十八
「お金なら多少はあるよ。アルカンシエルの人間じゃないから、もしかしたら学費がいるかもとか思ってたし」
「え? どうやってお金貯めたの?」
「そりゃまあ、働いて」
「あ、ああ、そうだよね」
「盗んだとか思った?」
「えっ!? い、いや、そんなこと思ってないよ! ただ、ちょっと、働くっていうことが思い浮かばなくて!」
「あー、そうか」
慌てて否定するレオネに笑いつつ、シェオルは成程と頷いた。
「そうかもね」
そこで、今更ながらシェオルも改めて気がつく。旅というものをしていた自分が異質であることを。セリッサもレオネも働くなど、働かなければ生きていけないことなど……ましてや、野宿をしたり川の水を飲み草を食べ生活していたことも想像がつかないのだろう。
「でも……働くってどんなことをしていたんですか?」
「色々やったよ。畑仕事とか掃除や荷物運び、皿洗いやウエイトレスみたいなことも。やっぱり食堂が多かったかな、ご飯も食べれたし」
指を一つ一つ開きながら説明し、最後にシェオルは開いた手を握って少しだけ間を空けて続けた。
「後は……傭兵っていうか、臨時の従僕退治とか。辺境だと、まだきちんとした体制がとれていないところもあったりしたから。あ、でも、これは内緒にしてて。バレたら、うるさそうだし」
「…………」
「……えっと、それって大問題とかじゃない?」
「う~ん、どうだろ。それはそれで魔法少女がいなくてもなんとかしてたみたいだから。まあ、大人の人がなんとかするんじゃない? 多分」
予想通りなんといっていいかわからず困る二人に、シェオルは大したことでもないように簡単に答えた。
実際、世界的に考えれば多くの問題は現実としてあった。しかし、すぐに解決できない問題もあれば、確実に時間が必要な問題もある。都市から離れた辺境や東方の国がまさにそうで、魔法少女を派遣できない場所は国の開発を待つしかない。更に加えるなら、西方と東方の国では意識の違いもあった。
「……魔法少女のいない場所で、魔女の従僕が出た場合はどうなるんですか?」
セリッサが真剣な顔で聞いてくる。真面目なセリッサならそうだろう。心配でならないのだ。
「これは、授業で習うかもしれないけど」
そんなセリッサを安心させるように、シェオルはそう前置きしてから笑った。
「従僕は一日くらい放っておいたら消える。多分、自然と水晶に入った感情が消化されるからだろうけど、ずっと存在しつづけることはできない。だから、都市から離れた場所に住んでいる人とかはそのままにしてるよ。都市とは違って被害が少ないし、天気の挨拶くらいに思ってあんまり気にしてない。まあ、そもそも現れる頻度が全然少ないしね」
「そ、そうなんだ」
「そりゃそうだよ、従僕は人から生まれるんだから。人が少なければ、自然と生まれる頻度は少なくなる……ああ、あと」
戸惑うレオネにシェオルはまた少し間を空けた。ただ、今度は笑うことはせず視線を変える。
「辺境のほうと都市では従僕の大きさも違うみたい。都市のほうが大きい」
「……シェオルさん?」
シェオルの変化にすぐに気付いたセリッサが不安そうに呼びかける。
そんなセリッサを安心させるように微笑み――ただし、あの時の、入学試験で見せた微笑を返しシェオルはある一点を見つめた。
「――ああ、そうだよね」
何故気付かないのだろうと不思議に思ったが、すぐに納得しシェオルは頷き笑った。
これは戦った者しか分からない。シェオル自身、戦いを重ね感じられるようになったものだ。とはいえ、他の魔法少女も同じかどうかは聞いたことがないので分からないのだが。
ともあれ、
「この空気は覚えておいたほうがいいよ」
セリッサとレオネが気付かないのは当然だろう。
「シェオルさん……」
セリッサはもう一度呼びかけ、シェオルの腕を掴もうと手を伸ばした――
その瞬間だった。




