第24話 襲撃
今回かなり長いです。
読者の皆様には不便をおかけして申し訳ございません。ドラマ感を出すために長くなってしまいました。
光が収まると、そこは禁書庫だった。リブロは焦った様子で俺の元へと駆け寄り、
「リカルドさん!無事でしたか!」
「突然の事で驚きましたが、なんとか」
俺の言葉を聞き、リブロはホッとした様子だ。
「突然、貴方の体が光に包まれたかと思えば、本だけを残してその場から体が消え去りました。それから数分でしょうか、再び強い光が本から発され、貴方が現れたという訳です」
あちらでの経過時間とこちらの経過時間は異なっているらしい。俺は、先程まで起きていた事をリブロに話した。
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「神話の妖精に時渡りの魔法…、にわかに信じがたいですが、貴方が嘘をつくとは思えません。それに、その本に特別な魔法がかけられているのは事実です。貴方が消えた後、本に触れようとしたところで結界のようなものが張られており、私には触れる事すら出来ませんでした」
そう言いリブロが本に触れようとするが、その手は本に触れる事なく弾かれた。
「本に触れる事ができ、先程伺った妖精族の伝承からするに、リカルドさんはこの世界にとって何か特別な存在であることは事実なのでしょう。スキエンティスの科学者として、非現実的な現象を認めたくはありませんが、進歩した科学は魔法であるとも言われます」
彼の言葉を聞き、俺は机の上に置かれた本に触れる。リブロのように弾かれることはなく、自然に触れることができた俺は本を手に取り、表紙を向ける。
「この本なんですが、タイトルが読めないんです。現代の言葉ではないようですが…」
ふむ、とリブロはこちらへと顔を近づける。
「これは…私も見たことのない文字です。しかし、どことなく本自体から魔力のようなものを感じます」
この本には妖精王の施した魔法がかかっていた。それは時渡りの魔法で、実際俺はその魔法で過去の世界へと行ったのだ。つまり、この本は妖精王の魔法を使用する事で何らかの効果を発揮するのかもしれない。
先刻、妖精王より受けとった力。その力はこの両腕に宿っている。一つは"妖精の風"で、もう一つは然るべき時にわかると言っていた。何が起こるかわからない以上、今は妖精の風を使ってみることが最善だ。
「リブロさん、少し離れていてください」
リブロが離れたのを確認し、右手を本にかざす。魔法の使い方は分からないが、何故か力の使い方を知っているような気がした。
「フェア・レゼント」
頭に浮かんだ言葉を発する。すると、本は俺の手を離れて浮き上がり、糸が解けるように表紙の文字が分裂し、その姿を変えていく。やがて本は俺の手へと戻り、文字は現代語へ変化していた。
「リカルドさん、貴方は魔法が使えるのですね」
「いいえ、これも妖精王の加護だと思います。俺は基本の4属性も扱えません。頭に浮かんだ言葉を言ってみたら…って感じです」
興味深いといったふうにリブロは頷く。
「それで、いったい何と記されているのですか?」
「今読みます。ええと…」
リブロに促され、表紙に記された文字を読む。
「エンデ・デアヴェルト…?」
表紙に書かれた文字を読み上げた途端、本はものすごい勢いで俺の手を離れ空中で回転を始めた。羽のような紋様が浮かび上がる。それは、かの妖精王の美しき羽を想起させる。
回転が収まり、羽が本を包むように纏わりつくと、一瞬眩い閃光を放つと落ち着きを取りもした。
「何が起きたんだ?!」
本があった場所を見ると、そこには何か欠片のようなものが浮かんでいた。
欠片はゆらゆらと空中を移動し、俺の手の中に収まる。
「リカルドさん…それは一体…」
「俺にも何が起きたか分かりません…。これは、何かの欠片でしょうか?割れているようにも見えますが」
リブロは何かを思いついた様子で、
「もしやそれは、図書院に伝わる伝説の…」
リブロが何か言いかけたその時、目の前の空間が強く歪む。歪みは徐々に大きくなり、俺とリブロを吸い込まんとする勢いになる。
「今度は何だ?!」
その歪みから、何か人影のようなものが飛び出してきた。人影が発する殺気を感じ取った俺は、布に包んでいたカタナを抜き、既の所で眼前に迫る武器を弾いた。
「チッ!」
人影は勢いを収めることなく、再び襲いかかってきた。
「例のブツが急に発現したと思ったら、まさかお前が1人でいるとはな!今日の俺はついてるぜ。今すぐお前を殺し、ついでにそれを回収してやるよ」
目の前の男が危険なのは一目瞭然だ。リブロに離れて!と叫び、男に向き直る。そして、その顔を見た俺は、命の危険にも勝る衝撃を受けた。
「俺と同じ顔…だと?!」
「うるせぇ!黙れ!」
そう叫ぶと、俺と同じ顔をした男は怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
