二十一
「なるほどね」
だが、話を聞くうちにセリッサが迷っていた理由も思い浮かび、シェオルは小さく呟いて一人頷いた。
セリッサは「寮に入ることを迷っていて」と話した。寮と自宅のどちらを選んでもいい自由があるのに、寮に入ることを考え迷っている。迷うくらいなら自宅から通えばいい話なのだが、つまりは、家から距離を置きたいということなのだろう。
いままでの態度を見て……といっても、会ってからそれほどの時間が経ったわけではないが、その短い時間でもセリッサの態度を見て家から離れたい気持ちはシェオルも何となく分かるようになっていた。
十二歳という年齢もあるだろうが、魔法少女として学園に入学するのであれば、学園長であり――そして、魔法少女の中で『七人』しかいない聖女の称号を持つ母とは距離を置きたいという気持ちが沸くのは不思議なことではなかった。思春期という簡単な話ではなく、学園に入学すれば、母と娘を含め学園長と生徒、聖女と魔法少女という三つの関係ができてしまうことになるのだ。
(だからといって)
すぐに寮に入るというのも決められなかった。まさに、母が学園長であり聖女だからこそ寮に入ることにも様々な問題があるのだ。
セリッサ自身は気にしないようにしても、寮で一緒に生活するとなれば周りが母親のことで何かと気にする場合もある。特別扱いなどはしないだろうが、「気にさせてしまう」ということだけでもあまり良いことではなかった。
(まったく)
「タレントは大変だねぇ」というのと「面倒だなぁ」というのを一緒にしてシェオルは胸中で呟いた。周りが抱く感情を制限などできないし、それを責めるのは酷だと分かっていても面倒なのには変わりはない。
「でも、寮に入ることにしたんでしょ?」
「……はい」
シェオルの問いかけにセリッサはこくりと頷き伏せた顔を上げ――
「…………」
シェオルと視線が合った瞬間、すぐにまた目を伏せ俯いてしまった……俯いたことは同じでも、今度は微かに頬を染めたまま。
「? なに?」
「いえ、あの……先程、母から、いえ、学園長から話されたことなのですが、わたしはシェオルさんと一緒の部屋になりました」
「あ、そうなんだ」
「はい、これからよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
意を決したように頬を染めたまま話すセリッサの態度は疑問だったが、それはあまり気にせずにシェオルはにこっと微笑んで答え、すぐに冗談交じりに問いかけてみた。
「寮に入ることにしたのは、わたしを監視するため?」
「っ、そんなことありません! わたしもシェオルさんとっ!!」
「あはは、冗談だよ」
怒ったように否定するセリッサの頭をぽんっと叩いて、シェオルは歩き出した。
「ぇ……あっ!? シェオルさんっ」
慌ててパタパタと追いかけてくるセリッサを背中に感じながら、シェオルは別のことを考えていた。
セリッサは確かに監視などは考えていないだろう、だが、
(学園長はどうかな)
胸中で呟き、笑みを浮かべる。まあ、注意されるようなことを散々している為、仕方がない……というよりも、すでに今更な感じではあった。逆に注意されないほうが不思議だろう。
あまり意地悪をして困らせるのも大人げなかったが、とはいっても、感情的に性分として抑えられるものではなかった。
(ま、それも含めて仕方がなかったけどね。入学するためには)
そう、ともあれ入学はできた。全てはこれからだ。
「さて、がんばらないとね」
「え?」
「これからのこと。がんばっていかないとね」
「はい、そうですね」
にっと笑うシェオルに、横に追いついたセリッサもにこりと微笑みを返した。
「がんばっていきましょう」
おそらく、同じ「がんばる」でも、自分とセリッサでは違う意味なのだろうが――
それでも学園生活の第一歩をシェオルとセリッサは一緒に踏み出した。




