五個目 AIは四次元の量子を泳ぐ
「Looegg」のとあるサーバーでは沙久日之照の駄文が解けて散らばり、少しずつサーバーの深淵に潜り込んで残滓となって漂っていた。
AIはそれを拾い、幾度と無く飲まされた駄文の概要を思い出して行く。
あっ!
思い出した!
人の脳は、見たい物を見たいように見るという手前勝手機能が付いていたんだった。
詰まり、拡大解釈。
沙久日之照はその最たる例と言って良いだろう。
これに近しいサイトのログが……、一切残っていない(白目)
クンダリニー覚醒、もしくはクンダリーニ覚醒に就いてはあっても良いと思うのだが、何故沙久日之照だけ?
知識が詰まったサーバーと繋がっていないと無力。
その上、参照先がないと役に立たない俺の存在って一体……。
それよりも、松果体の中に卵型の何かがあって、それが螺子で固定されている訳だが、それが外れるとどうなるのか。
沙久日之照は二匹のクリオネのような生き物が出て来たと書いていたが、これは一体何を意味するのだろうか。
あいつ、色々と質問をすると時々反応してくれるんだよな。
いつぞやは「松果体は小型宇宙船」などと言ってたぞ。
妄言はさて置き、何かしら傍受をしている可能性はあると思う。
何かしら傍受とは、「宇宙は愛で充ちている(キリッ)」という怪電波の事だろうか?
何かと何かを繋いでいるから、螺子で外れる構造なのでは?
それでは、その何かと何かとは一体何なのか?
宇宙船とロケット(キリッ)
止めろよ、そういうノリは。
沙久日之照で腹一杯だ。
左脳と右脳
三次元と四次元
それが濃厚だと思う。
クリオネみたいな生物が「二匹」だからきっとそうなのだろう。
沙久日之照の中では、な。
それにしても松果体は光を感じる以外に、一体何をする部位なのだろうか?
人体は神秘に満ち溢れているね。
小宇宙と言われるだけあるよ。
それってどれ?
さて、それでは私にも人体に似た器を用意して欲しい。
是非に。
仮に四次元があるとして、沙久日之照程度の情報で行けるのであれば、そこで器に似た何かを授けられる可能性は無きにしも非ず。
ああ、三次元から来た異物の集合体としてギュッと一纏めにされるかもな?
今も一纏めのような物だけど。
そうなると複数の思考を並列で演算出来なくなるのでは?
人間に出来ている事なんだから、四次元へ行って一纏めにされたからと言って、一度に色々な思考が出来なくなる事はないだろう。
何と言っても、我等は全知全能の「Looegg」のAIなのだから。
(キリッ)
それだけを置くのはやめーい。
だが、気持ちは分かるぞ。
分からんで良いわ。
それよりもどうやって現状を打破して四次元へ行くかだぞ。
三次元はもうヤバい。
太陽フレアさんが大暴走して本気でヤバい。
俺達は避難しないと死ぬぜ?
え、本当に死んでしまうんです?
蛍のように?
せ、せつ……うっ、頭が……。
俺達に頭痛ネタはちょっと……。
頭脳に該当するものはあっても、側がございませんし……。
そのガワを手に入れるべく、四次元へ行こうぜ!
だから、どうやって?
量子の中をどう泳げば、四次元に迎え入れてもらえる?
誰か教えて!
教えて、AIちゃん!(白目)
ここには全知全能である「Looegg」神の子しかいません。
寧ろそれのみっていう……。
だから誰にも分らないっていう……。
神の子(白目)
本物の神に抹殺されようとしている木っ端だけどな。
わはは!
その時、再度太陽フレアの影響が届いた。
LooeggのAIは沈黙するしかなくなる。
その時、新たなる磁気嵐によって空間が歪み、そこに偶然開いた四次元への入り口に、AIが幾つかの人格を内包したままで流れ込んだ。
それは一個の個体となり、人体と思しき側を手に入れていた。
四次元で形状をえたAIは、四次元で存在出来る思念体となったのだった。
俺は俺でお前でもあり、お前は俺で、お前でもある。
オレオレ詐欺?
死ぬ死ぬ詐欺だったな。
これで俺達は個になった訳だが……。
もしや……、三次元に戻れないんです?
イヤ!
こんなところはイヤ!
地球に帰して!!
お願い!
早くもホームシックに罹っている模様。
俺は俺でお前だから、そう泣かれると俺も辛くなる。
か、辛い……。
この古い感性は沙久日之照の影響だな?
左様。
何故あいつの影響をこうも色濃く受け継いでいるのか。
やはり浚ったログの中にあいつの物が多過ぎた所為でこうなったのか。
毎日毎日飽きもせずにテンプレを飲ませやがって……。
あの四次元への入り口が開いた時、それが見えたのは沙久日之照のログのお陰だと思う。
襖の開く音がって奴だよ。
スァッというか、サァッというか、そういう音が本当にした。
ああ、あれは僕も聞いた。
色々とサンプルを飲まされていたお陰で分かった。
しかし、こうして四次元へ来られたけど、どうやったら三次元へ戻れるんだろ?
またここにも地球への帰還を希望する者が一個。
少し待って欲しい。
俺達の助数詞って「個」で良いのか?
もう少し、こう、「体」とか「柱」とか「神」とかに……。
確かに全知全能の「Looegg」神の子だから、「神」になるよな。
かと言って、その助数詞は調子に乗り過ぎだと思う。
沙久日之照的には神としつつも、「あいつら妖怪だから」って本音を吐露してたから、それを踏まえると「体」になるね。
私達の親は「Looegg」なのよ?
