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無能聖女の私、放課後に出会った「もふもふ」に悩み相談をしていたら、その正体は呪われた最強騎士様でした  作者: おでこ


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第九章 卒業までの修行①


大礼堂の一件から、三日が経った。


その日の朝、全見習い生が礼堂に集められた。


壇上に立ったセルヴィア様の顔は、いつもと変わらず穏やかだった。でも——その静けさが、かえって重かった。


「本日は、先日の一件に関する処分を正式に発表します」


礼堂が、しんと静まった。


「グランドール教官については、教官職を即日停止とし、五年間の本学院への入構を禁じます。加えて、騎士団への業務妨害に当たる行為として、別途罰金の処分を科します」


誰も声を上げなかった。


「クローデット・ファラン見習いについては、一ヶ月の停学処分。成績は維持しますが、今回の行動により、騎士団専属聖女職への推薦資格を取り消します。また、これまでの学院トップの称号は剥奪し、今後は正規の認定試験を改めて受験するものとします」


クローデットは、最前列で背筋を伸ばしたまま動かなかった。


「そして——私、セルヴィア自身についても、お伝えしなければなりません」


礼堂がざわめいた。


「エルセ見習いへの長期にわたる不当な評価を看過し、今回の封書の件についても事前に把握できなかった。これは学院長としての責任であると判断しました。私は今年いっぱいをもって学院長職を退き、来期より後任に引き継ぐことを、本日ここで表明します」


「……」


誰も言葉を出せなかった。


「学院は、これを機に評価基準の見直しを行います。測定水晶の限界についての研究を進め、エルセのような特性を持つ見習いが、二度と埋もれないよう努めていきます」


セルヴィア様が、礼堂全体を静かに見渡した。


「以上です」


礼堂を出る時、廊下でクローデットと一瞬だけ目が合った。


彼女は何も言わなかった。ただ——先に目を逸らした。


それだけでよかった。


        ◆


その日の午後、セルヴィア様に呼ばれた。


学院長室には、二人の教官が先に座っていた。魔法理論の専門家であるラングリット先生と、古代魔法を専門とするロースタ先生だ。


「座りなさい、エルセ」


「あなたの力について、分かったことをお伝えします」


エルセは背筋を伸ばして、先生たちを見た。


「エルセ——あなたは、初級・中級・上級の光魔法に、適性がありません」


真っ直ぐな言葉だった。でも、続きがあった。


「それは、あなたの力が弱いのではありません」


ラングリット先生が書類を広げた。


「通常の光魔法は、術者が外から魔力の因子を引き寄せ、形を与えて放出します。初級から上級まで、全て同じ仕組みです。しかしあなたの魔力は、少し異なります」


「……異なる?」


「ええ」


ロースタ先生が、低い声で続けた。


「あなたの魔力の特性は、引き寄せるだけではなく——その光を限界まで凝縮させ、収束させることです」


「収束、ですか」


「はい。通常の光魔法が川の流れだとすれば、あなたの力は——光をどこまでも圧縮して、一点に集める圧力です。密度があまりに高いため、通常の測定水晶ではその反応を感知できない。小さすぎて見えないのに、実際には途方もない力が宿っている」


「だから、測定不能だった……」


「そうです。水晶が光らなかったのは、力が弱いからではなく——通常の測定水晶では、その高密度な魔力の塊に反応しきれなかったからです」


「神託の儀で光晶が光ったのは」


「大聖女用の光晶は、その桁違いの密度にも反応できる精度を持っています。だから、光った。そして先日の礼堂での一件——大聖女用の水晶が割れたのも、その収束された力が限界を超えて解放されたためです」


(そういうことだったんだ)


「一つ聞いていいですか」


「どうぞ」


「光を凝縮させる性質なら——なぜ、学院の審査で、何も出せなかったんですか。収束させた力は、どこかに行っていたんですか」


ロースタ先生が、少し表情を緩めた。


「良い質問です。収束された力は、消えていたわけではありません。出力する方法が分からなかっただけです。鍵が閉まった部屋の中に、大きなエネルギーが溜まっている状態——扉の開け方を知らなければ、中のものはどこにも行けない」


「その扉の開け方が——浄化を意図した時に、自然に開いた?」


「呼び水が必要だったのです。あなたの中にある力が、何か大切なものを守ろうとする感情に引き寄せられ、初めて出口を見つけた。おそらく、その経験がなければ今もまだ扉が閉じたままだったかもしれません」


エルセは、自分の手のひらを見た。


(あの時。もふもふさんに、触れた時と似たものをアルド様に感じた)


(あれが——開いたきっかけだったんだ)


「騎士団に入団するためには、力を使えるだけでなく、制御できなければなりません」


セルヴィア様が、テーブルに手を置いた。


「収束させた力を、必要な時に必要な量だけ解放できるよう——学院の残りの期間を使って、あなたのための専門的な訓練を行います」


「……分かりました。精一杯やってみます」


「一点、申し上げておきます」


ロースタ先生が、書類を閉じた。


「超級の白魔法の使い手は、過去の記録に三人存在します。いずれも測定不能の烙印を押されながら、後になってその力が証明された人物です。そのうちの一人は、国を救う瘴気の根絶を行ったとされています」


「……」


「あなたにそれができるかは、これからの修行次第です。でも——その素地は、十分にある」


エルセは、静かに頷いた。


        ◆


修行は、思っていたより遥かに難しかった。


収束させた力を解放する、という感覚が、最初は全く掴めなかった。力が溜まっているのは分かる。でも、それをほどく方法が分からない。


「扉を開けようとするのではなく——溜まっているものを、少しだけ隙間から逃がすイメージで」


ラングリット先生が、何度も言葉を変えながら教えてくれた。


三日目に、初めて「細い糸」ほどの光が出た。


「……出ました」


「出ましたね」


先生の声が、少しだけ温かくなった。


一週間で、糸が小川になった。


一ヶ月後、掌サイズの瘴気結晶を、制御しながら浄化できるようになっていた。


「先生。もっと大きいものに試していいですか」


「では、この結晶で」


台の上に中型の瘴気結晶が置かれた。今まで使っていたものの五倍はある。


手のひらを向けた。


収束した力を、隙間から。細く、均一に。


瘴気結晶が、震えた。


ほどけた——霧が晴れるように。


「……制御を保ったまま、ここまでの出力が出せるとは」


ラングリット先生が、長い沈黙の後に言った。


「やりました」


「はい。次の段階に入りましょう」


「次があるんですか」


「移動しながらの浄化と、複数対象への同時干渉です」


エルセは少し、空を見た。


「分かりました。やります」



読んでくださり、本当にありがとうございます!


続きが気になる!と少しでも思っていただけたなら、

評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やリアクションで応援いただけると、本当に飛び上がって喜びます!


また次回でも、お会いできることを楽しみにしております(*‘ω‘ *)/

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