第17話 刺客(2)
ヴェリエントスの提案通り、俺とエリカは図書院の仕事の手伝い、ヴェリエントスは俺たちを狙う者の炙り出し。
標的が俺たちに変わる可能性も考え、刀は持って行けと言われて布に包んだまま持ってきた。
流石に図書院に入るのに物騒なものは見せられないだろう。エリカの魔法に武器は必要ないので、ある意味ではいつ戦闘になっても対応できる。
図書院の仕事の手伝いは退屈ではなかった。俺たちの本来の目的のために、かなり真面目に取り組んだ結果、職員に目をつけてもらい、仕事が終わったら資料を自由に閲覧していいとの許可を得た。
「なんか、すんなりいったな」
「アタシたち頑張ったもん!当然よ!」
エリカはどうだと言わんばかりに胸を張っている。たしかにエリカの熱心ぶりは俺も評価していた。
子供ながら多くのことを経験してきたエリカは同じ年代の子供に比べ自制心が強い。単調な仕事であってもこなす力を持っていた。
「こっからが本番だよ!リカルド、へばっちゃだめよ?」
「そうだね、よし、じゃあ早速資料を探そう」
おー!という掛け声のあと、各々オノーレス王国にまつわる歴史を探り始めた。
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「分かりやすい殺気だ。先日より明らかに強い」
ヴェリエントスはリカルドたちを見送ったあと、あえて一通りの少ない道を選び、歩き続けた。
道中適当な店に立ち寄り品定めをするそぶりを見せ、半日ほど街中を歩き回り昨日と同じルートで郊外へと歩いた。
街から離れ、自然が目の前に見えてきたあたりから尾行していた何者かは気配を強めてきた。
「ここで手を下すつもりはないと見ていたが…、私を狙うならばいまが好機と見たか」
ならば、と街からは完全に離れ町外れの森の中へと歩みを進めた。
「…………」
数分歩き、街が遠目に見えるほど離れたあたりでヴェリエントスは足を止めた。
「そろそろ顔を見せたらどうだ?」
いつでも抜刀できるよう半身に構え、ヴェリエントスはどこかに潜む者に声をかけた。
「私が気づいていることは知っているだろう?無駄な時間を過ごすのは互いに得策ではない筈だ」
そこまで言った時だった。
木の陰から出てきたのは、リカルドに良く似た薄い金色の髪を携えた青年だった。
一瞬本当にリカルドと見間違えるほど、その容姿は瓜二つであった。
「君は…、何者だ?」
「答える義務はない」
「だろうな。しかし、その見た目からして、私の予想は的中していたわけだ」
「予想、だと?」
目の前の青年は、何を言っているんだと言った風に問いかける。
「以前、リカルドとその母君を襲った者の仲間だろう。そして、その仲間同様、君は未来から来たのではないのか?」
「…あんた何者だ?」
「ただの騎士だ。そして今は、リカルドを守る者だ」
「そうかよ。いいぜ、そこまで分かってんなら隠す必要はない」
そう言って、目の前の青年は威圧感を増した口調と表情で続けた。
「あんたの読み通り、俺は未来から来た。まぁ、前に送り込んだやつはただの雑魚だが…負けた上に敵に情報を渡すとは間抜けにもほどがあるぜ」
「本当に未来から来たのか…」
ラマラシアが言っていたことは本当だった。彼女の発言を全て信じていたわけではない。眉唾ものだと思える部分も多かった。
しかし、彼女の言い分が正しかった以上、この場で現れたこの青年や今後も刃を交えることになるであろう未来人に対し、改めて覚悟を決めなおす必要があった。
「君たちの目的は分かっている。だからこそ、はっきりと言わせてもらう」
そう言うと、青年はほんの少し気を沈めヴェリエントスの発言に耳を傾ける素振りを見せた。
「輪環の章のことは我々の誰1人として知る者はいない。何より、それを知るために我々は旅を始めた。もし、奪うにしろ情報を得るにしろ今仕掛ける意味は君たちにはない」
「……その発言が、俺を撒くための台詞じゃないと言う根拠は?」
「君が、私に剣を抜かないのが何よりの証拠だろう?」
「なるほど、あんたは頭も切れるのか。正直、この場であんたと戦うのは得策じゃないことくらい分かっているさ。あの小僧とあんたじゃ格が違うからな」
そう言って、青年は踵を返した。
「今回は退いてやる。なに、あんたらがアレの情報を握ったかどうかはすぐわかる。その時にやりあおうぜ」
そして、一瞬目の前が光ったと思った時にはすでに青年は姿を消していた。
「なんとかこの場は凌いだか…。しかし、時間の問題だな」
対峙したからこそヴェリエントスには分かった。あの青年は強い。一対一であれば自分ですら厳しい戦いになると。
気づけばあたりは暗くなり始めていた。リカルドたちもそろそろ家に戻る頃だろう。今日のことを報告するためにも、ヴェリエントスは森を後にした。