「お前は何者だ!何故俺と同じ顔をしている!」
「ここで死ぬお前には関係ねぇだろうが!黙って死ね!」
男の剣技は間違いなく一級品だ。しかし、ヴェリエントスと共に旅を続け、彼に師事し、元暗部のデクスと剣を交えた今の俺には、決して見えないものではなかった。
「甘い!」
攻撃が緩んだ一瞬、懐に大きく踏み込み鞘で一撃を叩き込む。男が怯むのを見て、鞘を振り切ったまま体重を乗せ右の回し蹴りを放つ。
「ハァッ!」
「グッ?!」
鞘を受けて空いた胸元に蹴りが直撃し、男はよろめいた。しかし、すぐさま体勢を立て直し、俺と距離を取る。
「ちっ…。雑魚だと思っていたが、中々やるようだな」
「いい加減に答えたらどうだ。お前は何者だ!どこから現れた!」
「俺が誰だかなんてお前には関係ないね。それに、どこから来たか、なんてお前らとっくに分かってんだろうが」
やはりそうか。明らかにこの世のものとは本質的に異なる歪み。そして、ラマラシアの遺した言葉から察するに目の前の男は未来からの刺客だと考えるのは容易かった。
「お前が未来人だということは分かっている。そして、輪環の章を狙っている事もだ。だけど、俺たちは輪環の章を持っていない!だからこそ、お前の狙いは何だと聞いているんだ!」
「こりゃあ驚いた。お前、自分が手にしたそれが何かすら分からないのかよ。いいぜ、教えてやるよ。お前が持っているそのゴミ屑。それが、輪環の章の"一つ"だ」
「これが…輪環の章だって?!」
目の前の男が嘘をつく理由はない。それに、この欠片が輪環の章だとすれば、色々と合点がいく。オノーレス初代王は、輪環の章によって引き起こされた戦火に心を痛め、それを封印した。その封印が、初代王が託された妖精の力である"時渡りの魔法"であったとしても不思議ではない。
それよりも、男が放った一言が気になる。
「今、お前は輪環の章の"一つ"と言っていた。輪環の章はこれだけじゃないのか?」
「ちっ…口を滑らせたらしい。しかし、都合がいい。どうやら、そいつは魔法仕掛けの封印が施されているらしいな。どうせ他の奴もそうなんだろう。お前たちに残りの章を探させ、封印を解かせてから奪うっていうのが効率が良さそうだ」
だが、と男は殺気を帯びた眼差しをこちらへ向ける。
「それはお前を殺してからだ。あの騎士野郎と女のガキがいれば、いずれ残りの章も探しだすだろうさ。まずはここで一つを回収させてもらう!」
男はすぐさま距離を詰めてくる。距離をとり、男の様相を観察する事で奴の獲物が見えた。しかし、見たことのない形の武器だった。刀身の長さや持ち手は、俺の持つカタナとよく似ている。だが、その切先は二つに裂けており、獰猛な獣の爪を彷彿とさせた。
その凶暴な刃を間一髪で避け、トンっと数歩下がり、鯉口へと指をかける。男の次なる一撃に備え、抜刀の姿勢を取る。
「ちょこまかと逃げてんじゃねぇ!」
男は怒鳴り声をあげ、その刀身を肩にかけると前傾姿勢を取った。
「これで終わりだ!デモンズクラッシャー!!!」
男の持つ武器が赤黒い光を放ち、驚異的な速さで突進してくる。余りの速さに、迎撃の隙など無く抜刀の構えを解き顔の前へとカタナを差し出した。
赤黒の牙が直撃し、地面が割れたかと思うほどの衝撃が体を通り抜ける。
「くっ…!!!!」
「ぶっ壊れろぉぉぉ!!!!!」
男はさらに力を強め、カタナがミシミシと悲鳴をあげる。このままでは確実にカタナは折られ、目の前の牙は俺を八つ裂きにするだろう。
反撃をしようとするが、受け取める力を緩めた瞬間に切られるのは目に見えている。
「くそっ!」
どうすれば…一体、どうすればいい。このままでは確実にやられる。何か手はないのか…。
万事休すかと思ったらその時、どこからか優しく、温かい風が吹いたような気がした。そして、己が授かった力を思い出す。
右手に意識を集中させる。そして、再び風を感じ、妖精の風が俺の体を包みこんだ。
瞬間、これまでにないほどの力を感じ、一気に男の剣を押し返す。
「何っ?!」
徐々にこちらの力が勝り、鍔迫り合いは五分となる。男が力を緩めた一瞬を見計らって思い切り鞘を突き出し、その牙から逃れる。
男が体勢を崩したその瞬間、俺は抜刀の姿勢を取る。俺の戦い方、一瞬の隙を見逃さない。そして、妖精の風がその使い方を教えてくれる。
「ハァッ!」
一閃。しかし、その刃は男には届かず空を切る。
「ハッ!何かと思えば、当たっちゃいねぇぞ!次こそトドメだ!」
男は再びその刃に赤黒い牙を宿す。しかし、その刃が俺に届くことはなかった。
俺と男を挟む空間に風が吹き荒れる。
「何だっ!この風っ…動け…」
俺はその風へと乗り、男との距離を詰める。一度もやった事のない剣の使い方。しかし、何故か動き方が分かる。
風を纏った刃を頭上へと掲げて、目の前の男へと袈裟斬りを叩き込んだ。
「ーーー天覇・空翔斬!!!」




