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エンデ・デアヴェルト ≪終わりと始まりの物語≫  作者: 松ぼっくり
第1章 「遭逢」
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第4話 明かされる真実 (2)


「じゃあ、始めましょう。これは、今から20年以上前…」


私が、オノーレス王国第3代王の次女、ラマラシア=エンデ=オノーレスと呼ばれていた頃の話。


--------


15年前、椿の月。


「姫、カディエです」


もはや聞き慣れた木製の扉を叩く音が4回、耳に届いた。既に気が重い。


「開いているわ。入りなさい」


失礼しますと、扉の開く音と共に声が聞こえる。中に入って来たのは私の専属侍女であるカディエだ。


「失礼します、姫。お話を伺いたく参りました」


あ、怒ってるな。私はカディエの雰囲気で瞬時に判断した。無理もない。私は第二王女であるにも関わらず、それに伴う振る舞いは一切していない。今回も、大方それに関することだろうと思っていた。


「ですが、その前に姫にお聞きしたいことがあります」


あれ、いつもみたいに説教から入らないんだ。そんなことを思いながらなーに?とカディエに尋ねる。


「その…、こう言ったことを聞くのは、少々気がひけるのですが…」


普段から思ったことはズバズバ言ってくるカディエにしては珍しく言い淀んでいた。それほど聞きにくいことなのだろうか。それならば、こちらから催促するしかない。


先を促すと、カディエは思い切ったように私を見つめて、


「カイウス、という男性をご存知でしょうか?」


瞬間、私は固まった。まるで神話に出てくる女神ゴルゴーンの石化の魔眼を見たかのように固まった。なんで、なんでカディエの口からその名前が出るの。


すると、カディエは一つ大きなため息を吐いて、


「その反応から察するに…、知っているんですね。それに、噂も本当なのでしょう」


う、噂?!一体なんのことだ、皆目見当もつかない。いや、逆だ。心当たりがありすぎで、どれだかわからないと言った方が正しい。


「あ、あのね!カディエ!その、彼とは別にやましい関係じゃなくてね?!」


自分でもびっくりするほど声が裏返っていた。あちゃあ…、これじゃやましい事ありまくりに見えるじゃん!


そんなこんなで数秒おきに感情の入れ替わりが起きる私を見て、カディエはふふっと笑い、けれど、すぐに真面目な顔に戻って、


「昨日、アイリス様からの命を受けて、僭越(せんえつ)ながら姫の密会を尾けさせていただきました」


と、爆弾を投下して来た。


--------


私と彼、カイウスが出会ったのは今から2年前、私がまだ18歳の時だった。その頃、私は王族の責務だなんたらと頭が痛くなる毎日に嫌気がさしていた。2つ年上の姉であるアイリス=エンデ=オノーレスは、息子がいない父とこの国にとっては事実上、次の王となる人間だった。


幼少より学問においては他方の研究者からお声がかかるほどの博識であり、芸術においても様々な楽器を用いて、来賓用の演奏会を開くこともしばしば、剣においても闘技大会細剣の部で優勝するなど、世界のありとあらゆる才能を詰め込んだ人だった。


それに比べて私は、学問は中の下、芸術は怪物を生み出していた。唯一、姉に勝るとも劣らなかったのは剣の才だったが、女としてそこだけ勝っているのはどうにも複雑だった。


白状すると、私は姉に嫉妬していた。誰もが羨む美貌を持ち、ありとあらゆる才能を持ち、そして次代の国を担うというまさに約束された栄光の象徴だった。


それでも、他所では完璧な王女の振る舞いを見せる姉が、唯一人間らしい態度を取るのが私の前だった。父の外遊に付き添い、帰国した日などはもう酷かった。


何時間も私の部屋に籠り、土産の菓子類を漁り、そして私のベットで私を抱き枕にして寝る。皆が羨望(せんぼう)の眼差しを向ける王女はどこへ言ったのやら。確かに、私はこの姉に嫉妬していた。けれど、それ以上に大好きだった。


