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黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -  作者: shio
第二章 魔法少女の新入生たち
35/100

十三


 聖堂――アテネの像が祀られている魔法少女学園の象徴ともいえる神殿は、校舎より少し離れた少し小高い丘の上にあった。

 都市(ポリス)のシンボルとなる小高い丘(アクロポリス)に聖堂を建て、そこから学園が設立されるのはどの都市でも一緒だった。都市のアテネ信仰の中心ともいえる神殿なのだが、魔法少女学園の役割もあり一般の人間には開放できないために都市の中に別にもう一つ神殿があり、各所には教会も建てられていた。ただし、年に一度のアテネ生誕日の際だけは聖堂も学園も開放し祭事が行われるようになっていた。ちなみに、一番有名な聖堂は聖都パラス・アテネにあるパルテノン神殿(処女宮神殿)で、これは国のアテネ信仰の中心となっている。

 聖堂の正面玄関、「少女の玄関」には七体の少女の柱像(カリアティード)がある。七体の少女像は七聖女のことで、神殿を支えると共にアテネを守護しているといわれていた。その七体の聖女像に見守られながら、魔法少女たちは聖堂の中へと入っていく。誓いと誇りと絆を持って。

 そして、今日――その誓いの儀に、幼き八人の魔法少女が新たに加わる。


 魔法少女学園では入学式を宣誓式と呼んでいた。

 学園に入るということは魔法少女としての人生の始まりを意味した。それはまさに魔法少女に成るということだ。そして、魔法少女は開花(フルーリール)――つまり、アテネとの誓いによって魔法少女へと成る。その意義において、魔法少女学園では入学式を宣誓式と呼んでいた。

 魔法少女の誓いの象徴、アテネ。そのアテネの像から真っ直ぐ伸びる中央の蒼い絨毯の上を、八人の入学生が歩いていく。

 広い窓から注ぐ朝の光に満ちた聖堂。正面には校章と魔法少女の紋章が施された白い布がそれぞれに飾られており、調度品やカーテンなども白で統一され、より陽光を室内へと溢れさせていた。

 中央の絨毯の左右には木製の長椅子が並び、そこには在校生と現役の魔法少女が座っていた。そして、それに向かい合う形で教職員が椅子に座っており、その中央には、つまり入学生が歩いている絨毯の先には教壇があり、そこにはアテネ像を背にした学園長が立っていた。

 前述の通り、聖堂は魔法少女学園には必ずある建物だ。いや、学園だけではなく一般的にアテネは万民の信仰の対象であり、都市だけではなく小さな街や村にも一つは教会が建てられていた。入学式を宣誓式と呼んでいるのと同様、魔法少女学園では神殿や教会ではなく聖堂と呼ばれているだけで意味合いとしてはあまり変わりはない。


(――いや、そうでもないな)


 建物自体は同じだとしても、魔法少女と魔法少女ではない人間ではアテネに対する信仰に明確な違いがあった。いや、魔法少女の場合は信仰というより姿勢といったほうが正しいかもしれない。

 魔法少女にとってアテネは母であり力の源だった。つまり、魔法少女であるかぎりアテネと自分は一体のものであり切り離すことができない。


「新しき誓いの乙女の皆さん、ようこそアルカンシエル魔法少女学園へ。戦女神パラス・アテネの姉妹として、私たちは貴女方を歓迎します――」


 学園長の挨拶を聞きながら、アルカンシエル魔法少女学園の隊長であり教師でもあるミュゲ・グレックヒェンは現役の魔法少女と上級生たちの視線を受けつつ最前列に並んで整列している新しき誓いの乙女――魔法少女の新入生たちへと視線を向けた。

 これは毎回思うことなのだが、シワ一つない真新しい制服を着た新入生の少女たちを見ると初々しいというよりは幼く感じてしまう。この気持ちは年々強くなっている――つまりは、それだけ自分が歳を重ねているということなのだろう。姉妹というには歳が離れすぎ、だんだんと娘と呼べるような年齢になっていることには違いない。

 そして、これも同じように思ってしまう。おそらくは自分が入学した時も似たようなことを思われていたのだろう。当然だ、現実として、そして、事実として幼かったのだから。年齢も……精神も。


(……いや)


 ミュゲは自嘲気味にもう一度胸中で首を振った。

 似たようなことを思われていた、というのは違うだろう。自分を教えてくれた当時の学園長や教師だったら決してこんな捉え方はしなかっただろう。幼い――まだまだ未熟だとは。

 教え導き、共に成長する喜びよりも、戦えるかどうか、戦えばどうなるかを先に考えてしまう自分とは異なるはずだ。


「――――」


 ミュゲは一度だけ瞼を伏せ、開けると同時にもう一度新入生たちへと視線を向けた。

 ――魔法少女を率いる隊長としては戦えるかどうかは大事なことだ。自分の役割は、教師になっても変わらない。そう考えているし、その考えも変わることはない。疑問とも思ってはいない。


(だが)


 ふと頭に浮かんだことだ。気にすることも、深く考える必要もない。

 しかし、何故そんなことが気になったのかも分かってはいた。


(教師としては見れば)


 戦えるかどうかなどと気にすること事態がおかしなことだった。新入生が「戦えるわけがない」。戦えるように育てるのが教師の――といっても、これも教師として正しい考えではないのだろうが――役割なのだから。


(つまりは)


 ――そう、つまりは自分も教師としてはまだまだ幼く未熟ということなのだろう。初めて教師を担当するのなら、ある意味、新入生と変わりはない。

 そんな自分が、魔法少女として戦う準備を教えていくことになる。すでに戦う準備ができている魔法少女を指導するのとは違う、全くの一から教えていく。

 苦笑してしまう。思っても見なかった、この年齢になって初めてのことを経験し、未熟だと思い知らされるとは。


(未熟か……)


 そこで初めて気付き、内で苦笑した。未熟と感じなくなっていた――向上心というものはとうになくなっていたことを。強さを求めることもなく、毎日の職務をただこなしていた事を。

 そして、思い出す。そうだ。自分が新入生の時はどうだったか。

 強さを求め、日々訓練していた。そして、「エリスの災い」という混乱の日々を戦い抜いていった。

 現在の学園長である白銀の聖女と――漆黒の聖女と共に。


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