恩返しは結婚式?
「私達、この世界に住民票とかないけどどうすればいいのかな?」
「とりあえずメンバーに報告して、レノックスに聞いてみようぜ」
「うん」
その夜、チュっと軽いキスをして眠りについた。
翌朝。二人とも幸せ気分で目覚め、晴れ渡る空の下、手を繋いでふわふわしながらグラウンドに向かった。
私達の姿を見て整列しようと慌てている皆に向かい、蒼大が叫んだ。
「俺達、結婚することにした!」
皆の動きがピタッと止まる。
ピンクマンが笑顔で走って来て、私に軽くハグをしてきた。
「ナナミ!とうとう結婚してしまうんだね!ソウタとなら幸せになれるよ」
「ありがとう!」
私への軽いハグを解き、すぐに蒼大にがっしり抱きついたピンクマン。
「こら、離れろピンクマン!」
「イヤだー!おめでとうソウター」
「リーゼントのトサカが顔に当たるんだよ!」
「ハッハッハー!おめでとうのグリグリ攻撃だ」
離れろとか言ってるけど、抵抗する手はどこか優しくて、嬉しそうな蒼大。本当に仲が良い二人を見ていると、異世界でこんなに良い友達が出来てよかったなとしみじみ思う。
レノックスはゆっくり近づいて来て微笑んだ。
「おめでとう。とうとうと言うよりやっとだね。僕達があんなに煽ってたのに。遅いくらいだよ」
「もしかしてわざと蒼大に焼きもちやかせてたの?」
問いかけるとレノックスはニヤリと笑った。
相変わらず策士である。
デニス他メンバー達からも沢山の「おめでとう」を貰い気分上々。
「皆ありがとう!よし!今日は気分が良いからいつもより多めに走ろっか!」
「おいおい!逆だろう!」
デニスが慌てて声を上げた。
「キャプテンは鬼が好みなんですか〜?」
若手の選手も冗談めかして言う。
私は皆からのツッコミを「あはは!」と笑い飛ばす。
「冗談だよ!今日もクルーデン・ヤンキース、頑張ろー!」
「おー!」
全員拳を作り右手を突き上げる。
私と蒼大だけではなく、全員がいつもより楽しそうに練習に励み、笑顔で本日の練習は終了した。
お世話になったクルーデン伯爵に結婚の報告をする為、レノックスと共に伯爵邸に向かう。
「レノックス、この世界では入籍の書類とかどうすれば良いの?」
「今から父上に報告にするだろう?それだけでいいよ。全て父上がやってくれるさ」
「マジでクルーデン伯爵には世話になりっぱなしだな。お金はいらねーって言うし、なんか恩返しが出来たら良いんだけどな」
「そうだね、なんかないかなぁ」
伯爵もレノックスも、お礼なんて考えなくて良いよと言ってくれるけど、お世話になりっぱなしって言うのもねぇ……
伯爵邸に到着し、早速執務室に向かう。
室内に通されるとクルーデン伯爵だけじゃなく、丁度ハンスも来ていたらしい。
伯爵がニコニコと目を細める。
「やぁ、ナナミにソウタ。新居の住み心地はどうだね」
「最高っす!ありがとうございます!それで、俺達結婚しようと思って報告に来ました」
「おお、そうか!おめでとう!この地で家庭を作り子を育て、末長く幸せに暮らすと良い」
クルーデン伯爵が拍手をしながらにこやかにお祝いの言葉をくれた。
ハンスもパチパチと手を叩きながら笑顔を見せた。
「いゃあ〜良かったですー!もう二人は立派なクルーデン領民だ!ハハハ」
「ハンスもありがとう。これからもよろしくお願いします」
伯爵としっかり握手を交わした蒼大は続けた。
「入籍の書類とか、結婚式の事も相談したいんすけど」
「入籍届だね?君たちは特別領民として登録してあるから、そう言うのはわたしに任せなさい。そうだな、結婚式は……」
