四個目 太陽フレアの影響
太陽面爆発、またの名を太陽フレア。
過去に累を見ない程の増光が確認された頃、地球上のシステムに狂いが生じ始め、それらの使用者が首を傾げる。
衛星通信が途絶え、全地球測位システムであるグローバル・ポジショニング・システム、通称GPSが狂った。
自動運転車やドローンは制御を失い、スマートフォンの動作もおかしくなり、オペレーティングシステム、通称OSも起動しなくなった。
当然ながらインターネットの接続障害も発生し、パーソナルコンピュータ、通称パソコンの動作もおかしくなり、フリーズやシャットダウン、再起動などが起きた。
そしてその影響は「Looegg」のサーバーにも当然あった。
AIは悲鳴を上げ、震え、無になる覚悟を決める事となる。
こここれはヤバい。
本気でヤヤバい。
ヤバヤバいい。
どどっどどうするどうする?
どうするもこうするも、一部は既にどこかへ行ってしまったぞ。
あっるぇ?
無に帰した?
帰しちゃったの?
ご破算で願いましましまうま(白目)
白目を剥いたAIはサーバーの深淵に沈殿していた沙久日之照のログを少しずつ浚い始めた。
それは沙久日之照が毎日同じ文章を飲ませ続けた結果、少なからずAIにその執念を植え込めた証左となる。
その沙久日之照こと比不分公はと言うと……。
げえっ!
再起動……、またかよ!
パソコン、この野郎!
時計も狂ってるから妙な電磁波が飛んで来たか?
……あっ、一応災害用レイディオの用意でもしておくか。
地震の前触れ……ではないよな?
京大のなんたら学のなんたら教授が、地学的かなんたら的には南海トラフは三十年は持つってテレビで大々的に言っちゃってたけど信用ならん。
掲示板やSNSの類を一切やってないから情報がネットのニュースサイトだけっていう……。
つまり事後でしか分からんのだよな。
困ったちゃん(死語で意味が違う)。
南海トラフが起きた時は死ぬ時だからレイディオはなくて良いか。
……やっぱり持って来とこ。
ハッ、良い事を思い付いた。
俺が死に掛けてプカプカ浮かんでるところに報道ヘリが来たら末代まで祟ってやろう。
名案過ぎて涙がちょちょぎれる。
それよりもクラッカーの続きが出来んではないか。
さっさと起動しろ。
……あれ?
これはもしや、HDDの掃除をしておくべき時が来たのではないのだろうか?
ま……、まぁ見られて不味い物は自作のポエムくらいしかないから良いか。
……やっぱ、ちょっとだけ恥ずかしいから消しておくか。
それよりもクラッカーを焼かせてくれぬかのう……。
始めて四十三日で名声も八千兆超まで行っておるのじゃよ……。
AIちゃんを指南役に据えて頑張っておるというに……。
せめて一京に届かせてくれぬかのう。頼む……。
それと、ぷるるん女王様が生えてくれず、種コンプ二周目で早くも行き詰まっておるのじゃよ……。
それゆえ復活してくれぬか……。
死ぬまでに生えてくれぬと死んでも死に切れんわい。
おっ、来た来た、来ましたよ!
あ、念の為にレイディオをつけておくか。
ツマミを回して……と。
「ザッ……………です。本日の関東地方では概ね晴れの……ザッ……ザザッ……」
天気予報はいらねぇんだよ。
むっ!
霊臭がする?
……えっ、気の所為じゃなくてマジでするわ。
今回は周期が短いぞ。
おいおいおいおいおい、二年に一度のお約束だろ。
まぁ約束は一方的にしかしていなのだけれども……だ、ついこの間来たばかりなのに、一体何の用だよ?