「アイリ姉様、こんなとこで寝ちゃダメだよ」


「いーやーだ。最近、ラマラの顔見れてなかったんだもん。今日はここで寝るの」


「もう…」


口では嫌がるそぶりを見せるが、本当は嬉しくてにやけるの誤魔化しているだけだ。それは姉にも気づかれているのだろう。だからこうして、私を抱いたままにしているのだ。


私は、姉に打ち明けたいことがあった。


「あのね、アイリ姉様。話したい、というか、相談したいことがあって」


そういうと姉は、猫のように起き上がり、目を輝かせながら私の方を向いて、


「なになに!ラマラが私に話したいことだなんて!ねぇ、何?」


まるで子供が新しいおもちゃを見つけたかのようなはしゃぎっぷりだった。


その様子に、少し緊張していた心はほぐれてしまった。


「あのね、あのぉ…、私ね、好きな人が、い」


る、をいう前に姉は私の肩を掴み揺さぶりながら、


「だ、誰よ!私の可愛い妹を取ろうとするのは!!」


「も、もう!話はちゃんと聞いてよ!まだ、お付き合いとかそういうのはないから!」


あ、そうなのとさっきまでの気迫はどこえやら、再び甘えモードに戻った姉は、今度は冷静に聞いてきた。


「それで、ラマラは好きな人がいるのね?」


うん、と一言だけ答える。すると、姉はくぅーっと意味不明な声を上げ、また私に抱きついてきた。


「そうかぁ!そうよね、ラマラももうそういった年頃だもんね、ねぇ、どんな人?」


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!」


姉を強引に引き剥がすと、手元にあった菓子を口に突っ込む。

モゴモゴと何か言ってるがよくわからない。というか、王女の振る舞いは何処へいったのよ。


「彼、カイウスって言うんだけど」


うんうん、カイウスくんね!


ちょっとは黙っててよ。


「王立院で、二つ年上の人なんだけど、騎士科に所属してて、もうすぐ王国親衛隊の入隊試験を受けるの」


それで、合格したら君に話したいことがあるって言われて。


そういうと、姉はもう王族の威厳など外遊で置いてきたのかといった風に迫ってきた。


「それって愛の告白じゃない!!!やったわね、ラマラ!」


「や、やっぱり…、そうだよね」


私の口調を気にしたのか、姉は少し落ち着いたのか、私の目を見てゆっくりと口を開く。


「何か不安なことがあるの?」


やはり、こういうところが姉なんだなぁと思いながら、正直な心情を告げる。


彼は貴族の家の者ではあるが、下級貴族の末端の方で、王立院での素行の良さと剣の腕が認められて親衛隊の試験に推薦されている。

そんな正に騎士たる心を持った青年だから出会ってすぐ恋に落ちた。


けれど、私は王族で、彼は下級貴族。もしお付き合いするとなれば弊害は大きい。当人たちの想いなど関係なく、公になれば彼が不幸になることなど目に見えている。それを考えたら、やはり彼から受けるであろう告白は断るべきではないかと。


