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ずっとずっと【本編完結】


「ナナミ!大変だ!」


 ある日の午後、家のリビングでスターとくつろいでいると、レノックスが血相を変えて駆け込んできた。

 珍しい事もあるものだと問いかける。


「そんなに慌ててどうしたの?」


「アレコ王国とココダース国が国境の土地の所有権で揉めてるんだ!双方とも一歩も引かない構えで、このままだと戦争になりそうだよ……!」


「戦争……?」


 思わず聞き返す。そういえば、ここクルーデン領の外壁にも戦いの跡があった。

 今は色々な技術も発展している。

 傷跡を残すだけじゃなくて、他国を巻き込んで滅ぼし合うレベルの戦争にもし発展してしまったら……


 スターの住む未来の世界に、一片の不安要素の種も残したくないと思った私は立ち上がった。

 野球連合の会長として君臨している今だからこそできる事。


 私は深呼吸をして、覚悟を伝える。


「レノックス、両国に伝えて『野球で決着つけましょう!もし、このまま争う姿勢を貫き、武力行使するなら野球連合から除名、スタジアムも取り壊し、連合から普及した野球道具も回収する』ってね」


「ナナミ……!強気だね?」


「スターの将来のためよ!」


 結局、私は野球連合の会長としてアレコ王国とココダース国の仲介役として間に入り、野球の試合で決着をつけさせた。


 試合はアレコ王国の勝利で終わったが、両チームの選手たちが、グラウンドの真ん中で握手を交わした。

 その様子に観客席から、大きな拍手が起こり、沢山の応援の声が飛びかう。


「お前達のプレーが見られなくなるなんて嫌だぞ!」


「俺たちが応援してるチームが無くなったらどうしていいか分からないだろー!」


 数人が叫び始めた言葉は伝染し、次第に一つになり、皆同じ言葉を繰り返し始めた。


「戦争反対、野球が見たい!」


 球場が震えているんじゃないかと思うほどの、平和を願う大コールに思わず涙が滲んだ。


 そんな中、両国の王様がグラウンドに降りて中央に歩み寄った。

 両手を上げ、観客に落ち着けと合図する。

 大コールが止むと、用意されたマイクを握り、勝利したアレコ王国の王が声を上げた。


「観客の皆さんありがとう。心からの叫び、心に響きました。戦争などしている場合ではないと……我が国はたった今、一つの決断をした。素晴らしい試合をしたココダース国に敬意を表し、国境の土地の所有権を半分ずつにしたいと思う」


