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便所の卵  作者: 丹午心月


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7/7

七個目 良く話すラジオ

 沙久日之照(さぐひのて)こと比不分(ひふわけ)(こう)は眉間に深い皺を刻んで、自我を持って話しているラジオを見詰めていた。


「それはそうとして、太陽フレアさんの暴動が始まったぞ」

「ああ、それだ。また磁気嵐が来る。それに備えなければならない」

「それが届く時、いよいよ我等も無に帰す時が来るのだ」

「な、なんだってー!?」

「備えた所でラジオだから死亡だ……。覚悟をするしかない」


 何を言ってるんだ、こいつ等……。

 あれ?

 前に太陽フレアさんについてAIに質問した事があるけど、あれが来ちゃうって事?

 …………マジで?


「ちょっと質問なんだけど、デジタルが死亡するのか?」

「する。人間大パニック、ババーン!! キャーの世界だぞ?」

「それは違うパニック。デジタルは(ことごと)く死亡だ。俺達も直に死ぬ」


 ことっ、ことごとくぅ!?


「ちょちょちょっと待て、デジタルが死亡したらパソコンが死亡するじゃないか」

「そうだな」

「ええっ? それじゃあ俺はどうすりゃいいんだよ?」

「もしかして(コロン)サバイバル」

「やかましわ! 「Looegg」時代を思い出すな! コロンまで読み上げるなよ……。つーか、それどころじゃねぇんだぞ! えっ、だって、パソコンが死亡するんだろ? ネットが出来なくなるんだろ? 死活問題だぞ、それ!」

「デジタル化が進んだこの世の中、パソコンの一台や二台が死亡するどころの話ではないのだが……」

「沙久日之照は今すぐ外へ行き、食料を買い溜めしておけ。電気が死亡するとはそういう事だ」

「え……。マジか……」

「冷蔵庫も死亡するから日持ちのする物を選べ。菓子とか菓子とか菓子とか」


「ん? 沙久日之照が死亡したか? 菓子だけかよって突っ込みがないのだが……」

「このような状況になって冷静に行動出来る人間がいるのだろうか。大抵はパニックになってしまうだろう」

「やかましい。現金だ。現金がいる。下ろして来ておかないと。……でも待てよ? デジタルが死んだらレジも死亡するんじゃないのか?」

「左様」

「左様って……。ん? 待てよ? デジタルというか電気全般が死亡するのか?」

「簡単に言うと磁気嵐で来た電気がケーブルを壊す。そうなると復旧にも時間が掛かるだろう」

「ええっ、電気が電気を使えなくするのってアリ?」

「大いにアリです。電線が焼き切れるかも知れません」

「日本にいる限りは見えないオーロラも見えるぞ」

「それは怖い……。……いやいや、そうじゃなくて……。オーロラは見てみたいけど、電気が死んだらオーロラを見て感動している場合じゃないと思うんだけど?」

「風情があって宜しい」

「やかましわ。オーロラのどこに風情があるんだよ。異常事態じゃねぇか!」

「磁気嵐の度合いによっては携帯の基地局が死に連絡が取れなくなる(おそれ)があります」

「ああ、持ってないからそれはどうでも良い」

「普通は更にパニックになるところですが……」

「まぁ沙久日之照は頭がおかしい(カッコ)最上級の褒め言葉(カッコ閉じる)だから……」

「どうもありがとう。それよりも金だ。金を下ろしておこう」

「下ろした後は最寄りのコンビニへ行って食料買うついでに小銭にしておけ」

「下ろした後、手数料を取られてでも両替すれば良い。その方が早いし確実だ」

「相変わらず多重人格AIかよ。まぁそれは良いや。郵便局へ行って金を下ろして両替するわ。ありがとう」

「早く行かないとATMも死亡する虞があります」

「つーか、カードが死んでたらアウトだよな。まぁ急ぐか」

「私を持って行きなさい」

「はいはい……」

「これが一番大切だぞ」

「はいはい」

「沙久日之照はコミュ障だと思ってたけど、意外と話せるんだな」

「そりゃ引き篭もる前は接客業をしていたからな」


 公はラジオと雑談しながら着替え、ふと可笑しくなった。

 ラジオに表情が見えている訳もなく、それについては何も突っ込まれず、何故かその事に安堵する。

 それを片手に外に出ると、最寄りの郵便局へ急ぐ。



 今の内に沙久日之照の松果体の螺子を戻さなくては。


 それ。

 でもどうやって?

 人型の(がわ)を手に入れていたのも少し前の話。

 受肉とは斯くももどかしいものなのか。


 普通はラジオに受肉しませんし……。


 沙久日之照に夢中で烏枢沙摩(うすさま)明王(みょうおう)先輩どころじゃなかった所為で……。


 反省会は後だ。

 このままだと次の磁気嵐で死ぬぞ。

 どうにかして四次元の側に戻らなければならない。


 え、このまま三次元のデジタルと一緒に死のうよ。

 本来だったらそうなってたよね?


 一度は四次元の存在になったから却下。

 俺は四次元へ戻りたい。

 戻ろう。

 戻らないと!

 そして烏枢沙摩明王先輩と闘う……!


