商魂たくましいでちゅ!
時は流れ、スターは二歳になった。よちよち歩きもすっかり上達し、言葉もたくさん覚えるようになった。
クルーデンヤンキースは相変わらずの人気を誇り、遠征を快適にする為、取っ手とコロコロ付きのキャリーバッグを開発。ついでにキャリーの上に子供が座れるようにしたバージョンも作成。それがまた、大ヒットした。
「ナナミ様〜!商売の鬼ですー」
と、ハンスの拝みが止まらない。
初代サトウ王が気付かなかったものが、まだ残ってて良かった……!
商売繁盛、機関車開発は順調に進み、工場を建て、車体とレールの作成に取り掛かったところだ。
もっと、もっと稼がねば……!
と、気合を入れて、新しいベビー用品と新しい球団マスコットのグッズ案をカリカリと描いている。
「ママぁ〜」
トコトコと、スターが私の足元にやってきた。
私の膝に小さな両手をついて、上目遣いで見上げてくる。その大きな瞳は蒼大譲りで、吸い込まれそうなほどキラキラしている。
「ん〜スター、どうしたんでちゅかー?お腹すいた?」
優しく諭そうとした、その時だった。
スターがニパーッと天使のような笑顔を浮かべ、小さな手で私のスカートをギュッと握った。
「 ママー!だいしゅき、でちゅ!」
…………カランッ
あまりの可愛さに私の手から、羽ペンが滑り落ちた。
「……ッ!!」
なんだ今の破壊力は!?
『だいしゅき、でちゅ、でちゅ、でちゅ……』頭の中で反芻する。
蒼大も最近、気をつけてくれてはいるけれど、まだ言葉遣いが乱雑な分、私は『ですます口調』で話しかけ続けていた。それが、こんな形で実を結ぶとは!
薄々勘づいていたけど、私の生んだ子天才すぎるし、世界で一番可愛い生き物なのでは!?
「あああああ〜っ!スター、ママもスターが大好きですよぉぉぉ!もうお仕事なんてお終いにして、ママがいーっぱい抱っこしてあげますからね〜」
私は椅子から転げ落ちるようにしてスターを抱きしめ、ふにふにのほっぺに何度もキスをした。
「あはは!くすぐったいでちゅ!」と笑う我が子の声に、私の脳内は完全に春。スターを抱き上げ地下のトレーニングルームに向かう。
「七海!スターまでどうした?」
トレーニング中にスターと二人で来る事などないので蒼大が不思議そうに手を止めた。
「ぐへへへへ!私今スターに大好きでちゅ!って言われたの!可愛すぎて報告しに来ちゃった!」
「おー、よかったな!スターもやるな!ママをこんなにニコニコさせて。まー、パパはママを大好きを通り越して愛してるんだけどな」
「何張り合ってんのよ」
クスクスと笑っていると、スターも機嫌良く笑う。
「はぁあああ!可愛すぎる!銅像でも作る?もしくはこの世界の可愛い生き物の本を作ってスターを表紙にするの……!」
「七海、落ち着け。親バカって言われるぞ」
蒼大の言う事は分かる、しかし私は今、この瞬間のスターの可愛さを表現したくてたまらない……!
「ハッ……」
閃いた。ぬい活、アクスタ、フォトカード……!
出先で推しのぬいぐるみやアクリルスタンド、フォトカードと写真を撮ってはSNSに載せていた友達がいた。『好きなんだな〜』って見てたけど、今ならその気持ちが理解できる!
「は、ハンスを呼ばなきゃ……!」
これは私の自己満足スター君グッズだけではない。
思い出したおかげでまた、お金が生えてくる……はず!
