第19話 禁書庫(1)
ハオスの依頼を報告後、もう一件の魔物討伐は比較的容易なものであったため、ヴェリエントスとエリカの2人で依頼に当たることになった。
一方、俺は謁見の許可が降りた「禁書庫」への調査へと向かった。これまでは資料の整理など、図書院で働く代わりに多くの資料を閲覧することが出来たが、ハオスの働きがあり無償での閲覧が可能になった。
「ハオス殿より要件は伺っております。しかし、禁書庫は院長である私も特別な手続きを踏まなければ立ち入ることが許されておりません。故に、貴殿に同行することをお許しください」
当然だろう。科学とは知識の集約であり、知識とは命より価値のあるものである。それがスキエンティスの在り方だ。その中で最も知識が集まるセントラル図書院で禁じられた場所、ここに入ることができるだけで相当運がいい。
「はい、構いません。むしろその方が安心して本を探すことができます」
俺の言葉に頷いた院長は、ふと思いついたようにこちらへ向き直し、
「挨拶がまだでしたな。私はここセントラル図書院で院長を務めておりますリブロと申します」
と、威厳がありながらもどこか年季の入った絵本のような暖かさを感じる声で名乗りを上げた。
「リカルドです。改めて、禁書庫の閲覧を許可していただきありがとうございます」
「いやはや、ハオス殿の頼みとあれば無碍には出来ません」
それに、とリブロはどこか悪そうな顔を見せ、
「私自身、禁書庫に入るのは二度目なのです。院長の座を預かって以来、この場所には知識欲が駆られていたのですよ」
そう言い笑ってみせた。
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禁書庫へと入ると、棚一面の本に囲まれる図書院とは異なり、宿の一室ほどの空間の中央に机が一つ置いてあるだけの殺風景な部屋だった。
「ここは特別な場所です。科学を信じ、魔法を排するスキエンティスですが、この禁書庫は魔法によって封じられているのです」
そう言うとリブロは机へと近づき、その上にポツンと置いてある本に触れ、
「"レゼント"」
リブロがそう呟くと、本が空中へと浮かび上がり眩い光を放った。直後、殺風景だった部屋の一面に本が敷き詰められた棚が出現した。同時に部屋の面積が拡大していき、この巨大なセントラル図書院と変わらぬ広さとなった。
「今のは…!」
そうだ、今の魔法。聞き覚えが…いや、"見た"ことがある。あの日、俺とラマラシアが未来人に襲われたあの日に、ラマラシアが未来人に向けて放った分析の魔法だ。
「これは白魔法。レゼントと呼ばれる上級分析魔法です。オノーレスから特別に使用許可を与えられ、会得したものです」
まさかスキエンティスに魔法の使い手がいるとは。それもラマラシアと同レベルのもの。俺が驚きを隠せずにいると、
「無理もありません。スキエンティスは魔法とは無縁の地。しかし、それはこの数百年でスキエンティスの在り方が変容した事による障害でもあります」
「スキエンティスの在り方…」
俺が何やら要領を得ない言い回しに疑問符を浮かべているとリブロは続けた。
「貴方も知っての通り、スキエンティスは科学によって人々を豊かにすることを理念としております。しかし、それだけではどうしようもないことがあるのです。現在、技術の発展に伴い、おおよそ不可能な事は無くなりました。それでも、我々の知らぬ神秘である魔法には及ばない事があるのです」
だからこそ、とリブロは続ける。
「初代院長はこの禁書庫の封印に魔法を用いた。そして、それは代々この図書院を治める立場にあるものに受け継がれてきました。そして、魔法を使用できる者が少ないスキエンティスにとって最も堅い守りとなるのです」
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その後、リブロは自身の探求欲が抑えられなかったのだろう。何かあったら声をかけるようにと俺にいい、そそくさと棚から本を出し自分の世界へと入っていった。
禁書庫は魔法仕掛けの部屋だ。それは先程のやり取りで分かった。彼曰く、知りたいと思う内容を頭に浮かべ、棚に呼びかける事で関連図書が自動で動き出すとの事だ。
ここにきた目的、王国の真実とイシュタントの成り立ちを知る時が来たのだ。
「真実を、この世界の全てを知りたい」
そう呟くと一冊の本がカタカタと動き出し、俺の元へと浮遊してきた。
その本を手に取り、表紙を見るとタイトルが書いてある。やけに古い本だが、魔法仕掛けらしく古代語と思わしき文字が浮かび上がる。
「知らない文字だ…なんて書いてあるんだろう」
本に触れ、表紙の文字を読もうとした時だった。突然、本が発光し俺の体は光に包まれた。




