第26話 次なる目的地へ
ヴェリエントスとエリカは、俺の話を聞き驚きを隠せないという様子だった。
「リカルドを1人にしたのは私のミスだ。まさか、奴が君に固執していたとは…」
「でも、リカルド凄いよ!1人でやっつけちゃうなんて!」
それには俺が1番驚いていた。ジアーズと呼ばれた男と俺には、圧倒的な力の差があることは火を見るよりも明らかだ。しかし、戦いの最中、何故かはわからないが体が勝手に動いた。あれが、妖精王の力なのだろうか。
「それでもギリギリだったよ。次は勝てるか分からない」
「そうだな…。やはり、分散して動くことは得策ではない。輪環の章を手にした以上、以降は3人で行動すべきだ」
しかし、とヴェリエントスは俺の手にある輪環の章の欠片を不思議そうに見つめる。
「このような欠片が、世界を脅かす力の一つだというのか…。形状を見るに、リベロ氏の推察は正しいだろう」
確かに、よく観察するとこの欠片は何かが割れたようにも見える。もし、リベロの推測が正しければ残りの章は3つ、欠片の大きさからして4つが集まれば一つの円になりそうだ。
「それで、次の目的地だけど、リベロさんの提案を受けてオノーレスにしようと思う」
「オノーレス?グリモワースではないのか」
「うん。グリモワースはラマラシアが20年もの間暮らしていて輪環の章の捜索ができていなかった。スキエンティスは図書院の禁書庫にあった。つまり、グリモワースなら魔法学院のどこかにある可能性が高いと思うんだけど」
「確かに、リカルドの言うことは一理ある。そして、テレシウスは騎士であっても入国が規制されている。私もオノーレス行きは賛成だ」
ヴェリエントスはエリカの方を向き、
「エリカはどうだ?」
「アタシは…2人について行くって決めてるから。どこでもいいよ!」
2人の意見は固まったようだ。こちらへ向けた視線に対して、
「よし、それじゃあ次の目的地はオノーレスに決定だね。ここから馬車で半月くらいって聞いたけれど…」
「その通りだ。オノーレスは他の三国を結んだ中心に位置している。どこの国からでも半月ほどかかるだろう」
「オートモービルでいければよかったのにね!」
エリカの言葉に3人で笑みを浮かべる。
「ならば、出立は早い方がいいだろう。3日ほどで旅の準備を整え、4日後にはスキエンティスを発つ手筈をしておこう」
「それに、お世話になった人たちに挨拶もしないとね!アタシ、ミゲルのおじちゃん達とご飯食べに行きたい!」
神話の妖精との出会い、輪環の章の一つをこの手にしたこと、そして、ジアーズの襲撃。不安はあるが、次なる旅時に期待を膨らませて夜は更けて行く。
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「くっそがぁぁぁぁ!!!」
男は傷ついた腕を振り下ろす。強烈な破砕音を轟かせ、部屋に備え付けられたモニターは粉々に砕け散る。その無機質な部屋には似つかない、飢えた獣のような男が激しい憎悪を浮かべた表情で1人叫んでいた。
「落ち着きなさい、ジアーズ」
「黙れ!!!何勝手なことしてやがる!テメェが邪魔しなければ今頃奴は…」
「貴方を殺してた、でしょ。貴方は負けた。その事実を認めなさい」
ジアーズは苦虫を噛み潰した様な顔で女を睨みつける。
「もういい…出て行け」
「はぁ…。少しは私の話も聞きなさ…」
「俺の前から失せろ!カティール!」
カティールと呼ばれた女性はどこか諦めた表情で一言、
「……ばか」
と言い部屋を出た。
「くそっ…」
カティールが部屋を出ると、再び何かを殴打する音がした。いつから、こうなってしまったのだろうか。昔の彼は優しかった。それも全て、輪環の章とあの男の存在が変えてしまった。
「もう、カティとは呼んでくれないのね。ジアーズ」
