十一
「あはは、ごめんごめん。っていうか、やっぱりあたしたちが最後?」
「そうよ。中等生、高等生はもう集まっているし、式の準備も終わってるわ」
軽く手を挙げ笑いながら問いかけるレオネに、肩にかかったクリムゾンローズの燃えるような煌く髪を軽く払い靡かせながら声をかけてきたその少女――ファーノ・ネルケは腰に手を当て凛と紅の視線を向けながら胸を張って言い放った。
「うわ、ほんとに。もうちょい余裕があると思ってたんだけど」
「すみません、お待たせしてしまって」
「おはようございます、レオネさん、セリッサさん、シェオルさん」
「おはよぉ」
しまったなぁ、という顔をするレオネと謝るセリッサの後に、柔らかなウェーブのかかったカシュミールの長い髪を弛ませ、眼鏡をかけた優しい微笑みの少女――シュティ・フミュッターヒェンが包み込むような穏やかな声で挨拶し、続けて、朝の白い閃光に金の髪を輝かせ八人の中で一番背の小さい可愛い少女――シア・オルテシアがふわふわした無邪気な声をあげて挨拶してくる。
「おっはよー」
「おはようございます」
「おはよう」
レオネ、セリッサ、シェオルがそれぞれ挨拶を返しつつ――セリッサは何気なく言葉を交わしていない二人に視線を向けた。
視線だけは向けてくる一人と、無関心なまま風景を眺めている一人。
長く綺麗な黒髪に雪のような白い肌、鋭い藍の瞳を向けてくる長身の少女――イリス・アイリと、
短いシルバーの髪にサファイアのような蒼の瞳。シアとは正反対の透き通った透明さを漂わせた氷の結晶のような少女――こちらにはまったく無関心に遠くの風景を眺めているステル・マーン。
これで八人。魔法少女の新入生が全てが揃ったことになる。
(……レオネじゃないけれど)
セリッサは内心で改めて思ってしまう。自分はともあれ、確かにそうそうたる新入生たちには違いない。
当然ながら全員がここで初めて顔を合わせたわけではない。すでに互いのことは知っている――本人から聞いたことも、本人から聞いていないことも含めて。だからといって、知っていたとしても仲が良いわけではなかった。これも当然で、まだお互いに会ったばかりなのだ。仲が悪いわけではなく友達と呼んでいいのだろうが、『親友』と呼ぶにはまだ早すぎた。
この八人がこれから同じ教室で学び、一緒に暮らしていく。親友よりももっと深い魔法少女の仲間として、共に戦う絆と誓いの乙女として。
「先生方も、もう?」
親子や姉妹よりも強い魔法少女の絆――おそらくは全員が共有しているであろう不思議な感情を心に抱きながら、セリッサは魔法少女としての誓いの場、宣誓式がある聖堂へと視線を向けシュティに問いかけた。
「ええ、上級生の皆さんと同じく、すでに式のほうへ参列しています。後は、式が始まり次第、私たちが行くだけです」
「げ、ほんとにギリギリだったんだ。後で怒られるかな」
「ふふ、大丈夫ですよ。こうして間に合っているんですし」
「担任によるんじゃない、それは」
「そっか、担任もまだ決まっていないんだよね。セリッサは何か聞いてる?」
「さすがに、それは……」
「そっかぁ、残念」
「当たり前でしょ、いくら学園長の娘といってもそういうことを教えるわけがないじゃない」
「そうですね」
ファーノの「学園長の娘」という言葉に、セリッサは苦笑した。悪意を込めた言葉ではないとは分かっているが、初めて会った時のことをどうしても思い出してしまう。ファーノの第一声は、「貴女、白銀の聖女の娘ね」だったのだ。最初は驚いたが、短い時間ながらもファーノと接するうちにどういう性格かも分かってもきていた。そして、何故、第一声で「聖女の娘」と使ったのかも。
「まあ、それもそうだよね。じゃあ、シュティは?」
「すみません、私も分かりません」
「そっか、やっぱり」
「だから言ってるでしょ。いくら身内でも、そういうことを話すわけがないって」
「ふふ、でも、教室を担当していない先生方の中でしたら、この人かもっていうのはありますよ。セリッサさんも考えているんじゃありませんか?」
呆れるファーノにニコリと微笑みを向けてから、シュティはセリッサに問いかける。
「そうですね、少しは」
少し考え込むように顎に手を当てコクリと頷き、セリッサはシュティへと優しく微笑み返した。シュティから微笑まれると、自然とこちらも微笑んでしまう。それは、会った時からいつも変わらない。