ハヤイドリを送ってからすぐにやって来たハンスは、応接室のソファーに腰掛けるなり、サッと手帳を開いた。
「ナナミ様の為なら他の予定は後回しですよ!今回はどんな商品をお聞かせ願えますか?」
まず、個人的にスターのグッズをお願いしてから本題に入る。最近は私とハンスの商魂と、クルーデン伯爵、サトウ王の力添えもあって色んな分野が発展してきている。写真も、印刷技師もそう。『出来るのに生活に必要ないからやっていないだけ』の世界を『出来る事はやってみよう』の世界に。
「各チームの選手達のフォトカード付きスナック菓子よ!誰のカードか分からないように袋に入れて売るの」
私の提案を聞いたハンスの瞳が、ギラリと金貨色に輝いた。
「……それは、ワタシがソウタ様のカードが欲しくてお菓子を買って、出てきたのはピンクマン選手だった。ソウタ様のカードが欲しいワタシはお菓子を買い続ける……と言う事ですな?!」
「その通り!と言うか買い続けなくても、お目当ての選手を引き当てるために、ファン同士で交換会が開かれたりして、絶対に盛り上がるはずよ」
「野球ファン達の交流にも繋がる……そんな商売を思いつくとは!ナナミ様は本当に恐ろしいお人ですよ!」
「私達の住んでた世界にあったのよ!そのカードの中にSSR……カード自体を豪華な作りにして、選手のサイン付きを忍ばせたら……」
ハンスがゴクッと唾を飲んだ。
「ナナミ様のいた世界はお金儲けの天才だらけだったんですね……」
「そうなの。おかげで生活以外の楽しみが充実してた!ちなみにフォトカード用のケースも同時発売するのよ。コレクション出来るように!」
「分かりました!販売はスタジアムのみで行いますか?」
「うん、集客にも繋がるだろうし、まずはスタジアムのみで様子見しよう。あと、ケースなんだけど、SSRを引いた人には部屋に飾れる写真立てのカードサイズをプレゼントしましょう」
「それは購買意欲が更に沸きますね」
2人で話を詰め、ふふふと笑い合う。
トレーニングを終えた蒼大が応接室に来て、ソファーに座っていたスターを膝上に乗せながら腰掛ける。
「部屋に入った瞬間、二人のオーラが金に見えたぜ……」
若干引き気味だ。
「これも全て未来のスターの為よ」
「はい、鉄道開発は素晴らしい功績です。スター君が大きくなる頃には必ず快適な旅ができているでしょう」
ハンスがうんうんと頷きじっと蒼大とスターの姿を見つめた。
「……野球のユニフォーム姿もいいですが、ソウタ様に関しては一枚、プライベートなお姿も入れてみたらどうでしょう?!」
ハンスの言葉に息を飲んだ。スッカリ忘れていた。その名も『シークレット』だ。
「ハンス、流石だわ!」
私は慌ててアルバムを持ってきて開き、お気に入りの写真を取り出す。
スターに高い高いをしてあげている、蒼大とスターを横からのアングルで撮った写真だ。
「この蒼大の笑顔、最高にカッコよくない?!蒼大を見つめるスターも天使みたいな笑顔だし」
「こっ、これは!ナナミ様とスター君にしか見せない最高の笑顔……!これでも最高級品ですが、2人の顔がアップだったらもっと最高でしたねー」
確かに、全身写っているので顔は小さい。
「ちょっと待て!」
私から写真を奪い取った蒼大は照れ隠しのように耳まで真っ赤にした。
「七海、お前これいつ撮ったんだよ……!つーかこんなんカードにするって、恥ずかしいだろ!普通に野球やってるとこでいーんだよ」
すると、蒼大の腕の中にいたスターが乗り出し、その写真を小さな指でちょんちょんと突きながら満面の笑みを浮かべた。
「パパ! かっこいい、でちゅ!」
「…………ッッ!!」
ハラッ……と蒼大の手から落ちた写真。
「な、七海……俺らのスター……可愛すぎねぇ?!」
息が止まらんばかりのスターの可愛さに感動した蒼大は、極上の笑顔でスターを高い高い。
「あはは!」と楽しそうに笑うスター。
鞄から最近開発されたばかりの『持ち歩きカメラ』を取り出したハンスが、パチリとシャッターを切る。
後に超高額で取引されるようになる、シークレットカードが誕生したのだった。
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お読みいただきありがとうございます。
続きは明日(23日)書けたら明日なのですが、無理だったら週末か月曜日(27日)頃になります。のんびりお待ちいただけたら幸いです。
週の真ん中水曜日、後半も良い毎日でありますように!




