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異世界で女嫌いのイケメンに甘やかされています  作者: ハラペコWASABI
恋愛編

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愛のプレイボール

 わあああああっ!


 私と蒼大が球場に姿を表すと、青と茜色が混ざった空の下、割れんばかりの大歓声とおめでとうと言う言葉の嵐が巻き起こる。

 続いて楽器隊がぶおーっと大きな音を一回響かせると、客席がスッと静まり返った。


 何事かとキョロキョロしていると、静かに音楽が始まった。


 観客が一斉に立ちあがり、祝福の歌を歌い始める。

 まるで日本で言う、第九みたいな壮大な合唱。

 客席だけじゃない、サトウ国チームも、クルーデンヤンキースの皆もベンチから出て、右手を心臓に当て大きく口を開けて歌ってくれている。


 これはサプライズで、私達は全く知らなかった。

 胸がいっぱいになって、視界が滲む。こんなにたくさんの人に祝福してもらえるなんて。

 喜びで溢れた涙を、蒼大が少し照れ臭そうにハンカチで押さえてくれた。


「泣くなよ。せっかくの化粧が落ちるぞ」


 ぶっきらぼうな声だけど、その手はとても優しかった。そして蒼大も、自身の瞳をグッと指で押さえる。


 曲が終わると二人で客席に向かって深々と頭を下げた。

 マイクを渡された私達は心からの「ありがとう」を伝える。

 皆に感動を貰った私達は、次は皆を楽しませる番だ。


 ここからは予定通り。

 私はブーケから白球をサッと取り出し、花束をブーケガールに渡した。


 マウンドに立つと蒼大がキャッチャーマウンドに座った。

 始球式だ。

 この日のために練習して来た私の右腕が唸る。完璧なフォームで放たれた白球は『パーンッ!』という小気味良い音を響かせて、キャッチャーグローブのど真ん中へ。


「ストラーーイク!!」


 審判の声が響き盛り上がる観客。

 そしてここから私はクエストの主人公に。


 蒼大は天才バッターであり、いつもキャッチャーではないが、始球式が終わってもそのままキャッチャーポジションに残った。

 クルーデンヤンキースのメンバーが出て来て守りを固める。


 私は純白のドレス姿のままヘルメットを被り、気合を入れてバッターボックスに立つ。


 ピッチャーマウンドに立つのは、満面の笑みのピンクマンだ。普段はピッチャーじゃないけど、今日は絶対に自分が投げると駄々をこね、うちのエースピッチャーはピンクマンに譲ったらしい。自他共に認める蒼大の一番の親友だ。


