第27話 新天地、その前に
ラマラシアとの別れから、季節は2つほど巡った。未だその正体は掴めない未来人、神話の妖精王、そして一つ目の輪環の章。科学国家スキエンティスでの出会いと経験は、これまでの人生で最も濃い時間となった。そして、次なる章を求めて俺たちは王都オノーレスへと旅立った。
「お客さん、長旅ご苦労さんでさぁ。もう間も無く、オノーレスが見えますぜ」
馬車の運転手の声を聞き、窓から顔を出す。その姿は、正にこの世界の中心たるに相応しい者だった。何人も許可なく入る事は許されないと雄弁に語る城壁。その奥に見える王宮が、かつてラマラシアが住んでいたオノーレス王家が座する所。
その圧倒的な姿に、俺とエリカは息を飲む。
「すっごい大きいね…、あんな建物…?見たことない」
「ここから見えるものはオノーレスの一部だ。私達の向かう北門は外国からの入国者を管理している。他に3門オノーレスへの道はあるが、それぞれがスキエンティスの端から端までほどの距離はあるだろう」
エリカは驚きと興奮を隠せないといった様子で目を輝かせている。
「外国からオノーレスに来る人は珍しいの?」
「いや、昨今はそう珍しい事もない。3代国王様が統治されていた時は今より検閲が厳しかったと聞くが、元より来るものは拒まずがオノーレスのあるべき姿だ」
ヴェリエントスは姿勢を正し、運転手の方へ体を向けた。
「車夫殿、ここまでの荷引き感謝する。道中問題もなく、非常に快適だった」
「いえいえ、こちらこそ礼金を弾んでもらって感謝でさぁ。最近、野盗が多く出るってもんで出国も入国も人気がなくて仕事にならなくて困ってたんだ」
「野盗…?オノーレスの近くに出るんですか?」
俺の問いに対し、
「何でも、4代目の王様が長くないって噂が流れましてね。王宮内に多く人が集まってて外の警備が薄くなってるんだそうで。その噂を聞きつけた夜盗が…」
運転手の話の途中だった、俺たちの前を進む馬車から馬の鳴き声が轟いた途端、馬車の周りを何人もの薄汚れた人間が囲っているのが見えた。
「噂をすればなんとやら…。あぁなっては身ぐるみ剥がされて有り金を持っていかれておしまいでさぁ。お客さん、少し遠回りになりますが迂回して…」
「助けようよ!リカルド、ヴェル!」
エリカが強く拳を握り、俺たちを見る。
「大丈夫、俺もそのつもりだった」
そう答えると、エリカはニカっと笑い、腕をブンブンと回す。
「そういうことだ。車夫殿、すまないが前方の野盗どもに馬車を寄せてくれないか。危険には巻き込まない」
「あ、あんたら…あの野盗はその辺の雑魚じゃ!何でも傭兵崩れの輩だそうで…素人が勝てる相手じゃねぇぞ!」
「大丈夫だよ!アタシ達強いから!」
エリカがぐいっと胸を張って答える。俺とヴェリエントスが頷いたのを見て運転手は頭を抱え、どうなってもしらねぇぞ…と呟き馬車を走らせる。
「あんたらが飛び降りたあと、もう少し先に行ったところに馬を止めて置きまさぁ。あんたらが善人ってのは何となくわかる。無茶はしないでくだせぇ」
「感謝する。リカルド、エリカ、私の合図で馬車より降り攻撃を仕掛ける。準備はいいか?」
「いつでも」
「任せて!」
俺とエリカの意気込みを見て、ヴェリエントスは目標を定める。
「では、行くぞ。3…、2…」
今だ、と武器を構えたとその時だった。襲われている馬車から何か人影のようなものが飛び出す。
人影は空中で回転し、そのまま野盗の1人へと落下すると同時に、その手に持つ長物の獲物で一撃を叩き込む。
「グッ…?!」
「な、何が起きた?!」
砂埃が収まり、人影の姿が目に入る。そこにいたのは、見た者の心を一瞬で奪い、夢現にするといっても過言ではない程透き通った黒髪を一つに束ねた女性だった。
