十
「異端の魔法少女ですか。いいですね、それ」
シェオルは笑う。魔女と間違われても怒らないことも魔法少女らしからぬことだった。侮辱されたと思うのが普通だろう。
「わたしはそれでいいです。ううん、それがいいです」
しかし、シェオルは納得したように認めた。そのことが、また不信を生む。本当にこの少女は、何なのか。何者なのか――
「……どういうつもりなの、あなた」
「さっきも同じこといわれました」
独り言ともとれるリオの呟きに、シェオルは苦笑し――そして、答えるように笑みを変えた。
「何者なのか知りたいなら、手っ取り早い方法がありますよ」
微笑み、踏み出す。ミュゲと対した時と同じように、空気を変えて、視線を変えて。
「力ならいつでも見せられます。開花を唱える必要もない。今すぐにここで」
周囲に緊張が走る。静寂の中に、もう一段深く重く冷たくなる沈黙に、シェオルは最後の一言を囁いた。
「試しましょうか?」
「っ……!」
シェオルの言葉に、リオは一歩退いてしまった。それで、もう勝負はついていた。
「――冗談ですよ」
大人気ないことをしている――そのことを自覚して、シェオルは自らを嘲った。
魔女の従僕と戦っているとはいえ、開花していなければ普通の少女なのだ。しかも、魔法少女という性格上、喧嘩などしたこともないだろう。
馬鹿なことをしている。自分がしたいのは喧嘩などではなく、『戦い』なのだ。そう――命のやりとりでなければ意味がない。
(そう、ギリギリの……)
理性が壊れるくらいの、殺意に満たされるくらいの、その一線の戦い。自分で壊れるか、相手に壊されるかの死のやり取り。
――と、
そこまで考え、シェオルはまた自嘲した。
(魔法少女が相手じゃ、そこまでは無理か)
「すみません、先輩」
謝るシェオルに、リオもヴィオラも咄嗟には反応できなかった。
――ゴーン、ゴーン
そんな二人を、いや、周囲の全ての生徒を救うように、重い鐘の音が響いた。
授業の始まりを告げる鐘ではない。これは、街に魔女の従僕が現れた警告の鐘だ。そして、魔法少女の戦いの合図でもある。
「――魔法少女訓練生! 三体目が現れました、教室で待機してください!」
遠くで他の訓練生の声が聞こえる。
魔女の従僕が現れた際、現役の魔法少女である魔法少女は隊長であるミュゲの元に集まり、緊急には戦いに赴くこともある魔法少女訓練生は教室で待機するのが規則だった。魔法少女見習いも教室で待機となるが、戦うことはなく自習することになっている。
「……行きましょう、リオ」
ヴィオラがリオの腕に触れ促した。ここで話を続けるよりも魔法少女としての役目のほうが大事なのだ。
「わかった」
シェオルに何かを言おうとして……リオは言うべき言葉を見つけられずヴィオラに頷いた。一度だけ鋭い視線を向け、すぐに顔を背け歩き出す。
続くヴィオラと、それぞれに教室に戻る生徒たち。初等生八人はすぐには動けず、それを見送るようにただ立っていた。
ゴーン…………
四回目の鐘の音が響き、その余韻が完全に消えた頃、廊下に立っているのが自分たちだけになったことに気付いてレオネはようやっと声を出した。
「次から次へとまあ……モテモテだね、シェオル。というか、敵作りすぎ」
「そりゃどうも。褒め言葉だよ」
「分かっててやってるからタチが悪いよね、シェオルってさ」
「……ほんとに、貴女は」
悪びれないシェオルにレオネは呆れ、ファーノもさすがに言葉が出ず頭を抱えた。
「ごめん、反省してる」
クラスメイトである七人の表情に、シェオルは素直に謝った。本来なら――態度に出てないことは自覚しつつも――周りに迷惑をかけたくなかった。特に、セリッサの視線を見ると申し訳なくなってしまう。心配しすぎで倒れないかと、こちらが逆に心配になる。
「先輩には悪かったと思ってる。喧嘩するなら、先生くらいじゃないとね」
「反省してないじゃん」
「反省はしてるよ。子供みたいなことしてるって。相手は選ばないといけないよね」
シェオルは先に歩き出した。このままここで立っていたら、また自分のせいで怒られてしまう。それは避けたかった。
「相手は選ばないといけないって……まったく」
問題児と一緒になった運命に諦めながら、レオネは嘆息した。セリッサ、シュティ、シアはまた別の感情だったろうが、ファーノ、イリス、ステルに関しておおよそ同じ考えだろう。
そんな七人の気持ちを知ってか知らずか、シェオルは窓の外を見つめた。魔法少女たちが都市へと出て行く。戦いは始まっていた。
「戦いをしないとね、『本当の戦いを』」