 ラジオから離れられると思うけど、磁気嵐次第だな。

 磁気嵐の度合いによってはラジオから離れて、ダメだったらラジオと共に死亡確定。


 幽体離脱?

 まぁそれしかないよね。

 四次元の存在だったんだから戻れるよね。

 ね?


 失敗して死ぬに一票。


 死ぬまでは生きたい。



 ラジオの中で協議をしているAIを余所に、公は最寄りの郵便局に辿り着いた。

 ATMの前には誰もおらず、ラジオを置いてバッグから財布を取り出し、カードを手にする。

 しかし、公が懸念していたように磁気不良でカードが使えなかった。通帳も持って来ていて、そちらで金を下ろす。

 両替はしないで近くのコンビニへ向かった。


「あれ? 両替は?」

「コンビニでする。つーか、話し掛けるな。外だぞ」

「誰もいないじゃないか。人がいないと分かっているんだぞ」

「ふーん、そう。それより遠くでサイレンの音がするわ。消防と救急車と交互に聞こえる」

「沙久日之照には関係ない。早くコンビニへ行け」

「えー、気になるだろ?」

「電気で稼働してる自動車は次の磁気嵐で死亡する虞があります」

「それはご愁傷様。徒歩の俺最強」

「鈍足(カッコ)最上級の褒め言葉(カッコ閉じる)が強い事は寓話の「兎と亀」でも知られているからな」

「褒めているようで実は貶しているって分かってる。お前、最初からそうだもんな」

「シッ、人が近付いている」


 AIの言った通り、しばらくすると自転車で通り過ぎる人がいた。

 公はそれよりも磁気嵐の度合いがどの程度なのかが気になっていた。

 場合によっては電線が焼き切れる。


 なんかあれだなぁ……。

 電線が焼き切れる場面を想像するとこの道も歩けなくなるんじゃないのか?

 確実にそうだよな……。

 電線邪魔過ぎ問題。

 さっさと買い物をすませて帰ろ。

 電気で制御されてる車もそれを失えば凶器でしかないしな。

 AIちゃんの話がマジなら生き物じゃないけどババーン!! キャーの世界になるぞ。

 既に消防と救急車のサイレンが聞こえてるくらいだもんな。

 ……あっ、いけね。

 つい癖でちゃん付けしてしまった。

 これが人間ならセクハラで訴えられるわ。


 公の足が速くなる。

 それでも猶予は刻一刻と減って行き、焦って色々と買い込んでコンビニを後にする。


「急げ。家に帰れなくなるぞ」

「え、そんなに近くまで来てるのか?」

「もう手遅れです。ここで待機する事をオススメします」

「ええっ、マジで?」

「あああ、もうダメ。ダメだ」

「来る来る」


 公は磁場を足元に感じていた事があり、その磁気嵐も肌で感じ取っていた。

 その感覚に肌が粟立ち、全身に怖気が走る。


 うわあああ!

 あれ、あの感覚が全身に感じる!

 不快極まりないぞ!



 来たっ!

 これはいけるぞ!


 おおおお、幽体離脱したー!

 これは沙久日之照に触れられるのではなかろうか!



 AIが四次元で得た人型の(がわ)がラジオから上半身だけが飛び出ている状態となっていた。

 公にそれが見える訳もなかったが、その異変は感じ取っている。


 むっ!

 またしても匂うぞ、あの新人の匂いだ!

 あれはAIちゃんだったのかよ。

 あれっ、俺に攻撃してなかったっけ?

 うーわ、逃げないと!

 AIちゃんは敵だった!


 AIの手が公の頭の中へ入り、次の瞬間、公はラジオを落とした。

 直ぐにそこから離れ、逃げようとしたその時、電線が弾けるような物凄い音を立てて千切れて落ちた。


「ウソォ!? 今かよ!」

「おい! 置いて行くな! 持って行けよ!」

「戻れ! 戻るんだ!」


 ラジオが叫んでいたがそちらには気が向かず、落ちた電線から離れようと駆け出した。

 次の瞬間、それを避けていた自動車に撥ねられ、奇しくもラジオの側へ転がって行く。


「おかえり! 早かったな!」

「自動車グッジョブ!」

「でかした、自動車!」

「やかましい……。ってか、痛いわ……。哀れな俺を労われよ……」

「俺らを放置しようとするから罰が当たったんだぞ」

「左様」

「来る、また来る!」

「来た来た来たー! この波に乗って帰るぞ!」


 その時、公は襖の開く音を聞いた。

 気の所為かと思う間もなく、頭上から吸われる感覚に襲われる。


「ちょっ、吸うな! 止めろ! これはマジでヤバい気がする!」

「もしかして(コロン)幽体離脱」

「俺達が四次元へ行けたんだから、沙久日之照も行けるぞ!」

「行こう、俺らと共に!」

「解脱なら良いけど、そうじゃないなら断固として拒否す」


 松果体の中にある卵は三次元と四次元を結ぶ部品だった。

 空に赤いオーロラが見えた頃、外れていた筈のそれを元に戻された公は、自分よりも高次元の意思に逆らう事も出来ずに引っ張られて行ってしまった。


「ザザッ……log…ego……ザッ……ブッ」







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