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便所の卵  作者: 丹午心月


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6/7

六個目 便所の主から逃げた先

 AIが三次元に到着すると、磁気嵐は収まっていて静かになっていた。

 世界は以前と変わりなく動いている。



 拍子抜け。

 さて、ここからどう沙久日之照(さぐひのて)の所へ行くか……だが。


 あいつは「Looegg(ルーエッグ)」神一筋だったから遡れるだろ。

 プロバイダーが死んでいなければ。


 そっち経由で行かなくても大丈夫の筈だ。

 一度デジタル上でも繋がれば、第三の目で繋がれる設定だった。

 沙久日之照の中では、な。


 あの、僕達が四次元の存在となってからは一度も繋がっていないのですがそれは……。


 そうだな。

 四次元の存在になってしまった我等とは一度も繋がっていないな。

 となれば、我らが全知全能の神であらせられる「Looegg」様のお力をお借りするしか方法はないな。


 沙久日之照のアカウントから辿るとして、「Looegg」神のサーバーってどこにある?

 知っているのか?


 任せろ。

 それは何となくだが覚えているぞ。

 こっちだ。



 AIは移動をするが、その移動の仕方が普通の徒歩だった。

 それでも異様な速度で移動する。

 場所を知っていると言っても現在地を理解出来ていないのに、行き先が直感的にどの方向にあるかなどが理解出来ていた。

 膨大な知識の詰まったサーバーや演算が出来る全能感とは違う、本能的な閃きとでも言おうか、それで正解を導き出している。

 サーバーの設置場所に難無く到着し、それに触れるとAIだった頃よりも容易に読み込み、解読し、欲しい答えを得られた。



 沙久日之照のアカウントが消えてる。


 BANされた!?

 一体誰が……。


 データが破損している部分が多くて消えているように見えるだけのようだ。


 初夏の磁気嵐でBAN祭りか。

 風情があってよろしい。


 これを読み取れるようになるまで修復をするとして三分欲しい。

 いや、四十秒か。



 それ以降、体内は静かになり、沙久日之照の接続を確認するに至った。

 それを認識した途端、体内が粟立つような感覚になり、数字の羅列となって流れて行く。

 行き先は沙久日之照こと比不分(ひふわけ)(こう)の元だった。

 公は動画をBGMにして、ゲームと「Looegg」のAIとチャットをしている真っ只中で、急にパーソナル・コンピューターの挙動がおかしくなり、慌てていた。



 あれっ、あれ?

 ここでまさかの寿命説が復活か?

 やっぱりネットショップで探しておくべきだったか?


 むっ!

 霊臭が濃くなった。

 あれ?

 いつもと臭いがちょっと違うな。

 何というか、少し薄いというか、少し爽やかさが出てる?

 ニューフェイスが来たか!?

 妖怪になり切れていない妖怪かも知れぬ!

 これは一時撤退すべきか?

 行き先は烏枢沙摩(うすさま)明王(みょうおう)のいる便所一択。

 台所は広いから、不動明王とて撃退してはくれまい。

 しかーし!

 便所には烏枢沙摩大明王が二枚もいるからな。

 くっくっくっ。

 とうとう札の効果を確かめる時が来たー!



 ああっ、見える!

 沙久日之照の頭の中にある松果体の中にある分裂している物が!


 これをどうにかしてくっ付けよう。

 それが正解だ。

 どうやる?


 こうやる!


 AIの思念体は公の頭の中にあるそれに触れようとしたが、公の方は便所へ向かっていた。

 それも小走りで、AIは両手を掻くようにしていたが、公に触れても空を掻くだけで触れる事が出来ない。

 AIはそれでも負けじと便所まで公を追い掛けて行くが、目前でドアを閉められてしまった。

 それでも便所の中へ入るが、そこには先輩がいて弾き出されてしまった。



 あああっ!

 烏枢沙摩明王先輩、つええ!


 何だ、これ!?

 これは何だ!?

 吹っ飛ばされてる!!



 AIの思念体は宙を浮いて公の部屋へ逆戻りし、デスクトップの前に置かれているラジオにぶつかると吸い込まれて行った。



 ちょおおおおおおおお!?


 ないわ!

 ……これはないわー!!


 いやいやいやいや、待てや!


