十二
レオネ以外でセリッサが入学前から知っていたもう一人がシュティだった。フミュッターヒェン家の三姉妹――アルカンシエル学園で知らない人間はいない姉妹のシュティは三女となる。三姉妹全員が魔法少女というのも珍しいことながら、長女のシエロ・フミュッターヒェンは学生の時から魔法の才に優れ、卒業してすぐに教員に選ばれるほどの実力を持ち、次女のヴィオラ・フミュッターヒェンは今だ学生ながら姉と同じく将来を有望されていた。
そんな姉二人がいたため、初等学園の頃からすでに魔法少女となることができたシュティも学園へと来ることが多かった。ファーノが身内と話したのもそういう理由だ。自然、セリッサとも知り合いになり、似た性格もあってか良く話すようになっていた。そして、セリッサとすれば学園の生徒にすでに知られているという気持ちを共有できる唯一の存在でもあった。
「え~、うそっ! だれだれ!?」
「ふふ、それはもう少しで分かると思いますよ。焦らなくとも、式の中で発表されますから」
「ええ~、そうだけど気になるよ~!」
「気になるー」
「後のお楽しみです」
「暢気なものね」
レオネに続けるようにふわふわした声を上げるシアを優しく撫でるシュティを見て、ファーノは苦笑し――というより、シアが小さいためシュティの妹のように見えてしまう――独り言のように呟いた。
「まあ、できることなら……私は学園長かミュゲ隊長に指導して貰いたいけどね」
「ミュゲ隊長!? ええ~、ミュゲ隊長はちょっと……」
「ちょっと、なに?」
「いやだって、厳しそうじゃん」
「だからよ。まあでも、無理だろうけどね」
聞きとがめたレオネに少し厳しい視線を向け、ファーノは溜息を付く。
「…………」
そのファーノの姿をセリッサは複雑に見つめた。ファーノの気持ちはセリッサも理解できなくもなかった……シュティとは違う立場でファーノとは気持ちが共有できる人間なのだ。
以前からの知り合いではない。お互いに初めて会ったのは二日前……だが、おそらくは互いを誰よりも認識し、意識しているはずだった。ファーノが「聖女の娘」と使ったことがまさにそうなように。
名門ネルケ家の魔法少女。聖女を叔母に持ち、その期待と名声を背負い、それに応えるだけの実力を備えた新入生ファーノ・ネルケ。誰よりも誇りを持ち、そして、ミュゲに指導されたいという言葉通り誰よりも強さを求めていた。
セリッサが「聖女の娘」なら、ファーノは「聖女の姪」なのだ。聖女に近しい魔法少女という立場では、おそらくはセリッサがもっとも気持ちが分かる新入生に違いなかった。
そこまで考え、セリッサは改めてまた思う。
(本当に、今年は――)
優秀な魔法少女が揃っていた。いや、偶然と思えないほど揃い過ぎている気さえする。
そう――自分のルームメイト、シェオルを含めて。
「……そろそろ時間だ」
イリスの声に、シェオル以外の五人は話を止めた。剣聖の孫、イリス・アイリ――武術、体術においてはおそらくは現役の魔法少女でさえ敵わないであろうイリスは静かにこちらへ視線を向け、そして、すぐに聖堂の方へと向き直る。残り一人、天才といわれる魔法少女、ステル・マーンはすでに聖堂へと歩き始めていた。
「そうね、行きましょう」
ファーノは応え、すぐに歩き出した。そのことで、並ぶ順番も決まる。
「うう~、緊張するな」
「うん、きんちょうするねー」
「……全然緊張してるようには見えないんだけど」
「んー?」
「ふふ、さあ、行きますよ」
ステルの後にイリスが続き、ファーノ、シア、シュティ、レオネと歩いていく。
「どうしますか、シェオルさん?」
「ん? ああ、一番後ろでいいよ。寮に入ったのも最後だったし」
「分かりました」
「一番後ろだと、誰にも気を使わずゆっくり歩けるしね」
「ふふ、もう」
シェオルの言葉に笑い、セリッサも歩き出した。
朝の閃光射す中、穏やかな風を受けながら八人の少女は聖堂に向かい歩き出す。
それぞれの想いと、誇りと、希望と絆――そして、意志を持ち、魔法少女の始まりの一歩を進めていく。
もうすぐ、宣誓式が始まる。