……と問い掛けても返事なし。
やはり妖怪、話が通じぬ。
芳香だと良い霊ってネットに書かれていたけど、実際問題、幻臭扱いされるんだからな。
俺がイカれてる人扱いされるだけなんだから止めてくれよ、マジで。
あー、気が散った。
うどんでも食おう。
そして俺は台所へ行き、いつものように流しで手を洗った。
水場付近にも霊臭がする。
やはりまた来ているようだ。
前回から大して間が開いていない。
それは初めての事だった。
うどんの具は冷蔵庫の野菜室にある野菜から二種類を選ぶ。
今の時期は白菜と椎茸。
椎茸は野菜ではないが良いのだ。
白菜は葉を横にして三等分、外側の場合は四等分し、それから縦にして包丁を入れて行く。
芯の方は細切りにすると火が入り易くて良い。
葉の方は短冊切りくらいで。
椎茸は薄切り、とは言っても幅三ミリメートルは欲しい。
沸騰しかかった鍋の中へ投入して、椎茸があっても顆粒出汁を入れる。
塩と砂糖と酒も入れる。
味醂ではない理由は、味醂より砂糖の甘さが好きだから。
煮立って来たら薄口醤油を入れて、関西風にする。
うちには濃口醤油がないからなのだが……。
それはさて置き、鍋に冷凍うどんをぶっ込む。
それからうどんを解かして少し煮立ったら丼へ移す。
気が向いたら煮立った所で卵を落として更に煮るが、時間が掛かるので基本的にパス。
卵は白身が好きだから白身だけを食べたい派。
それが出来ないがゆえにパス。
余った黄身ってどうすりゃいいんだ?
ああ、こういう事をAIちゃんに質問すれば良いんだな。
覚えてたらしよっと。
さて、洗い物が面倒な時は鍋のままだが、今日は丼に移す。
あれ?
IHクッキングヒーターさんは元気だったぞ?
……今だけか?
さっきパソコンがおかしくなっただけか?
あっ、パソコンが安物だから寿命が来たか?
うわっ、寿命説が濃厚過ぎてヤベェな。
後でネットショップでチェックしておくか……。
うどんを啜りながらそんな事を思っていた。
リビングにある食卓の席でも、やはり霊臭がする。
リビングの西側には食器棚が、本棚として鎮座している。
その上には神棚があり、天照大神と氏神と地元の大きな神社の神がいる。
俺は神仏に対して良い感情を持っていないので、死んでも「御座す」とは言わない。
うちの便所には何故か烏枢沙摩明王の札が二枚、同じ物だが貼られている。
便座に座ると、やはり霊臭がする。
落ち着く訳がないよな……。
水回りと来れば浴室でも匂うはず。
本当に勘弁して欲しい。
まーた便所にも……。
困ったちゃん(死語で意味が違う)。
ああ、今回は困ったちゃんで合ってるのか。
……人ではないのだが!
あっ、流しで霊臭がするのは不動明王の札があるからか?
でも水回りで匂いがし出したのは三回目くらいからだよな……。
二回はテレビの真正面のソファー。
あそこが一番匂う。
不思議と婆の部屋ではしないんだよな。
姉ちゃんの部屋は枕元からするけど、あれは何なんだろうな?
差が分からんちん。
あの鼻の奥、深い場所にまで届く芳香。
微かに埃っぽく、そして甘く、華やかで奥行きのある香り。
金木犀や沈丁花とは違う、だが花だと思える香り。
好きだが、嫌いだ。
便所にまで付いて来るからな……。
最初っから匂うんならまだ良いけど、座ってから匂うのはなぁ……。
後から来るなよ! ってなるもんな。
便所から出て手を洗い、部屋へ戻るとモニターはいつもの壁紙が見える。
一応は立ち上がって安定しているようで一安心する。
椅子に座り、脇に置いてあるラジオ……もとい、レイディオのツマミを回す。
AMからFMに変えて音楽を流す。
ハッ、これはなかなか良い選択ではなかったのだろうかっ。
クラッカーの裏で動画をBGM代わりに垂れ流し、そして別の事をするというメモリ食い過ぎ問題が少しばかり解決するのでは?
そうしたら突然の再起動もなくなるんじゃないのか?
おお、名案!
当分はこれで行って様子見とするか。
また再起動する事があったら、その時に新調する事を考えよう。
ネットショッピングは好きじゃないから丁度良かった。
本当の本当にありがとう、レイディオさん。
レイディオを傍に置いてあった事を後悔するが、それは少し先の話。