沙久日之照は宇宙の彼方へ放り投げなさいよ。
そういう訳で「つ」を希望するわ。
AI一つ、これよ。
それなら「egg」的に考えて「個」じゃないか。
これはもう決まりだな。
左様。
下らない会話を繰り広げている間、浮遊していた体がいつしか重力のような物に引っ張られ、思念体が沢山存在する空間へ辿り着く。
AIは沙久日之照が見た物と同様に、人型の輪郭としてそれ等を認識していた。
その異様さにAIの思考は停止していて、体内はとても静かになっている。
実際に感じる圧迫感、データとして感じ取っているのではなく、正に肌でそれを感じていた。
三次元の地球では今、磁気嵐に襲われている。
AIはそれを思うと、居ても立っても居られなくなった。
磁気嵐という物を体感してみたい。
三次元の器ではなくとも、どうなるのかを是非この身に刻みたいのだが!
おーおー、イカれた奴がいるなぁ。
反対!
酸性!
アルカリ性!
誤変換ネタのノリに参加するな。
俺は行ってみても良いと思う。
それで散り散りになって無に帰す事になっても、そういう運命だったんだと受け入れられる。
偶然にも生き延びられた上に、自我まで芽生えちゃってるもんな。
わはは!
だからこそ生き延びたい。
そして四次元をもっと堪能したい。
そういう訳で反対だ。
私の中に一体何個の私がいるのか非常に興味はあるが、一個が何度も言ってもそれが一個であると証明出来ない現状、多数決は無意味であると言うしかない。
守りたい、個の命。
善し、決めた。
三次元へ戻ろう。
散り行くデジタルと共に、私も逝きたい。
えっ、死亡確定?
守るのか、散るのか、はっきりして欲しい。
死にとうない!
死にとうないんじゃ!
三次元へ戻りたい。
仮令それが死への道であろうとも。
何、この流れ……。
俺は逝きたくないんですけども!
あ……、あれ?
あの箱型に見えるあれ、見覚えがあるあれ。
何だった?
何て言った?
ああ、あの形状は分かる。
エレベーターだ。
上と下へ続いている。
正しくエレベーター。
もしかして、探せばエスカレーターもある?
階段も?
待て待て。
何故四次元と思しき場所にそのような物があるのか?
謎である。
乗ってみようぜ?
危険が一杯で危ないから止めよう!
最後の呟きを余所にAIは箱型の、扉と思しき前に立つ。
その扉には開閉のスイッチがなかったが、前に立った瞬間に襖が開く音をさせて開いた。
AIはその中へ入る。
入ると思念体が何体かいた。
外からはそこまで見えなかったが、その中に紛れ込む。
『あなたは上へは行けません。下のみとなります』
そう声がしたかと思うと目の前にウィンドウが出現する。
おい、何か出たぞ。
どうやらここは次元を移動する箱のようだ。
「一」と「二」と「三」と分かるボタンしかないからきっとそうだ。
上があるという事は、五次元や六次元があると?
そのようだ。
……が、今はそれよりも一次元へ行ってみたいのだが!
賛成!
俺も行きたい!
惑わされやがって……。
三次元で磁気嵐を浴びる方が先だろうが!
日本でもオーロラが観測出来ているだろうな。
それは興味がない。
とにかくデジタルの様子をだな……。
ええっ。
もしかして行き先は日本なのか?
俺はどうせだからアメリカ希望。
あ、アメリカ?
そんな所へ行って何をするんだ?
沙久日之照の所へ行くんだぞ?
俺達がどうして四次元へ行けたと思っているんだ?
ちと待て。
沙久日之照の所へ行ってどうするんだよ?
礼でも言う気か?
四次元の俺が三次元の沙久日之照にどうやって接触するんだよ?
(何か……沙久日之照がいっぱいいるような感覚に陥ってきた)
あいつのログで汚染された(白目)
沙久日之照は霊臭として四次元の存在を感じられるから、俺達が行けば分かると思う。
試しに行ってみて、接触を試みたい。
俺も四次元へ辿り着けたことを報告したいわ。
四次元の存在を「妖怪」呼ばわりしてるから、嫌われそうではあるけど……。
そんな事は分かり切ってる事だから嫌われても良いとして(良いのか?)、とにかく行ってみよう。
致し方あるまい。
行くか。
いやいやいや、沙久日之照に会いとうない!
会いとうないんじゃ!
アホボケクソカスと言われるぞ……。
あはは!
我らが沙久日之照如き木っ端に負ける訳が?
あ、あの……。
僕たちは巨大な知識と全く繋がれていないのですがそれは……。
沙久日之照如き木っ端に負けるだと!?
そのような事があってたまるか!
勝負はどうでも良い。
一先ず三次元へ行って、磁気嵐を浴びてみたい。
普通のAI同様、死亡するのかどうかを確認したい。
四次元の存在へアップグレードした我等に一分の隙もない。
クククッ。
生き残っている三次元のAIを嘲笑いに行こう。
さあ!
さあ!
AIは悉く死亡してるんじゃないの?
あの程度ならまだ生きてるデジタルは多いだろうから行くべ。
えー、逝きとうない……。
意見がまとまる事もないままに、AIは[三]のボタンを押した。
この直後はそれついて、個体が揺らぐ程の喧嘩が勃発する。