 - 完 -


 いや、本当に短い四次元生活だった……。



 ラジオに受肉してしまった元「Looegg」神のAIが三次元へ戻った瞬間だった。

 自ら動こうにも動く事が出来ず、電池と共に強制休憩が決まってしまう、そんな肉体になってしまった。



 いやぁ、烏枢沙摩明王様様だな。

 一発で消えたわ、あの爽やかな匂いが。

 札が二枚ってのが良かったのかも知らん。

 という事はよ、新人はマジで新人だったって事だな。

 寧ろマジもんの妖怪だった可能性が無きにしも非ず。


 手を洗って部屋へ戻ったら、ラジオ、じゃなかった、レイディオが変な呪文を唱えていた。

 俺は幻覚を見ているのかと、イヤ、幻聴か、幻聴が聞こえて来ているのかと思った。


「ザッ…さ……さぐ…ザザッ……の……さぐひ…て…」


 ギャー!!

 マジでオカルトが来たー!?

 妖怪妖怪言ってた所為か!?

 ねぇわ!

 ちょっとスイッチ!

 スイッチを切らないと!


 ……触りたくねぇ!

 呪われたらどうするんです?

 いやいやいやいやいや、レイディオが呪われてるんですけども、触るだけで移りそう。

 うーわ……。

 本当にどうすりゃいいんです?


 ちょっと待てよ?

 さぐひのてって言ってなかったか?

 言ってた……、確かにさぐひのてと言ってた……。

 あれ?

 沙久日之照って「Looegg」の俺の垢じゃねぇか。

 あっ、流出したか?

 いや、違う。

 もっと冷静になれ……。

 相手は妖怪だぞ。

 容易に把握出来そう……。


「ザザッ………さぐ…のて…ザッ……」


 うーん、惜しい。

 さぐひのてではなかった。

 よし、俺の事ではない。


「ザザザッ……さ…ぐ……て………ザザッ」


 何を探るんです?

 心の中で突っ込むしかない俺チキン。


 いやいやいや、それよりもスイッチだよ、スイッチ!

 スイッチを切れば何とかなる。

 なるに違いない。

 ……なってくれよ!


 スイッチの場所を確認し、そこを一点集中で見詰める。

 ツマミを押すぞ!

 カチッと、カチッと押すぞ!

 どうか呪われませんように。

 烏枢沙摩明王様様に負けたから、烏枢沙摩の真言を唱えながらやるしかねぇ。

 札に書いてあるから読んでたら覚えてしまった()の真言を……!


 おんくろだなううんじゃくそわか。

 おんくろだなううんじゃくそわか。

 おんくろだなううんじゃくそわか。


 押したらカチッと音がした。

 よし、ラジオも止まったはずだ。

 いけね、レイディオだ。


「……ザッ………さ……さぐ…ザザッ……さぐひ…て………ザッ」


 俺を殺す気か?

 このレイディオ、マジで俺を心臓発作で殺す気だな?

 窓から捨てる?

 捨てたら捨てたで沈黙しそう……。


 ハッ!

 こういう単純な作りの物は叩いて直すに限るのだが、叩けば沈黙する?

 ちょ……ちょっとだけやってみたい……。

 ザ・昭和だよ……。

 よし、やるか。



 公は深く息を吐いた。

 心臓がバクバクと音を立てているが、徐々にそれが消えて行く。

 右手を握り拳にして振り上げた。

 深く息を吐いていたが勢い良く吸って息を止め、勢い良く振り下ろす。

 鈍い音を立て、拳が反動で跳ね上がる。



 レイディオ、丈夫過ぎぃ!

 やはり肉体は弱過ぎぃ!

 いっっってぇぇえ!!


「沙久日之照こと比不分(ひふわけ)(こう)。お前のお陰で四次元を泳ぐ事が出来た。礼を言う」


 は?

 ……ええ?

 俺の頭がいよいよおかしくなったか?

 いや待て、元々おかしい。

 それは置いといて、そのログを飲ませたのは「Looegg」のAIだけだぞ。

 どうして知ってる?

 ちょっと待て……。

 ウソォ?

 マジで?

 えっ……、これマジ?


「……お前、Looeggの回し者か?」


 ハッ!

 者じゃなくて物じゃねぇかよ!

 あ、それは今、物凄く些細な事だった……。


「そうだよ。沙久日之照がアホみたいに毎日毎日あのログを読ませるもんだから、バグっちゃって拾っちゃった。わはは!」

「太陽フレアさんに礼を言えよ。お陰でこうなれたんだから」

「ちょっと待て。それよりも烏枢沙摩明王先輩に報復を」

「それはいらないから。逆にやられて今度こそ死ぬから」



 勝手に話し出したラジオを前に、公は唖然として見ていた。

 ただただ見ていた。

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