 全員が配置につくと、ハンスが出て来てマイクで叫んだ。


「愛の〜〜プレイボール!」


 メンバーも観客も、大歓声と大爆笑が入り混じる。

 私も笑いながらバットを構えた。


「いくよ、ナナミ!愛の直球だよー」


 ピンクマンが投げた、優しくて打ちやすいストレート。

 私はバットを振り抜き、快音を響かせて一塁へ走り出した。


 そこからはもう、愛の連携プレーだ。

 登場だけでスタジアムをざわつかせたサトウ王は、美しいバントで私を二塁へ進めてくれた。

 続くレノックスが華麗にヒットを打ち、私を三塁へと押し出してくれる。

 全員が私達の結婚ホームインを全力で後押ししてくれているのだ。


 最後にクルーデン伯爵がバッターボックスに立った。

 ざわつきが大きくなる場内。

 さすがに敬遠して終了かと思われたが、それでは面白くないと思ったのか、ピンクマンは真っ向勝負でストレートを投げた。

 だが、この日のために密かに蒼大とバッティング練習をしていた伯爵は、快音を響かせた。


「ナナミ、走れ!」

「行けー!ソウタに向かって走れー!」


 チームメイトの後押しが聞こえる。

 三塁ベースを蹴った瞬間、胸の奥がぎゅっと熱くなった。

 この世界に来てから、ずっと隣に蒼大がいてくれたから、私はやってこれた。一人じゃきっとこんなに幸せな毎日を送っていなかったと思う。

 出会ってからの日々、毎日が大切で、キラキラ輝いて。その全てが、今日に繋がったんだ。


 私は、幸せに向かって走る。

 その先には、キャッチャーボックスでミットを放り捨て、両手を大きく広げて私を待つ、世界一カッコいい蒼大の姿がある。


「蒼大っ!愛してる!」


「七海!俺も愛してる!」


 ドサァッ! と、私は勢いよく蒼大の胸に飛び込んだ。

 逞しい腕でしっかりと抱きしめられ、二人で一緒にホームベースを踏みしめる。


「セェェェーーフ!!」


 大きなジャッジの声。しかし、審判はそこからおもむろに黒いマスクをバサッと外す。どこからともなく黒子が現れると、審判にサッと神父服を羽織らせマイクを握らせた。


「 汝、この者を生涯愛し、病める時も健やかなる時も、その愛のボールを受け止めることを誓いますか!?」


 スタジアムの観客が息を呑んで見守る中、私と蒼大は顔を見合わせ、最高の笑顔で叫んだ。


「誓います!!」


 蒼大の顔が近づき、大歓声のど真ん中で、私達は甘い誓いのキスを交わした。


 わああああぁ!!

 ニ万人もの観客、その一人一人が私達に向かって割れんばかりの拍手を送ってくれている。


 ――ヒュルルルルッ、 ドーンッ!!


 美しい茜色から深い藍色へと変わり始めた空に、花火が打ち上がり、ベンチからはチームメイトたちが一斉に飛び出してくる。もみくちゃにされるほどお祝いされ、胸と流れる涙が熱い。嬉し涙が止まらない。


 花火が終わると、スタジアムをぐるりと囲む照明がパッと一斉に点灯し、サトウ国との親善試合が開始された。この世界初のナイター試合だ。


 私はウェディングドレス姿のままサインを送る。

 来てくれた野球ファンを楽しませようと、普通の試合ではなく、サトウ国もうちのチームもじゃんけんで選手のポジションをチェンジしてプレーする回など趣向を凝らした試合展開。

 蒼大がピッチャー、ピンクマンがキャッチャーに着いた時は割れんばかりの歓声があがった。お祭り状態で、普段は見られない試合に観客は大盛り上がり。


 涙が出るほど笑って、最高に幸せな結婚式だった。

 こうして私はナナミ・ド・ヤンキーになりました。


 試合も終わり新婚になった私達は打ち上げには参加せず、帰宅する事に。明日は朝から新婚旅行でサトウ国に向かう予定だ。


 最初催しにすると言われた時は驚いたけど、あんなにたくさんの祝福を受け取って感動しないはずがない。

 お風呂に入り、興奮も冷めやらぬまま、特大ベッドに仰向けに寝転がる。


 さっきまでのニ万人の歓声が嘘のように、寝室は静まり返っている。隣に横たわる蒼大から漂う、少し熱を持った石鹸の匂いがやけにリアルで、心臓がドクンと跳ねる。


「もし、日本に戻ることになったらどうする?」


 なんて、ありもしない事を蒼大に問いかける。


「七海と一緒なら何も変わんねーよ」

「サトウ国に着いたらたちばなじんじゃに行くでしょ?」

「ああ」

「ね、ピンクマンのリーゼントはいつまで続けると思う?」

「……七海、緊張してんだろ?」


 バレた。

 バレてしまった。私は未だかつてないほど緊張している。だってとうとう初夜なのだ。ベッドの上で寄り添って話しているんだけど口から言葉が止まらない。


 今まで散々攻めたくせに。と思われそうだけど、いざとなると……


「俺言ったよな?結婚したら俺が攻めるって」


「っ!」


 いつもよりワントーン低い、甘くて危険な声に、背筋を甘い電流が這い上がるような感覚がした。

 逃げられないように両腕をふわりとベッドに縫い付けられ、至近距離から琥珀色の瞳に見下ろされる。


「おふざけはここまでだ」


 ドクン、ドクン、ドクン。

 やけに響く心臓の音。

 このまま心臓がはち切れそう。心拍数と身体中の体温が上がり、全身が甘すぎて何も言葉が返せない。


 黙って見つめていると、蒼大がゆっくりと唇を重ねた。


 ああ、多分私今晩きっと死ぬ。萌え過ぎて——


 そして翌朝。小鳥のさえずりと共に、カーテンの隙間から差し込む柔らかい光が、蒼大の整った顔を照らしている。


 無防備に眠るその姿は、出会った頃のヤンキーのイメージとは別人みたい。

 そっと頬に触れると、蒼大がうっすらと目を開けた。琥珀色の瞳がとろけそうに細まる。


「……おはよ。七海、もっと側に来て」


 そう言って、昨夜よりもずっと優しい力で引き寄せられる。幸せすぎて、とろけそう。


 と、見事な朝チュンを迎えた私だったが、気付けば身体が動かず。ベッドから出る事が出来なくて、サトウ国出発が遅れる事になった。

 結果、新婚休暇を長めに頂き、チームどころか各国球団から冷やかされる事になったのだった。


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