――こんな像くらい壊せばいい。それで、おそらくは『もう一つ』も壊れるはず――
胸の呟きに、シェオルは瞳を開ける。覚悟は――戦う覚悟は当にできていた。
(機会は一度――壊れなければ、学園には居られない)
アテネ像を壊したとなれば、背信者として追われることになるだろう。機会は一度しかない。
シェオルはアテネ像を見上げた。確信はある。誰も分からなくとも、自分には分かっている。
(力が強まってるのは分かってる)
魔女の従僕が増えていることを見ても確かだった。このまま待っていれば、こちらが壊さなくとも自ら壊してくれるかもしれない。
でも、
(苦しみを長引かせたくない)
ぐっと拳を握る。焦燥感が募り、心が闇に堕ちる。
(方法は――)
ある。
機会は一度――全てを簡単に、単純に、そして、確実に終わらせられる方法なら、ある。
(魔法少女としては戦わない)
それは、最初から決めていたことだ。
だが、
(壊すなら魔法少女に成るのが確実だ)
――瞳が変わる。闇の気配を纏う。
魔法少女としては戦わない。殺すのは魔法少女では意味はない。
だから、壊すだけだ。壊れれば、魔法少女を解く。
(ここで、全てを終わらせる)
そして、シェオルは呟いた。
「――花開け」