私が抱える悩みの種を全て姉にぶつける。すると、


「そんなに迷うこと?」


と、たった一言だけ返ってきた。


「ま、迷うよ!ていうか、なんでそんなに軽いの?」


「だって、好きなんでしょ?ラマラは、そのカイウス君のこと」


そう直接的な言葉を告げられ、顔が熱くなる。


はいはいご馳走様などと聞こえてくるが今は無視だ。


「だって、私は王族で彼は…!」


「それ、そんなに重要なこと?」


え、と私は口をぽかんと開けた。姉は続けて、


「ラマラの考えも分かるわ。貴方も、ちゃんと成長したのね。けれど、少し考えすぎ。いい、貴方は確かに王族の人間。将来、お父様の後を私が継いで、その隣に立つ人間よ。」


そこまで聞いて、改めて自分の立場を思い知らされる。さらに姉は続けて、


「そうね、確かに身分は大事よ。特に、私たちのような権力者にとって、婚姻は命にすら関わってくるほど重要なものよ。」


やはり、そうだ。身分の差がある以上、私たちにはどうすることもできない。いくら彼が好青年だったとしても、世間がそれを認めてはくれないのだ。


「けれど、それよりももっと重要な、大切なことがあるのよ」


分かる?と姉は聞いてきた。それが分かれば苦労はしていないし、こんな悩みも持っていない。私が黙っているのを見て、姉は優しく微笑み、


「愛よ」


と、天使のような眼差しで言った。


--------


それから、カイウスは無事に親衛隊の試験を首席で突破し、会場に足を運んでいた父、つまり王の目にも留まり、見事最年少での王国親衛隊の隊員となった。


その夜、私とカイウスは姉の計らいもあって城から少し離れた所にある、他国の有権者を招く際に用いられる施設を用意してくれたこともあって、私たちは一夜を共に過ごした。


それはとてもとても優しい時間だった。この時が永遠に続けばいいのに、そんなことも思っていた。


それから半年ほどの月日が流れ、ある日、私は体調を崩して医者へと通っていた。数日の検査の結果、私のお腹の中に新たな命が宿っていることがわかった。


私が愛する人との子を宿していることを知ったその日、カイウスが任務先で殉職したという知らせが、彼の持ち物に入っていた指輪と共に私の元へと届けられた。


獰猛(どうもう)化した魔物から、小さな子供をかばって亡くなったということを聞き、彼らしい最期だと皆口を揃えて言ったが、私の耳には何も届いていなかった。


部屋に籠る日々が続き、徐々に痩せ細っていく私を見て、姉は何度も声をかけてくれていた。それでも、私の目に光が戻ることはなかった。


そして、追い討ちをかけるかの如く、姉が倒れたという知らせが侍女のカディエから届けられた。


寝間着のまま姉の部屋へ向かうと、そこには父と母、そしてベッドに横たわる姉の姿があった。


「アイリ姉様……」


「ラマラ、よかった。元気になったのね」


「…っ!」


こんな時にまで、姉は私の心配をしてくれていた。今は自分が辛いはずなのに。気づけば涙を流していた。父と母が何か言ってくれていたが、何も耳に入らないほど声をあげて泣いた。


それから私の生活は変わった。輝きを失った目は光を取り戻し、姉がしていた公務の全てを請け負い、そしてこなし続けた。


かつて、私を姉の劣化品だと罵った国議員の人々も、いつしかその在り方を見るうちに力を貸すようになっていた。その姿はまさに、一国の王とも呼べる姿だった。


さらに数ヶ月が過ぎたが、姉の身体はこれまでの負担が積み重なっていたのか一向に良くなる気配を見せなかった。そんな時だった、特級貴族の公子と、姉の婚姻の話が浮かび上がった。


姉からは、男性の話を一度も聞いたことのない私はカディエに話を聞き、怒りに震えた。


要するに政略結婚だったのだ。姉の快復が望まれない今、戴冠40年を迎え、王の席を次世代へと譲る時期に差し掛かった父には、すぐに後継となるものが必要だったのだ。


男の子に恵まれなかった両親、王と王妃にとって姉は天からの贈り物でもあった。国民も皆、姉がこの国を治めることをよしとしていた。


それは、言い換えれば私は必要ないということである。姉の劣化品、その言葉が今は深く心に突き刺さる。


話が出ている貴族は、初代王の時代から由緒正しき貴族であり、王家とも親交が深いとのことだった。国議員からも、彼ならばと承諾の声が上がる。つまり、姉の代わりにと努力をした私は、もうすでに必要がない存在なのだった。


もう私には何もなかった。直接言われたわけではない、私の思い込みかもしれない。けれども、事実が重くのしかかってきた。


「もう、疲れた」


そんなことを呟いた時だった。突如吐き気に襲われ、部屋に倒れこんだ。薄れ行く意識の中、カイウスの声が聞こえた気がした。


--------


目が覚めたとき、見慣れぬ天井が目に入った。


「どこ…、ここ」


起き上がろうとしたが、体全体に激痛が走りそのまま横になった。


「病院?」


鼻にツンとくる匂いや、白い壁に囲まれていること、そして私の腕から伸びている細いチューブ見れば、ここが病院であることは明らかであった。


「姫!目が覚めましたか!」


突如、耳に声が響いた。それは、普段私のお世話焼をしている侍女に似た、しかし普段の凜とした声ではなくかすれた弱々しい声だった。


「良かった…、本当に、良かった…!」


「カディエ…、ねぇ、私はなんでこんなところにいるの?」


そう言うと、カディエは目を見開いて、


「何も、覚えていないのですか?」


頭に疑問符が浮かぶ。一体何を言っているのか、ぼんやりした意識の中、最後に覚えていた消しを思い出した。


「そうだ、私、急に気持ち悪くなっちゃって、それで…」


カイウスの声が聞こえた気がして、そのまま倒れちゃったってわけか。そっか、やっぱり幻だったんだ。


私は2日ほど眠ってきたらしい。カディエの声を聞いたのか、すぐに父と母が駆けつけてくれた。姉の姿が無いのを見て、まだ快復していないことも分かった。


さらに分かったことがある。カディエが、少し待っててくださいと言った後に、医者と共に戻って来た。


そして今、私の腕の中には暖かく、小さな命が眠っている。


私が意識を失った理由、それは出産だった。カイウスが残してくれた光、公務にかけめぐる中、何回かは病院で検査をしていたが、ここ最近は激務で忘れていたことを思い出した。


