二十
「――すみません。お待たせしました」
「いいよ。もっと色々面倒かなって思ってたんだけど、意外と早く終わったし」
学園長室から出てきたセリッサに笑って応え、シェオルは書類の束をパンと手の甲で叩いた。
実際、試験の時のこともあり、もう少し教頭から色々いわれるのではないかと思っていたのだが、そういうこともなく入学手続きはスムーズに終わった。多少……いや、多分に棘があったが、それくらいは大目に見ないといけないだろう。
その後、シェオルは一人だけで学園長室を退出して待っているようにいわれ、そして、今セリッサが出てきたのだった。
「では、寮に案内します」
「うん、よろしく」
にこり微笑むシェオルに微笑み返しながら――内心は動揺しつつ、セリッサは先導して歩き出した。
「そういえば、寮って一人部屋?」
「いえ、二人部屋になっています。卒業すれば一人部屋になることもできますが、学生の時のまま二人で住んでいる方が多いですね」
校舎の廊下を歩きながら窓の外を眺めふと呟いたシェオルにセリッサは答え、苦笑して続けた。
「新入生でどうしても人数が合わず一人になる場合もありますけど、その時は同じように一人で住んでいる先輩と一緒になることもあります。逆にどうしても人数が合わず、ずっと一人のままの時もたまにありますが」
「ふ~ん。わたしは?」
話の当然の流れとしてセリッサへと問いかけ、シェオルは書類に視線を落とし軽くぱらぱらとめくって更に重ねた。
「さっきの手続きの時は説明されなかったけど、わたしはどうなってるの? 一人?」
「いえ、シェオルさんは――」
セリッサは一瞬の間を空け言いよどみ、迷いつつ少し緊張しながら口を開いた。
「シェオルさんは……二人で住みます」
「そう」
そんなセリッサの表情を気にすることなく、そっけなく答えるシェオル。
普通なら「誰と?」と聞くところなのだと思うのだが、シェオルはまったく興味がないように見る必要がなくなった書類から顔を上げ、変わりに別のことを口にした。
「じゃあ、セリッサは? ……ってごめん、セリッサって呼んでいいよね?」
「あ、はい。そうでした、ごめんなさい」
今更のことに気付きセリッサは顔を赤らめた。シェオルの名は聞いたが、自分の自己紹介はまだだったのだ。いや、「あの人」だと思い込んでいたので、シェオルが知っていると勘違いしてしまっていた。
そして、同時に先程の疑問も解決する。普通の新入生でもお互いに面識があることはほとんどないのに、旅をしていたシェオルなら尚更「誰と?」と聞いてもしょうがないことだった。聞いても誰だか分からないのなら、聞かなくても同じだろう。
……それでも、「誰と?」と聞くのが普通の感情のような気もするが、それはともかく。
「自己紹介が遅れてすみません。セリッサ・フリンデルといいます。わたしもシェオルさんと同じく新入生です」
「やっぱりそうなんだ。なんとなくそんな感じはしていたんだけど」
自分の名前を聞いて学園長のこと……母のことを言われるかと思ったのだが、それ以上のことはなくシェオルはまたあっさり流した。気付いていないはずはないはずだが、やはり興味がないように自分の質問の続きを口にした。
「じゃあ、セリッサも寮に入るんだね」
「ぁ……はい。そうですね」
「どうかした?」
視線を向けてくるシェオルに、セリッサは瞳を伏せた表情のまま小さく呟いた。
「実は、さっきまで寮に入るかどうか迷っていたんです」
「あれ? 魔法少女って全員寮に入らなきゃいけないんじゃないの?」
「いえ、必ずしも寮に入らなきゃいけないわけではないんです。特例があって――」
そこでまたセリッサは言葉を止めるが、今度は意を決して続きを説明した。できれば自分から母のことはあまり話したくはなかったのだが、これからのことを考えても避けては通れない話だったし、もう自分の母のことを知られているのなら隠すような言い方をしても無駄だろう。
「結婚した魔法少女は、寮に住まなくてもいいようになっているんです。もちろん学園の近くに住まなければならないという条件はありますが、学園外に家を持つことができます。そして、更に特例として、娘も魔法少女だった場合は母と同じく自宅から学園へ通っていいようになっているんです。もちろん、寮に入ることを禁じられているわけではなく、自宅か寮かを選ぶことができます」
「そうなんだ」
シェオルもセリッサの母のことは口にせず、ただそれだけ言って天井を見上げた。「お母さんも魔法少女なんだ」などと確認して言う必要はないだろう。




