第13話 忍び寄る影(1)
先日決めた予定通り、俺たちは中央図書院に行くことにした。
ミゲル夫妻の計らいもあって、図書院に入るのに必要なスキエンティス市民証を貸し出してもらうこともできた。
ミゲル夫妻の家から図書院までは数時間かかるということだったが、この街に来て日が浅い俺たちにとって街の様子を見ることもできるし、特に支障はない。
「図書院に着いたら、君はエリカと共にオノーレス王国の資料を探してほしい」
オートモービルの中、向かいに座るヴェリエントスがそう言った。
「3人で探すんじゃないの?」
窓の外を見ていたエリカは、椅子に座りなおしてヴェリエントスに問う。
「私は依頼の受注に行く予定だ。今後も資金の調達は必要な上、戦闘の経験もより積ませたい」
ヴェリエントスの提案は理にかなっている。わかった、と返事をして俺たちが探す資料の細かな説明を受けていたところで、パネルから電到着の電子音が鳴った。
「陽が落ちる頃には戻る。図書院の入り口で待ち合わせよう」
「了解」
そう言ってヴェリエントスは人混みへと消えて行った。
「よし、じゃあ頑張って資料探すぞ」
「おー!」
掛け声と共にエリカは図書院へと入って行く。あとを追うようにして俺も中へ入った。
スキエンティス中央図書院。イシュタント世界の四国それぞれに図書院は存在してはいるが、存在する全ての資料を内包しているものはここだけだと言われている。
その名に恥じぬ通り、遠目からわかる巨大な建造物の中は近未来的な要素をふんだんに使った装飾が施されつつも、図書を扱うが故の尊厳も保っている。
入り口でミゲルから預かった市民証を提示し中へ入ると、様々な服装をした研究者らしき人たちが歩いている。
近くを通りかかった若い研究者を捕まえて、オノーレスに関する図書の在り処を聞いた。
「オノーレス王国の歴史…、ふむ。ならば二階の奥にイシュタント世界の成り立ちから初代王がオノーレスを建国するに至った歴史書があるはずだ」
「イシュタントの成り立ちからとなるとどのくらいの量になるんですか?」
俺の問いに対して、研究者は少しおどけた表情をし、
「さほど量はない。見れば分かるが…、彼の国の歴史は魔法によって成り立っているからな。実に非科学的で神秘的なものだ」
「と、言いますと?」
「要するに、魔法という奇跡についてしか記されていない。我々のように人が自らの頭脳を持って成し得た功績などは多くないのだ」
スキエンティス人はオノーレスのことをそう考えているのかと新たな発見をしたが、ある意味それも事実なのかもしれない。
俺が知っている限り、というかこの世界に生きるものなら誰でも知っていると言っていいであろうオノーレス初代王の偉業。
800年前、世界にまだ人類が流布していなかった神々の時代。神世界を尊ぶ神々と、人との共存を望んだ神々との争いによって世界は崩壊し、人を守った女神と当時の英雄の男との間に生まれた神の血を引く人間、それがオノーレス初代王と言われている。
現在の平和な世界からは到底想像がつかない眉唾ものの話ではあるが、子供の探究心をくすぐるという意味ではいい教えなのだろう。
しかし、初代王が紡いだ王家、その末裔に名を連ねたラマラシアが残した輪環の章の話を聞いた今では、眉唾ものでも現実味を帯びている。
研究者に礼を言って、俺とエリカは二階へと向かった。
「ここが、あの人が言ってた本があるところだよね」
エリカが本棚を見上げながらそう言う。棚の端にある立て札にはイシュタント世界の成り立ちと書いてあった。
「そうだね。よし、じゃあ探そうか」
それから2人で輪環の章の手かがりを得ることができそうな本を探した。
数時間吟味した結果、2つの本を探し当てた。1つは時渡りの妖精族と神々という本。そしてもう1つは初代王アルケイドの功績という本だ。
時渡りの妖精族はかつての神話時代、過去や未来の世界を自由に行き来することができる希少な種族だったという。
その力に目をつけた悪神と、その悪神と戦った善神についても記されていた。その善神たちが、後々の神と人の世界をかけた争いで人類に手を差し伸べた神々であるという。
争いの後、生き残った僅かな時渡りの妖精族は、その力を赤ん坊である初代王に託し亡くなったらしい。
神話の話として事実ではないと記されているが、ラマラシアの話を知っている俺たちにとって、これこそが王家に伝わる輪環の章の状態なのではと思った。
しかし、そのような存在については言及されておらず、初代王も時渡りの術を使ったという記述がないことから、結局核心には至らなかった。
そうこうしているうちに、窓の外は淡い橙に染まっていた。
「起きて、エリカ。ヴェリエントスと合流するよ」
途中から飽きたのか、疲れたてしまったのか俺の肩に頭を乗せて寝ていたエリカを起こし、もう1つの本は受付で貸し出しの申請をした。
「リカルド、寝ちゃってごめん」
「大丈夫だよ、俺も疲れちゃった」
美味しいものでも買ってミゲル夫妻へお土産にしようかと話しながら、俺たちは図書院を出た。




