十六
でも、それは――いや、だからこそ――
「だから、着替えたいんだよ。慣れないといけないのはわかってるんだけど」
「そういえば、シェオルって白似合わないよねぇ」
「今頃? まあ、似合わないのは認めるけど」
「認めるんだ」
「もう、レオネったら。そんなことないです」
セリッサはシェオルに向けて微笑んだ。
敵を常に意識し、戦いを日常として生きてきたシェオルだからこそ、セリッサは今からの生活を、これから始まる魔法少女学園の日常を大切にしてほしかった。
わたしたちは戦う存在だとしても、戦いだけの人生じゃない――だから、シェオルにもそうあってほしい。
「似合ってますよ、とっても」
「いや、だってさ。シェオルっていつも黒着てるイメージがあるからさ」
「そんなことは……」
否定しようとして――否定できずにセリッサはふと別のことに気付いた。
シェオルは確かに黒い服を着ている。『いつも同じ服を』。そして、その事に気付くと同時に別の事にも気付く。
「そういえば、シェオルさんは旅をしていたんですよね」
「うん」
「服とかはどうしてたんですか?」
「え? ああ、基本、ボロボロにならないと買ってなかったかな。少しの破れくらいなら自分で繕ってたし」
「え……じゃあ、もしかして一着とか?」
「んなわけないでしょ。二着よ」
『ええーーーー!!??』
驚く二人に――セリッサがこれだけ声を上げるのも珍しい――シェオルも多少驚きつつ、その気持ちのままを不思議そうに尋ねた。
「そんなに驚くこと?」
「驚くよ、二着しか持っていないなんて聞いたら! あたしでも十着以上は持ってるのに!」
「あたしでもって……。というか、旅をしてたら当たり前でしょ。大荷物なんて持っていけないんだから」
「いや、そりゃそうだけど……じゃあ、洗濯とかは」
「川とか湖とかで洗って、焚火で乾かしてって感じで。でも、街で泊まる時でもないときちんと洗えなかったな。お風呂も街でしか入れなかったし」
『えええーーーー!!??』
再び驚く二人に、多少の面白さも感じつつ――とはいえ、シェオルにとっては驚かれるほうが不思議なのだが――一応女の子として念をいれて付け加える。
「そんなに驚かなくても。安心して、お風呂で洗ったりなんてしてなかったから」
「そっちじゃないよ! 街で泊まれないときは!?」
「川や湖で水浴び」
「…………」
「まあ、気持ちは分からないでもないけど、旅ってそんなもんだよ」
とうとう黙ってしまった二人に笑って、シェオルは歩き出そうとした――その時、
「駄目です!」
シェオルの腕を掴んで、セリッサは驚いた時よりも大きな声を上げた。
「っと、いきなりどうしたの、セリッサ」
「駄目ですよ! 女の子なんですから、きちんとしないと駄目です!」
「きちんとしてるよ。ちゃんと清潔にはしてたし」
「それでも駄目です! 服を買いに行きましょう!」
「え……いや、制服もあるし、二着あれば十分……」
「駄目です! 絶対、駄目!」
こんなに必死なセリッサは珍しい。掴んだ腕を強く握り、何故か少し涙目になって頬を紅くしている。
そんなセリッサにシェオルも珍しく戸惑いつつ……そういった二人の姿を見ておかしさが込み上げながらレオネは妥当な案を出した。
「いいんじゃない、それ。シェオルが旅してたっていうなら街のこともよく知らないだろうし、案内も含めて服を買いにいっても」
「う~ん、案内はありがたいんだけどね。でもまあ、今のままでも……」
「そうですね、行きましょう。ね、シェオルさん」
今だ腕を離さないセリッサに見つめられ、振りほどくわけにもいかず――
「わかったよ、行こうか」
「はいっ」
観念して頷くシェオルに、セリッサは満面の笑顔で返事をしたのだった。




