高鳴るボタン
数秒の沈黙の後、蒼大は気まずそうに視線を逸らし、ポリポリと頬を掻いた。
「……そ」
どこか照れくさそうな蒼大の横顔を、木の隙間から差し込む光が切り取るように照らしている。
正解したと言う明るい気持ちに、胸がチクチクするような少し残念な気持ちが入り混じって、頭の中がうるさい。
私、動揺してる。
運命の分岐だなんて言うくらいだから、告白に人生を賭けていたに違いない。ドキドキしながら待っていた蒼大の気持ちを考えると……急に申し訳なさが再発してくる。
私がぶつからなければ、蒼大はトラックから逃げられてたかもしれないって。
相手の子も蒼大に告白されたら100パーOKに決まってる。
罪悪感が渦巻いて、顔の前で手を合わせ力一杯謝る。
「やっぱごめん!私がぶつからなかったら蒼大は逃げられたかも知れないのに!」
「おいおい、俺時速何キロで走れると思ってんだよ!バケモノか!謝んなって」
「だって申し訳なさすぎて……好きな子にもう会えないかもしれないんだよ?!」
「あー……大丈夫。謝らないと気が済まないならもー許した。これでその話はオシマイ。どっちにしろ時期尚早ってやつだったから告れなくて正解だったんだよ。俺強運なんだよね」
好きな子に告白出来なくて強運の意味が分からない。やっぱり私に罪悪感を感じさせない為に言ってくれてるんだろうな。
「……ありがとう」
「お礼の意味がよくわかんねーけど。もうヘコむなよ」
大きな手がスッと伸びてきたかと思うと、ポン、と少し乱暴に手のひらが私の頭に乗せられた。
慰めるような手。温かい感触。私は思わず息を止める。
——ドクン
頭に胸が高鳴るボタンが付いてたみたい。
ボタンを押された私は漫画みたいに胸が高鳴り、必死に歯を食いしばる。
思い切りときめいてしまってるけど、蒼大にはあの雨の中告白しようとしていた好きな子がいるんだよ?!
今話してたところじゃない!ダメダメ!
「ねぇ、蒼大の好きな子はファン?」
動揺を誤魔化すように思わず口から出て、しまった!と思った。出会ったばかりの私に聞かれたくないよね、こういうの。
「何!?俺の好きな人が気になんの?」
意外な事に蒼大は嬉しそうな表情で覗き込んでくる。
「あ、うん。相手の子に申し訳ないなって」
「そっちか!ファンじゃねーよ。逆!顔しか知らねーのに寄って来る女と違って俺に興味ナシ!自分で言うのもなんだけど俺モテるから少しは意識してくれてるかと思ってたけど全くだった。はぁ。辛い」
「そんな人いるんだ?でも蒼大が好きって言えばうんって言うんじゃない?」
「……いや、100パーねぇよ」
蒼大は生気が抜かれたみたいな表情でガックリと肩を落とし、深い溜息を吐いた。
このモテ男蒼大をここまで落ち込ませるとは……
「そう悲観的にならなくても。相手の気持ちは本人に聞かないと分からないでしょ?」
慰めたつもりの言葉だったけど、蒼大は無言でじっと私を見つめ眉間に皺をよせ、さっきよりも長くて深い溜息を吐いた。
どんな子か分からないけど蒼大をここまで翻弄させる女子って凄い。ちょっと——いや、かなり憧れちゃう。
「はぁぁぁ……そうだ七海、こうなったらもう顔だけで恋しない女子は何処で男に惚れるのか教えてくんね?」
「中身じゃない?」
「だからどんな中身?もっと具体的に!」
「んー中身……頼り甲斐があって、男らしくて、優しくて、ケチケチしてなくて……あ、個人的に1番大事なんだけど、一途な人!」
蒼大は私の話をフンフンと頷きながら聞いていたけど、思い切り首を傾げた。
「あれ?俺それ全部当てはまってね?」
「自分で言う?」
「本当の事だろ」
「あはは!凄い自信」
あまりにも真面目顔で言うから、可笑しくて笑うと、蒼大も満足気に笑んだ。
「ヨシ、じゃー七海も笑顔になったし!行きますか!」
確かにさっきまでの罪悪感が消えて普通に笑ってた。計算なのか天然なのか、言う事も笑顔もヤバイ。
手を触れなくても胸が高鳴るボタンは押せるみたい。




