第11話 3人で
少女と初めて食事をした飯屋に着くと、淡い緑を携えた少女はこちらを見ておそーいと言った。
「おまたせ、エリカ」
「もう、遅いよリカルド、ヴェル!」
「すまない、思ったより荷造りに時間がかかってしまった」
そう言って旅の荷物を地面に置いたのを見て、エリカが尋ねる。
「え、なんで?もう旅に出ちゃうの?」
「まだスキエンティスからは出ないよ。ただ、中央都市セントラルに行くのにあの宿にいるわけにはいかないから」
そう言うと、エリカは表情を曇らせた。
「席がなくなる前に中へ入ろう。話もそこでしようか」
ヴェリエントスの提案に2人で頷いて中へと入った。
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「そういえば、2人はどうして旅をしてるの?」
「そうだ、まだエリカには俺たちのこと話してなかったんだよね」
話してもいいよね、と向かいに座るヴェリエントスに問うと、
「どこに耳があるかは分からない。あまり大きな声でなければいいだろう」
と言った
「そんなに危ない旅なの?」
エリカが不安げな眼差しを向けてくる。
「どうだろ?まぁ、とりあえず話すよ」
そうして、ここに至るまでの経緯をエリカに話した。
ヴェリエントスとの出会い、未来人との邂逅、そしてラマラシアのこと。
途中まではわくわくした様子で話しを聞いていたエリカだったが、ラマラシアのことを話したところで涙ぐんでいた。
「もう、どうしてエリカが泣いてるの」
微笑みながら涙を拭ってあげると、落ち着いたのか俺の顔を見ながらゆっくりと口を開いた。
「あたしも、パパとママがいなくなって寂しかった。だから、リカルドの気持ちわかる」
そう言って、エリカは立ち上がって俺の隣に移動して、
「リカルドも頑張ってるんだね。助けてくれて、ありがと」
そう言って俺の頭を優しく抱えた。
「……っ」
おかしいな。視界がぼやけてる。満腹で眠くなってきたのか。
「リカルド、私も礼を言おう。今回の作戦は君無しでは成し遂げることはできなかった」
ありがとうとヴェリエントスも優しい声音で言った。
自然と流れた涙は決して恥ずかしくはなかった。ただ、嬉しさと安堵だけがそこにはあった。
それから3人で食事をとり、エリカを引き取ってもらう約束をした孤児院へと送ろうとした時だった。
「あのね、あたし……」
エリカは何かを言いたげな様子だった。言葉が出ないと言った風だったので先を促すと、意を決したように俺の目を見つめた。
「あたし、2人と一緒に行きたい」
髪と同じ、淡い緑が綺麗だなと少女の目を見ていると、思いもよらぬ提案をしてきた。
「エリカ、それはダメだよ。俺も、エリカと一緒にいたい。けれど、俺たちはこれからもっと危険なところに行くかもしれない」
そう言って、少女の目を真剣に見つめ返す。
「それさっきの話聞いたから分かってる。でも、あたし色んなところを見てみたい。本の中だけじゃなくて、この街じゃなくて、もっといっぱい、色んな景色を見たい!」
少女は、想いをぶつけるかのよう、気持ちの入った声でそう言った。
「ヴェル……」
ヴェリエントスに視線を向けると、彼は1つ頷き、
「エリカ、君も分かっているように私たちの旅は危険だ。今回のような戦いにまた巻き込まれることもあるだろう。それに、リカルドの母君を奪った未来人がいつ襲ってくるかもわからない」
「分かってる。危ないなんてわかってる、それが怖かったら一緒に行きたいなんて言わない」
それに、と少女は少し余裕を持った表情で、
「あたし、魔法使えるから2人よりも強いもんね」
と、言った。
俺たちは2人して顔を見合わせて笑って、
「お手上げだ。そうだな、君は強い」
そう言ってヴェリエントスは微笑んだ。
「分かったよ、エリカ。一緒に行こう」
そう言って手を指し出すと、満面の笑みで少女は強くその手を握り返した。
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オートモービルに乗りながら中央都市セントラルを目指す中、エリカがあのさと言って切り出す。
「中央都市に行って何するの?」
そういえばまだ今後の予定を詳しくは決めていなかった。輪環の章に詳しい知識人の捜索。それが本来スキエンティスに来た目的だった。
しかし、コネなんぞあるはずもなく詳しい道筋は決めていなかった。
「まずは中央都市の図書院を目指そう」
スキエンティス中央図書院。世界各地にその名を知られている知識の宝物庫だ。この世に存在するありとあらゆる書物がそこにはあり、多くの知識人が利用していると聞く。
「そこで輪環の章について調べるんだね」
いや、とヴェリエントスは否定する。
「ラマラシア殿がの言うように、輪環の章は一般人も利用できる図書院の書物に記されているとは考えにくい」
じゃあ何を調べるのさと問うと、
「オノーレス王国の歴史、ひいてはこの世界、イシュタントの成り立ちについて調べたい」
なるほど。ラマラシアは輪環の章の話は王家の血によって受け継がれると言っていた。ならば、王家を調べることでその手かがりが掴めるかもしれないというわけだ。
「詳しい予定は向こうの宿に着いてから決めようか。それに、向こうに着くまで夜通しかかる」
そう言ったヴェリエントスの視線の先、俺の隣ですやすやと寝息を立てるエリカがいた。
「満腹での移動だったから疲れたのだろう。私も休むとしよう。君も、窮屈ではあるが眠るといい」
分かった、と言ってエリカの頭を撫でて俺も目を閉じた。
旅を初めてから2ヶ月ほど。それでも、色んなことが起きた。これこらも目まぐるしく景色は流れていくのだろう。
俺たちの旅は新しいはじまりを迎える。はじめての友である騎士と、淡い緑の少女と共に。
次回
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