 割れんばかりの拍手の中、ココダース王国の王はアレコ王国に深く頭を下げ、二人の王様は笑顔でがっちりと握手を交わした。


 ああ、野球って、スポーツって本当にすごい。

 人の心を動かして、争いを止めて、笑顔を作った。


 そして私は連合の規約に「加盟国同士で揉め事が起こった場合、野球で解決する事」というルールを付け加えた。


 それから数ヶ月後。

 なんと、私は世界平和賞を受賞することになってしまった。

 言われた瞬間、口をポカンと開け、暫く呆けてしまった。


「世界平和賞って……私が?」


「ええ、野球によって戦争を回避した功績が認められたそうだよ」


 レノックスが授賞式の案内状を差し出してくる。


「でも私がやったことって、スターの未来の為だし、ただ野球で決めましょうって言っただけだからそんな……」


 恐れ多くて断ろうとすると、蒼大が横から口を出した。


「待て、七海が言わなかったら本当に戦争になってたかもしれないってチームの皆も言ってたぞ。俺らの監督すげえって。まー俺の嫁だけど。とにかく、胸張って貰うべきだ」


「その通りだよ、ナナミ」


 蒼大とレノックスの言葉に、少しだけ勇気を出し、胸を張る事に決めた。


「……うん」


 と言うわけで、世界平和賞の受賞がニュースになると、私の学校教育制度改革案もおまけでニュースとなり、日の目を見る事となった。


 まさに棚からぼたもち。

 あれよあれよと可決され、高校教育が導入。


 他連合国でも教育制度に注目が集まり、「我が国でも、六歳から十八歳までの学校教育を導入します!」と、次々と各国が宣言していく。


 落ち着いていた野球連合に加盟したい国も再び増え始め、加盟と同時に教育制度も取り入れていく。


 計画通り。いや、計画以上のスピードだ。

 私は私財を投げ打ち、各国の学校にグラウンド整備の支援と野球道具を寄付した。その甲斐あって野球部が発足。


 そして——ついに。

 念願の『全国高校野球大会』が開幕する日がやってきた。


 開幕式当日。

『ボーーーーッ!!』


 クルーデン領の青空に、機関車の汽笛が高らかに鳴り響く。


 完成したばかりの鉄道路線が、遠く離れた国々から球児たちを次々と運んでくる。


「おおおお!野球の聖地、クルーデン!」


「スタジアムがデカい!」


 目を輝かせた球児たちが、ぞくぞくと降りてくる。

 そんな球児達の視線を惹きつけるのはピンクマンとデニスだ。


「ハッハッハ!未来のプロ選手たちよ、俺のリーゼントを目に焼き付けるがいい!」


 と、ピンクマンは選手入場口付近で決めポーズ。

 一緒にいるデニスは隣で「俺の特攻服ユニフォームもじっくり見るがいい!」と背中の刺繍を見せつけている。


 純真無垢な球児達は恐る恐る近付き、二人を囲むように人だかりができていた。


「ピンクマン、デニス、選手が中に入れなくなったらどうすんのよー!」


 私の叫びに、ピンクマンは「鬼監督が怖いからもうやめとくヨー」と笑いながら、デニスと入り口付近から引き上げてきた。


 唇を尖らせつつ「もう少し目立ちたかった」と拗ねている二人を珍しくレノックスが擁護した。


「ある意味これはお祭りだからね。浮かれるのも無理はない」


 と。

 レノックスはクルーデン高校の応援ユニフォームを着て、手にはクルーデン高応援メガホンを握っている。


 うん、浮かれているのが良くわかる。


「レノックス、それ持つんだ」


「ええ、せっかくですから。ほら、父上達も」


 レノックスの目線の先を見ると、クルーデン伯爵とサトウ王がそれぞれの応援メガホンを持ち、笑顔でこちらに向かって来ている。


「サトウ王には悪いけど、我がクルーデン高校が優勝するさ。なんたってナナミが監督だからね」


 レノックスがフッと笑った。

 そう、私は異世界に来る前の夢が叶って、クルーデン高校野球部の監督の座に就いた。

 大変だけど、クルーデンヤンキースはレノックスも共同監督となり、なんとかやっていけている。


「ナナミ様ー!応援グッズも、機関車の切符も、開通記念グッズも、飛ぶように売れておりますー!ナナミ様考案の『列車の中で食べるお弁当』も完売ですー!」


 ハンスがお金を入れる袋をじゃらじゃらさせて、小走りで駆けてくると、儲かりすぎているのか嬉し泣きをしている。


「これも全てナナミ様のおかげですー!」


「いやいや、ハンスの商魂が素晴らしいから」


 二人でニヤリと微笑み合う。


「おいおい、また二人ともオーラが金貨色になってるぞ」


 蒼大のツッコミに私は「子供達のためだから」と笑ってみせる。


 ふと視線を落とすと、我が家のスターが列車から降りてくる各高校の代表選手達に大興奮していた。早いものでスターももう六歳になった。


「凄い!僕も大きくなったら絶対高校野球全国大会に出る!」


 その言葉に素早く反応したのが蒼大だ。


「その調子だ、スター!なんてったってスターは俺達のスターだからな!」


「うん!僕頑張る!毎日練習する!パパみたいなスター選手になるんだ!」


 笑顔のスターの言葉を噛み締めるように、頷いた蒼大。


「スター……期待してるからな」と呟いた。そして、目線を下げ、続けた。


「アイ、聞いたか?お兄ちゃんは凄い大スター選手になるんだぞ」


 腕に抱いているもうすぐ一歳になる下の子、アイに声を掛けると、アイはキャッキャと手を叩いて笑った。


 蒼大がアイドルって名前にしたいと言ったけど、さすがにわたしも二人目は譲れずアイになった。


 私たちの愛の結晶だしね!


「ママ、監督頑張ってね!僕は選手を引退したらママみたいな監督になるんだ!」


 興奮しながら話すスターの頭を撫でる。そんな先の事!なんて言わないよ。

 

「うん、期待してる」


 青い空、希望に満ち溢れた歓声、汽笛の音。大好きな仲間達。

 そして、愛する家族の笑顔。

 私は、この光景を目に焼き付ける。


 コンビニでぶつかった、あの雨の日からここまで。

 こんな未来が待っているなんて、思いもしなかった。

 目を閉じるとまるで昨日の事のように感じる。


 蒼大と出会って、恋をして、結婚して。子供達が生まれて、頼もしい仲間も出来て、夢まで叶った。


 こんなに幸せになるなんて。


「七海、何ニヤけてんだ?」


「え、ニヤけてた?」


「すげぇニヤけてるぞ」


 蒼大が笑う。


「だって、幸せなんだもん」


「俺もだ!あり得ねーくらい幸せだ」


 蒼大がチュッと私の頬に軽くキスをした。

 皆の前で!ボン!と一気に顔が赤くなったが、私達の周りにいたピンクマン、デニス、レノックス、ハンス、クルーデン伯爵、サトウ王が一斉に拍手し声を揃えた。


「ナナミ、ソウタ、結婚記念日おめでとう!」


 私はハッと息を呑む。そういえばちょっと前まで覚えていたのに、忙しすぎていつの間にか忘れていた。

 蒼大がアイをレノックスに預けると、私を赤ちゃんを抱くように片手で抱き上げ口角を上げた。


「結婚記念日忘れてたろ?」


「えへへ……この前まで覚えてたんだけど……」


「フッ!俺の奥さんは忙しすぎるからな。今では世界中から必要とされてるぐらいだ……でも、俺の前ではいつまでもただの七海だ。ナナミ、ド、ヤンキー。この先も一生支え合って愛し合って生きていこう……ぜ!」


 蒼大が目を細め、出会った時から変わらない優しい笑顔で微笑んだ。私の、大好きな旦那様。


「うん!」


 心から幸せが溢れ出して、力強く頷きギュッと抱きつく。


 野球連合の会長になっても、世界平和賞をもらっても、クルーデン高校の監督になっても。

 私にとって一番誇らしくて幸せな肩書きは、いつだって『蒼大の妻』で『スターとアイのママ』だ。

 どんなに世界が広がっても、私の一番の宝物は、この逞しい腕の中と、愛する家族の笑顔の中にある。


 私のドタバタで最高にハッピーな異世界生活は、これからも大歓声と共に、ずっとずっと続いていく——のだ!






 ー完ー



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