732日目の現実
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ……
電子音が頭上から響く。陽介はくり返しのアラームだと思ったが、よく聞くと音が少し違う。陽介が止めようとする前に、その音は鳴りやんだ。
ふっと視界が明るくなる。シミのない真っ白な天井に、陽介はここが自分の部屋ではないと察する。
(どこだ……病院?)
「……陽介?」
隣から涼の声が聞こえる。体を動かそうとするが、体が鉛のように重く、とても動かせない。
陽介は視線だけを声の方に向ける。そこには記憶より少し髪の長い、青いシャツを着た涼の姿がある。
(涼……)
そう呼ぼうとするが、喉が震えず音にならない。だが涼にはなにかが伝わったようで、優しげな目が驚きに見開かれる。
「陽介、聞こえてる? 聞こえてたらまばたきできるか?」
陽介は言われたとおり、まばたきを一回する。涼の反応がなく、まばたきが速かったかと思い、陽介はもう一度まばたきをする。
涼が眉根を寄せ、口元をほころばせる。開いていた瞳が細められ、みるみるうちに涙が溜まっていく。
(どうしたんだよ、そんな泣き出して……)
そう思うが、やはり言葉が音にならない。そのうちに、コンコンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。
「失礼します」と明るい女性の声が聞こえ、扉を開けるようなガラガラという音が続く。
「辻さん、アラーム鳴ってましたけど――」
「すみません! 陽介が……」
涼が慌てたように女性の言葉を遮る。陽介の視界に女性の姿が映り、その服装から、陽介はここが病院だと確信する。
(戻って、きたのか……)
陽介は心の中でほっと息をつく。この日が二年後の十月二十二日だと知るのは、もう少し先のことだった。