もう一度部屋を振り返り、カティールはその場を後にした。
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「本当に色々とお世話になりました、ミゲルさん、アンさん」
「ずっとこの家にいてくれても構わん…と言いたいところだが、お前さん達には何か使命があるんだろう?」
「はい、母との約束ですから。だから…」
ミゲルは俺の肩に手を置き、一つ、強く頷いた。全て言う必要はない。子供が行くと決めた道を、親はただ見送るだけでいい。
「よかったらこれ、馬車の中で食べてね」
アンは食事の入った袋を手渡すと、俺の手をギュッと握り、
「短い間だったけれど、子供ができたみたいで楽しかったわ。私たちには子供がいなかったから…。もし、あったかいご飯が食べたくなったらまた家に寄ってちょうだい」
「アンおばちゃん!」
エリカが涙を浮かべてアンの胸へと飛び込む。隣をみやると、ヴェリエントスの目にも光るものが見えた。
「エリカちゃん。お兄ちゃん達はとっても頼もしいわ。それでも、2人だけじゃどうにもならない事もあるのよ。そんな時は、貴方が力になってあげてね」
うん、うんとエリカは何度も頷き、アンを抱きしめる。アンもエリカを抱きしめ返し、俺とヴェリエントスを見る。
「リカルドさん、ヴェリエントスさん。貴方達は本当に立派よ。貴方達は、これからも誰かが助けを必要としてる時に、その誰かになるんだと思う。けれど、自分も大切にしてあげてね」
「お言葉、確かに受けとりました。アン婦人、ありがとうございました」
ヴェリエントスが騎士の礼を取る。アンは頷き、ミゲルに何かを合図した。
「おぉ!そうだった、忘れるところだった」
ミゲルは家に戻り何かを持って戻ってきた。
「長い旅になるかもしれないだろ?あんまり良いものじゃあないが、受け取ってくれ」
ミゲルから受け取ったものは一目で上質とわかる生地をした服だった。
一際大きく、夜の静けさと暖かさを感じる漆黒のロングコートはヴェリエントスへ、髪の色と同じ、淡い緑に白のフリルをあしらったドレスはエリカへ、白のシャツと共に深い海を想起させ、どこか騎士の制服にも見える紺色のジャケットは俺へ。
俺たちはミゲル夫妻に改めて頭を下げる。
「本当に、何から何までありがとうございました。もらった服、大事にします」
「腹が減ったらいつでも家に来い。アンの飯はうまいからな!」
照れるアンを見ながらミゲルは大きく笑った。
「それでは、私達はここで」
「あぁ。ヴェリエントスさん、子供達を頼む」
はい、とヴェリエントスは強く頷く。エリカは名残惜しそうにアンの元を離れ、俺たちの隣へと並び、
「おじちゃん!おばちゃん!ありがとう!!」
と、何度も何度も手を振る。ミゲルはアンの肩へと手を回し、仲睦まじげな様子をみせた。
「素晴らしい御仁だ。必ず、また会いに来よう」
「うん。そのためにも、頑張らないといけないね」
もう一度2人の方へ振り返って手を振り、馬車へと乗り込む。
徐々に遠くなっていく2人の影を見つめ、これまでの旅に想いを馳せる。
科学国家スキエンティス。色々な出会いがあった。ラマラシアと2人で暮らしていた頃からは想像もつかないほど、楽しい事も悲しいこともあった。
旅を続ける限り、これまで以上に多くの出会いが待っているだろう。不安なことはあるが、今はそれ以上に、これからの旅路に期待が膨らんでいる。
目指すは王都オノーレス。2つ目の輪環の章を探して、俺たちの旅は続く。
第2章「壮途」完
3年ぶりに連載を再開致しまして、無事第2章を書き切ることができました。ありがとうございます。
次回からは第3章、オノーレス王国編となります。
なお、3章からは週一更新となる予定です。
今後も末長くよろしくお願いします。
松ぼっくり