「貴方達が昨今、城下を騒がせている野盗ね」
「けっ。なんだ、女か。おい女、痛い目に会いたくなかったらさっさと金目の物を…」
「一度だけの忠告です。今すぐ武器を収め、警備騎士に自首しなさい。そうすれば、大事にはしません」
黒髪の女性は、その手に持つ獲物、見事な装飾の施された槍を野盗へ向けそう宣言する。
「けっ!何を言い出すかと思えば…馬鹿にしてんじゃねえぞ女ァ!テメェら、やっちまえ!」
うらぁぁぁと叫び声をあげて野盗は女性に飛びかかる。その数は5人、とても1人で太刀打ちできる数ではない。
「ヴェル!助けに入ろう!」
「あの槍…あの装飾は…」
「ヴェル!早く行こう!」
俺とエリカが焦って促し、何かを考えている様子のヴェリエントスははっとし、
「すまない。敵の数は5人、エリカは後方より魔法で支援、私とリカルドで直接切り込むぞ」
行くぞ!とヴェリエントスの掛け声と共に馬車を飛び降り、女性の元へと駆け寄る。
「助太刀いたします!」
「貴方は…、その剣、王国の騎士ですか。私1人でも問題はありませんが、感謝いたします」
近くで見ると、その端正な顔立ちがよく見えた。思わず見惚れていると、遠くからエリカの声が聞こえた。
「みんなー!離れて!」
まずい、エリカはやる気だ。
「魔法で奴らの囲いを崩します、そのあとは各個撃破で!」
俺は要点のみを女性へと伝える。女性は状況を察したのか、一つ頷き俺たちとその場から離れる。
何が起こったのかと連携を乱している野盗達に対し、エリカは狙いを定める。
「清浄なる水の調べ、聖なる者に祝福を、邪なる者には禍いをもたらせ…アクアバニッシュ!!」
直後、大きな水の鎌が出現したと思いきや、鎌は高速で回転し、大きな渦となり野盗たちを飲み込んだ。そのまま空中に巻き上げられ、やがて地面へと落下し野盗は意識を失った。
「ハハ…俺たちの出番、なかったね…」
「うむ…。エリカの魔法が上達しているのは知っていたが…まさかここまでの威力になっているとは…」
俺たちがエリカの魔法に唖然としていると、野盗のうち、意識を失っていたフリをしていたらしい者が獲物を持って俺の背後へと回り込んだ。
「リカルド…!」
「えっ…」
後ろを振り返った時には、既にその手にある曲刀が俺を切り裂こうとしていた。防御姿勢を取ろうとするが間に合わない、最悪の事態を覚悟したその時、
「月華竜翔閃!」
野盗の持つ曲刀の真下から槍の一撃が入り、勢いを殺さぬまま蹴りをくらった刀は宙を舞い、浮いた体に勢いそのまま2撃目の蹴りが入る。そして槍による峰打ちが叩き込まれ野盗は意識を失った。それはさながら満月のように綺麗な円を描いた武技だった。
「怪我はない?」
黒髪の女性はその手に持つ槍を傍に構え、凛とした佇まいで俺に問う。その姿はまるで広野に咲く一輪の花のようだった。
見惚れている俺に対し、女性はグイッと顔を近づかせ、大丈夫…?と再度問う。
「うわぁぁ大丈夫です!!そちらこそ、怪我とかないですか?!」
女性はふふっと微笑み、
「あの子の魔法のおかげで助かったわ。それに、怪我が無いからこそ、無防備な貴方を助けたのよ」
「そ、そうですね…、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ。助太刀してくれてありがとう」
女性は再び俺に向かって微笑む。その顔を直視できず、真っ赤になる俺を見てヴェリエントスは高らかに笑い、エリカはどこか不満げな様子で俺の脛を蹴っていた。
前話の後書きにも記載しましたが、第3章より週一更新となります。毎週日曜20時予定です。よろしくお願いします。