そんな中、いつのまにかその時が来ていたのだ。


いきなりダメな母親だなぁ、そんなことを思いながら、胸の中で眠る命に微笑みかける。


そして、私はある決心をした。


「カディエ、私の最後のわがまま聞いてくれる?」


強い意志を持って、これまで20年間、私を支えてくれた侍女に願いを告げた。


--------


「それじゃあ、私行くね」


城下町の門の前で、フードを被った私は目の前の女性と隣に立つ男性に告げる。


「本当に、本当にこれでいいのですか。姫」


そう言うのは、少し前まで私のお世話をしてくれていたカディエだ。


「うん、私にはその子を見守る資格がないの。それに」


もう、疲れたから。


その言葉を聞きカディエは涙を流す。隣に立つ男性が彼女の肩を支えた。


--------


私は退院したあとすぐに部屋の荷物をまとめた。それは、生まれた子供をカディエに預け、否、捨てて遠い異国の地へ一人で旅に出ると言う理由からだった。


自分を取り囲む全てが嫌になっていた。王宮内に味方はなく、心の支えでもある姉は倒れ、そして、ベットで眠る小さな命は、かつて夫となるはずだった人を思い出して涙を流させるためのものでしかなかった。


それら全てから逃げるために、私は全てを捨てることを決めた。


カディエに全てを告白し、何度も何度も説得にあった。揺るがない私の決意を、もう何度目かわからない説得の末、カディエは受け入れてくれた。


私たちの子供はカディエが密かにお付き合いしていた男性と結婚すると言うことで、彼女に預けたいと申し出た。幸い、相手の男性も快く引き受けてくれた。聞けば、カイウスを指導していたことがある元騎士科の人間らしい。


そうして、生まれたばかりの子供をカディエたちに託し、私は愛する両親と、姉にすら何も告げずに王国を出た。


それは、辺り一面に薄紅の花が咲き誇る桜の月のことだった。


--------


王国を出てからすぐに、第二王女失踪の報せは耳に入った。しかし、それも数ヶ月経つと風の噂程度になっていた。


それも、姉と特級貴族との婚約が済み、国議員や国民の祝福の元で式が挙げられ、その後王国始まって以来の王族以外の人間が王の椅子に座るという歴史の新たな項を刻む出来事があったからだ。


そして、その後数日足らずで姉が亡くなったという報せが届いたが、不思議と涙は出てこなかった。


涙なんて、もう流し切っちゃったのかもね。


それからどれくらい経ったのだろう。いくつもの街を超えて、気づけば王国から最も離れたグリモワース領の辺境の街へたどり着いた。


たまたま目に入った森の近くにある小さな教会に立ち寄り、そこでいつしかシスターとして生きるようになっていた。


名字は伏せ、ラマラシア、とだけ名乗る生活が始まった。


--------


「遂に、遂にこの時がきた。長かった。あぁ、私が全ての財を費やして創りあげた最愛の息子よ。我が目的のためとはいえ、暫しの別れとなるが悲しむことはない。お前は英雄となって私の元へと帰ってくるのだ。」


--------


「今日もいい天気ね。森も綺麗に薄紅に染まってきているわ。」


今年もまたこの季節がやってきた。ラマラシアは森全体が薄紅に染まり、祝福の音を響かせるこの季節が好きだ。他の季節にもそれぞれ趣があって好きだが、それでも新たな出会いをも予期させる(もちろん、別れも)今が最も心が躍る季節だ。


「あら…、何かしら。もしかして、子供?」


ラマラシアがいつも通りの道を歩いていると、そこには森の生き物たちに囲まれて小さな赤子が眠っていた。衣服の類は何も身につけておらず、鳴き声もあげずに穏やかに眠っていた。かといって周りに親の姿は見当たらない。そもそもこの森自体、普段は自分以外あまり立ち寄らないのだ。


「捨て子、なのかしら。」


とにかくこのまま放っては置けないと、ラマラは赤子を抱え教会へと戻った。道中、赤子を心配するかのように後をついてきた森の動物たちに、大丈夫よ、ありがとうと微笑みかけると動物たちは森へと帰っていった。



「親族の方が見えるまでは教会で保護しましょうか。こんな小さな子を放ってはおけないものね。」


いつになるかは分からないがこの子を産んだ両親が迎えに来るかもしれない。それまではきちんと世話をしなければと子を持ったことはないが元から備わっている母性なのか、もしくは未だ拭い去ることのできない過去の過ちへの贖罪か、なんにせよこの出会いを神に感謝しなければならないと祈りを捧げ、ラマラシアも眠りについた。



















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