伯爵が顎に手を当て、悩ましげにしていると隣にいる商人ハンスの瞳がキラリと光った。
「これは……先程話し合っていた件と絡めてはいかがです?」
ハンスの瞳が何故か金貨に見える。何やらお金儲けを見つけた時のような瞳になっている。
意味深な言葉に伯爵は首を傾げた。
「どう絡めると言うんだ……?」
ハンスはニヤリと笑うと私達に背を向け、伯爵の耳元でコソコソ話を始めた。蒼大と顔を見合わせる。なんだろう、背筋にスッと嫌な汗が流れた気がする。
やがて伯爵は何故か「ハッハッハ!そう来たか」と大笑いした。
「良い案だ!」
わけが分からず眺めている私達に伯爵が満面の笑みで言った。
「結婚式も私達に任せてくれ」
と。
ハンスの瞳に違和感を感じた私は咄嗟に申し出を断った。
「あのっ!伯爵にはお世話になりっぱなしで、蒼大とも恩返ししたいねって毎日言ってるんです!結婚式までお任せするのは申し訳なく……」
「そうか……恩返しと言うならわたし達に結婚式を任せてくれるのを、恩返しにしてくれないかな?」
「け、結婚式が恩返しとは?」
伯爵のわたし達と言う言葉が気に掛かったが、言葉の通り伯爵とハンスの事だった。
「実はスタジアムの完成披露の催しが中々決まらなくてね。試合の前に野球界のスターである二人の結婚式をやれば盛り上がるだろう?」
絶句した。まさか私達の結婚式がスタジアムのオープン記念の催しになってしまうとは。誰が想像したであろうか。隣に立つ蒼大を見ると、口をポカンと開けたまま完全にフリーズしている。
今も試合をやっているが、スタジアム完成まではグラウンドで試合をしている。そんな中でも観客は多く、蒼大は人気選手だ。かく言う私もこの世界に野球をもたらしたとして有名になってしまっている。
恩返しを盾にされた私達は口を開け、ハンスと伯爵、そこにレノックスも加わって結婚式と言う名の催しの計画が進んで行くのを聞く事になった。
そして、その日はついにやって来た。
正直、私と蒼大はあまりのスケールの大きさに青ざめた。でもずっとお世話になりっぱなしだったクルーデン伯爵に頼まれたら嫌とは言えない。
これは一生に一度の晴れ舞台を掛けた恩返し。
ハンスは『野球界の大スター・ソウタ&ナナミ、愛のプレイボール!』なんていう恥ずかしすぎるポスターを刷り、話題を呼び、スタジアムのチケットは即ソールドアウト。
もう、腹を括るしかないのです。
控室のドアの向こうからは、すでに地鳴りのような2万人の大歓声が聞こえてくる。私は動きやすいように丈を短くアレンジした純白のドレス、足元は純白の特製スパイク。そして蒼大は、この日のために仕立てた純白の特攻服に身を包んでいた。
背中には蒼大の背番号である金色の糸で773。袖には七海命、愛死天流、左胸には愛羅武勇と刺繍が入っている。
結婚式で特攻服!と思ったけど、蒼大らしくてかっこいい。それに……密かに襟の所に夫婦円満って刺繍がしてあるのを見つけて。最高に愛おしい。
「七海のドレス姿、最高に綺麗だ」
「ありがとう。蒼大も黒髪に純白の特攻服がよく似合ってる」
二人でニコニコと見つめ合う。
「思ってたよりすげー事になっちまったけどさ、人生でたった一回しかしねぇ大事な式だからさ。こうなったらとことん楽しもうぜ!」
「うん、日本じゃこんな事絶対不可能だもんね」
「そ。この世界に野球を広めたから出来る、俺達にしかできない結婚式だ!」
ビクビクしてたって始まらない。蒼大の言う通り、この状況を楽しむしかないっ!
「俺、世界で一番幸せだ」
「私も」
「ん、行くぞ」
軽くキスをして、ブーケを持ち、二人で腕を組んで歩き出した。




