ステータス!
「そう簡単には見つからないよね……」
「もしかしたらと思ったんだけどな」
どれくらい歩いたかな?行けども行けども同じような風景が続き、同じ所をぐるぐる回ってるんじゃないかと思う程。
喉はカラカラ。息するだけで乾きが増していく。
「体中の水分が蒸発したかも。お水、お水飲みたい」
「その辺で休憩するか」
蒼大が指差した大きな木の根元に座り込む。
地面に手を置くと、ジメッとした土の感触。
この湿った土から水を絞り出す方法はありませんか……
無理だと分かっていても、藁にも縋る思いで土を手に取りギュッと握りしめる。
蒼大は何故か座らず、立ったまま私を見下ろした。
「何やってんだ?手が汚れるぞ」
「絞ったら水が出ないかなって……このままだと死んじゃうよ」
見上げて答えると呆れているのか心配しているのか眉尻を下げた。
「ちょっと待て、今水出すから」
水を出す?どうやって?!驚いて見ていると、蒼大は特攻服の上着を脱ぎ捨て黒いTシャツ姿になった。
理由が分からないまま眺めていると蒼大は不敵な笑顔を見せ、両腕の付け根に手を当て黒い紐を掴んだ。
「あ!バッグ持ってたの?」
思わず声が出てしまった。蒼大はダボっとした特攻服の下に、ビニールバッグを背負っていたのだ。
「そ。隠してたわけじゃねーけど、少ししかないからさ。はいこれ、七海の分の水」
差し出されたのは、新品の500mlペットボトル。
「えー!いいの?蒼大の分は?!」
「俺の分もあるから心配すんな。ただ1本ずつしか無いからさ。限界になったら渡そうと思ってた」
「……ありがとう!大切に飲むよ」
震える手で蓋を開け、一口。常温で生ぬるくなっていたけれど、どんなジュースより美味しく感じる。
ああ、細胞が一つずつ覚醒していくみたい!
一気に飲み干したい誘惑に打ち勝ち、ちびちびと飲んで蓋を閉める。
それにしても、買って開けてない水を偶然2本持っていたなんて凄くない?!
「……凄いね!たまたま開けてない水2本も持ってるなんて!ありがとう!」
改めてお礼を言っただけなのに、蒼大は少しだけ視線を泳がせた。
「お……」
ぶっきらぼうに顔を背ける蒼大。
お礼を言われるのに慣れてないのかな?
不器用だけど、この極限状態で大切な水を分けてくれる蒼大が天使に思えて来るよ。
蒼大は照れ隠しのようにバサッと特攻服を羽織り直した。
赤い特攻服を着た、金髪の天使様。
木陰で少しの休憩を終えて立ち上がる。
本音はもうちょっと休みたい。けど、早く水場を見つけないと死んでしまうかも。
「行くか」
「うん。でもどっちに行く?」
「確かこっちから来たよな?」
蒼大が指を差す。確かに右手側から来たけど確認しないと不安になる程同じ風景。何か目印でもあれば良いんだけど。
ぐるりと辺りをよく観察してみるけど、整然と立ち並ぶ木々は方向感覚を狂わせる。
「方向感覚なくなりそう」
「な。……おい、あれ。獣道じゃね?」
蒼大が指差した草むらに、薄っすらと踏み固められたような跡があった。
「本当だ!野生動物に遭遇するかも知れないけど、上手く行けば水場に着くかも」
「よし、決まったな!一応武器も用意しとくか」
蒼大は近くに落ちていた手ごろな太さの木の棒を拾い上げた。まるで細めの棍棒だ。
私も負けじと近くに落ちている細い枝を拾い上げる。
何の変哲もないただの枝だけど——異世界なら魔法が使えるかもしれない!
ドキドキしながら木の枝を前に突き出し、大きく数回振ってみた。
無言で枝を振り回す私を、蒼大が怪訝そうな表情で見つめている。
「何振り回してんだよ。指揮者ごっこか?!」
「指揮者ごっこって!違うよ!ここが異世界だったら魔法が使えないかなって思ったの」
「あ~!なるほどな!呪文が足りないんじゃね?ファイヤー!とかさ」
一理ある。
「ファイヤー!」
私は杖をビシッと振り呪文を唱えた!
……しかし何も起こらなかった。
風が葉を揺らす音だけが空しく響く。
「プッ……ククッ……アハハハハ!」
本当に呪文を唱えた事が相当面白かったのか、笑い始めた蒼大はお腹を抱えて座り込んでしまった。
「ちょっと! 蒼大が呪文が足りないって言ったからやったのに!」
「わりー。本当に言うと思わなかったからさ!クク……属性が違うのかも知んねーし、ステータスを確認すればいいんじゃね?」
笑われすぎてヤケクソになった私は、木の枝を掲げて大きな声で叫んだ。
「ステータス、オープン!」
静かな森に、私の詠唱と蒼大の爆笑が響き渡る。
当然、目の前の空間には何も表示されないけれど。
蒼大の笑い声を聞いていると、なんだか自分でもおかしくなってきて。私も蒼大と一緒に、お腹を抱えて思い切り笑った。




