二十三
「でも、わたしが魔女の従僕を倒したのも『偶然』ですか? 開花も使わず、魔法少女にもなっていないのに、それでも偶然だと?」
「シェオルさん……」
「魔法少女の奇跡よりも堅実ではないですか?」
セリッサの制止の呼びかけを聞いても、なおシェオルは止めずに言い切った。
シェオルの言葉には怒りも苛立ちもない。本当に静かに、無機質なナイフの切っ先を突きつけるようにミュゲへと言葉を向けている。
「…………」
ミュゲはすぐに返すことはなく、無言でシェオルのナイフを受け止めた。鋭すぎる切っ先はこちらの内を抉ろうとするが、それで傷つくほどミュゲは弱くはなく、そして、若くもなかった。
「……なんて、すみません。言葉が過ぎました」
しばらくの沈黙の後、先に折れるシェオルにミュゲは静かに息を吐いた。ほっとしたわけではない。言うべきことを伝える為に、一息ついただけだ。
「お前は魔法少女にもならず浄化を使うことができる。未熟とはいえない……いや、普通の状態で過不足なく使えるとしたら、むしろ安定しているといっていい。それはこの学園で、いや、魔法少女の中でお前と同じ力を使う者がいないからだ。比べるものがない上にどういった力かも分からない。だが、浄化の効果は確実にできている。お前の技は認めざるを得ない」
ミュゲは机にある魔女の水晶を手に取る。目の前の新入生の姿と、この水晶がまさにシェオルの力の証明だった。否定もできないし、認めざるを得ない部分もある。
「自分の力に自信を持つことは悪いことじゃない。個人的には過信し過ぎるくらいの性格は嫌いじゃないしな」
全くの無傷で従僕を圧倒し、浄化を成した。それは、現役の魔法少女でも難しいことだ――が、
「だが、それでもお前が学園にいるかぎり見習いだ。どれだけ力があろうと、それは変わらない。そして、見習いであるかぎり私たち魔法少女はお前たちを守る。絶対にだ」
ミュゲは水晶を置き、シェオルへと鋭く言い放った。口答えを許さない、その厳しさと重さを込めて。
これは、アルカンシエル学園の全魔法少女を指揮する者の自負だった。自身の責務と責任に僅かでも妥協することはない。それは、市民だけでなく魔法少女も守る為だ。
「……分かっています」
「ならいい」
シェオルの返事に、ミュゲは視線を外した――とはいえ、おそらくシェオルは心には納得していないだろうが。
セリッサとレオネにも目を向け、規則により最終的な処罰を言い渡す。
「お前たちには一週間の謹慎を命じる。外に出ることは禁止だ。学園で大人しくしておけ」
「はい」
三人で返事をし、そして、それ以上の言葉もなく指導室を退出した。
「ごめん、二人とも」
指導室を出てから、シェオルは改めてセリッサとレオネに謝る。
「いえ……」
「あはは……まあいいよ。謹慎一週間くらい」
セリッサは僅かに微笑を返し、レオネは少しだけ戸惑った声で答えた。
話としては聞いてはいた。だが、レオネにとっては初めて目の前でシェオルの力を見たのだ。その事に何といっていいか分からなくなっている。
「…………」
だからといって黙っていられる性格でもなく、レオネは少し間を空け頭を掻いてからそのままの気持ちをシェオルに伝えた。
「……っていうか、すごいよね、シェオルって。すごすぎるっていうか」
「…………」
セリッサは黙ったままシェオルを見た。
シェオルはすごい、すごい……けれど、
(どうして、そこまで……)
怖さがある。恐怖ではない……危うさを感じ始めた怖さだった。
シェオルが何かを壊しそうな……壊れそうな、そんな危うさ。
「怖くなった?」
「いやっ、怖くはないけど……なんていうかな。やっぱり、すごいとしかいいようがないような……」
「――怖くないです」
「え?」
静かだが、はっきりと聞こえた声にレオネは驚いて視線を向けると、セリッサはもう一度続けた。
「シェオルさんは怖くありません」
その瞳が何を物語っているのか――シェオルは分からないはずがなかったが。
「ありがとう」
セリッサにお礼を言い、シェオルは――ただ、笑った。
「まだまだだね、わたしも」
「……まだまだ?」
「そう、まだまだだよ。わたしは弱い」
分からずに問いかけるレオネに、一度目を閉じ面白そうに笑ってから、シェオルは先を歩き出す。
「怖さ程度もできないようじゃ、わたしはまだ名前通りになれていない」




