笑顔の破壊力
「ハハ!すげえ顔!冗談だよ。こっちは熊とか出たらあぶねーって、一晩中焚火して見張ってたんだから冗談ぐらい良いだろ?」
イヤイヤ、全開の笑顔ヤッバ!
なんなの、この人同じ人間なの?私今蒼大の美しさに驚きすぎて瞳孔開いてんじゃない?!
毎日間近で見てた同中の子達は好きになっちゃうだろうし、心臓部が相当鍛えられたはず。
高校は男子校に行ってたけど正解ね。共学に行ってたら蒼大以外でときめけない女達を製造しまくってたかもしれないわ。
でも重ね重ね私は好きにならないわよ!だって人間って顔だけじゃないでしょう?中身が大事よ!
って、一晩中見張っててくれたんだ?地面を見ると木々の間隔が広く空いている場所にそこまで深くない穴に焚火をした跡があった。
周りに木があるから安全の為に穴を掘って焚火したんだろうな。それに夜通し起きて見張ってくれるなんて、見た目や「うぜー」の印象と違って優しいかも。
ググッと蒼大の高感度が上がっていくのが分かる。
「私だけ寝ちゃってごめんね。見張ってくれてありがとう」
素直にお詫びとお礼を言うと蒼大は少し目を見開きぷいっと他所をむいた。
少し耳が赤く染まったのは気のせい?それともお礼を言われるのに慣れてないとか?
ヤンキーだし粗野なイメージしかなかったけど、こうやって話してみると良い人なのかもしれない。
気付いたら見知らぬ場所にいた話で圧倒的に多いのが異世界転移だよね。後はタイムスリップとか。
でもこんな事を口に出したらまた蒼大に溜息を吐かれそうで言い出しにくい。
言葉を飲み込みちらりと蒼大に目を向けると、口元に手を置き、私と同じくどうなってるのかと考え耽っているみたい。
私達がいくら考えても正解を教えてくれる人はいないんだけどね。予測はしておきたい。
視線が合うと蒼大は口元からぱっと指を離した。
「これってさ、もしかしてあれじゃね?異世界転移ってやつ!」
少し興奮気味に言ってきた蒼大の顔は至って真剣。この表情もかっこいいのはさすがすぎる。
って、さっきから感心してる場合じゃないわ。私はファンになる気はないんだから!
どれだけカッコよかろうが冷静に、至って普通に対応するのよ。それにしても異世界系知ってるなんて意外だわ。異世界漫画も読むのね!何だか嬉しい。
「私も思ってた!信じられないけどその可能性あるよね?異世界トラック転移版!」
「それな!」
2人で目を合わせしっかり頷き合う。
こんな非現実的な事が起こるなんて思いもしなかったけど異世界転移という言葉がしっくりきてしまう状況。
でも、本当にここが異世界、私達がいた世界じゃないなら覚悟を決めないといけない。
自分の夢とか親や友達、まだ未完結だった漫画の事を考えると一気に心が曇ってしうけど。
今そんな事を考えて落ち込んでもどうにもならないし、来ちゃったものはどうしようもない。
あるか分からない帰る方法を探すよりまずは生き延びる方法を探す方がずっと大切だと思う。
考えていると蒼大が口を開いた。
「ショックかも知んねーけど、こう言うのって自力じゃどうにもならなそうだからさ。これから生きる為にどうするか考えようぜ」
じっと私の目を見て言い聞かせるようにゆっくり言葉を発した蒼大はまるで私の心を読んだみたいに同じ意見。
「うん、私も同じ事考えてた。生き延びる方法を探そうって」
「そっか」
蒼大は少しホッとしたような顔を見せた。その表情もカッコいいのは置いといて。何故だか私もホッとした。