一
朝は決まった時間に自然と目が覚める。それは、寝心地が良くなったベッドになっても変わることはない。
やっと外が白み始めた早朝。シェオルは音もたてずにベッドから下りると、隣のベッドで寝ているセリッサに一度だけ視線を向けて、そのまま足音も立てずに部屋を出た。
着替える必要はない。寝間着なんてものはもってはいない、というより、旅をしている人間が寝間着など持つわけもなかった。
いつでもすぐに動けなければ意味がない。寝ている時でさえ気を抜くこともない。常に準備は――戦う準備はしている。
(とはいえ)
準備運動を終えてランニングをしながら、シェオルは陰鬱になりながら胸中で呟いた。
(旅をしている時と同じようにはいかないか)
旅をしていた時は日常が訓練のようなものだった。一日歩き続けたこともあったし、野宿するにしても寝場所も食事も全部自分でどうにかしなくてはならなかった。それだけ、身体は使い続けていた。いや、身体だけではない。常に、精神も使い続けていた。
だが、今はそれがなくなっている。
(――なんてね)
うずく身体を持て余し、シェオルは拳を握った。
分かっている――旅をしなくなった事だけが理由じゃない。理由はもう一つあった。
街での従僕との戦いから神経が研ぎ澄まされてきていた。もっともっと研がなければいけない。強くならなければならない。その為に、身体が、心が戦いを欲していた。
「――――」
シェオルは少し俯き視線を鋭く、暗くさせた。
殺意を研ぎ澄ませる為に――戦いが必要だ。
――――――――――
魔法少女には当然だがそれぞれに呼び方がある。そして、魔法少女学園での学生期間は六年で、三年ずつで見習い期間、訓練期間と分かれていた。
魔法少女初等生、魔法少女中等生、魔法少女高等生の三年間を魔法少女見習い(輝く瞳の小さな少女)と呼び、魔法少女第二訓練生、魔法少女第一訓練生、魔法少女最終学園生・準魔法少女の三年間を魔法少女訓練生(輝く瞳の小さな天使)と呼んだ。
その為、魔法少女は総称として「グラウコーピス」と呼ばれるが、見習いや訓練生と区別する為に魔法少女(輝く瞳の守護天使)とも呼ばれることもある。そして、魔法少女の代表となる聖女は、アテネの別名も加え「ポリウーコス・ニーケー(アテネに随う勝利の守護女神)」と呼ばれた。
制服には、アテネの象徴でもあり、平和の印でもあるオリーブの花が刺繍され、花の数で学年を分けていた。新入生である初等生には一輪、白きオリーブの花が施されている。
その一輪花を胸に咲かせた少女たち――八人の初等生は、訓練場にいた。
宣誓式から五日。魔法少女学園という生活にも慣れてきた……ということはないだろう。一般の授業はともかく、運動に関しては全て魔法少女に関係することであり、つまりは戦いに関することしかしていない。
最初の内は慣れないものだ。基礎体力の訓練だけでも、スポーツとはわけが違う。誰もが最初に躓くことであり、普通の生活を送っていた少女たちにとっては魔法少女に成れることを初めて後悔するところだった。
とはいえ、稀に平然とこなす者も現れたりするのだが。
(……やはり、あの二人は別のようだな)
訓練を見ながら、ミュゲは胸中で呟いた。予想通りというべきなのか……過小も過大もするつもりもなく、予想などというものもしていなかったが、「なるほど」と頷いてしてしまった時点でやはり考えてしまっていたのだろう。戦えるかどうか、使えるかどうかを。
教師として果たして、とは何度も思っていた。正しくはないのだろう、これは隊長としての見方だ。
(だからといって)
変えられるものではない。そして、だからこそ気付いたこともある。




