四
ミュゲはふっと内で息をつき、イリスから視線を外した。戦いの技術に関してだけいえば、イリスは訓練生はおろか現役の魔法少女にも匹敵する。
しかし……とも考える。本人が話すことはないが、迷いがあるように見える。そして、迷いは時に戦いにおいて致命的な出来事を引き起こしてしまうものだ。そう考えれば、まだ未熟すぎた。技術、体力があったとしても、イリスよりもファーノのほうが戦いには向いているのかもしれない。
「…………」
三人目へと目を向ける。天才といわれる小さき少女に。
「……花開け」
銀の髪を揺らし、蒼天の瞳の少女は微かに瞼を伏せ囁くように唇を奮わせた。
「小さな姫の輝く花よ」
銀糸の線が少女を包み輪舞する――サファイアの輝く魔方陣の涙のような蒼雪銀の結晶が溢れ、燐光は天へと伸び少女を照らした。
――ィィィン
泣く氷柱の音律が静かに響くように――透き通った音色は、天使の羽が空に溶け込んだかのような淡い蒼の花弁を躍らせる。
そして、まるでその全てを指揮するように、指揮棒のような短い杖を手にした少女はゆっくりと静かに宙を舞わせ、粒閃の筋を流れさせた。真白の衣に銀の刺繍を煌めかせ、小さな魔法使いのような、幼き精霊が纏うような蒼雪のローブを微かに揺らし、小さき指揮者は演奏の舞台を続けた。
やがて、魔方陣の消えいくと共に、閃光と花弁が奏でる演奏も終焉する。杖の先に僅かに残る銀雪の欠片を躍らせ、空へと返し――ステルは指にかかる杖をスッと降ろした。
ステル・マーン。
アルカンシエルで天才と呼ばれる少女。現役の魔法少女となれば、その名はもっと広がるかもしれない。
資料によれば五歳で開花をし、六歳の時には魔法も浄化も使えたという。ファーノやシュティ、セリッサならまだ分かるが、普通の家に生まれ魔法少女に近い人間でないにも関わらず魔法を使えるというのは稀有のことだった。魔法を見ることができる環境ではなく、教えられたわけでもないのに魔法を使える。だからこそ、天才と呼ばれた。
もちろん、実戦を経験させなければ分からないが――訓練を見る限りでは問題はなさそうだった。訓練生と同等、と見ていいだろう。
「――雷よ」
銀の雷光が擬似の従僕である木の人形を貫く。残光は従僕の身体を流れ、縛るように雷を弾けさせた。
一撃で従僕を地に縛り動けないようにしたステルは、杖を滑らせ唇を僅かに開く。優雅で流れるように魔法を編み、空に絵を描くように力を顕していく。
「雨の槍よ」
無数の水の槍が従僕を捉え打ち付ける――身体を貫かれ傷ついた従僕は揺れ、両膝を付いた。
そして、
「大気の天使よ――」
続けて、ステルは控えめになる鈴のように凛と言葉を響かせた。魔法の同時進行による連続使用……訓練生でさえできる者が少ない構成を編み、ステルは浄化の効力を創造した。
「空へ清めよ」
穢れなき蒼雪銀の魔方陣が木の人形――擬似の従僕を包む。燐光の雪は溢れ、まるで自らの罪を懺悔するように膝を付き頭を垂れた従僕は閃光に照らされ包まれた。
――――ィィィイン
贖罪による天使の歓迎は澄んだ音色と舞う花弁によって顕された。従僕は静かに、ゆっくりと消えていき、淡い蒼く白い花弁はゆれ踊り――散り落ちていく。
ステルは杖を振り、自らの胸へと戻した。微かに瞼を伏せ、鎮魂の調べを祈りによって終焉する。閃光は天へ帰り、浄化の魔方陣は花弁だけを残し消えていく。
その蒼く白い花弁の上には、黒水晶が一つ。もの言わず、花弁に包まれるように眠っていた。




