嫉妬からのバックハグからのプロポーズ
蒼大はしょっちゅうピンクマンとレノックスに対して警戒し、嫉妬するので困る。
正直、レノックスはもうお兄ちゃんみたいだし、ピンクマンはピンクマンだよ?!
今も二人が新居に遊びに来ているんだけど、リビングのソファに座って談笑していたら、二人が笑いながら「ナナミ、まだソウタに決めるのは早いんじゃない?僕達も居るよ〜」と揶揄った。
どこから聞いても冗談なのに、蒼大は本気にしすぎて拗ねてしまった。眉間にしわを寄せ腕を組んで、明らかに不機嫌オーラを出している。
「もう、ピンクマンもレノックスも揶揄わないで。蒼大も!私の事信じてないの?」
「信じてるけど……」
「じゃあどうしていつもピンクマンとレノックスを敬遠するの?」
私の質問に蒼大は思いっきり顔を曇らせた。
「七海の事は信じてるけど二人は油断ならねぇ。ワンチャン狙ってる感が伝わってくるっつーか」
「ピンクマンもレノックスも軽い冗談言ってるだけだよ?」
蒼大は「くぅ」と悔しそうな顔をしてオデコを押さえた。
「七海はわかってねぇ!日本でもこの世界でも七海より可愛い人間は存在しねぇ!誰よりも何よりも可愛い!猫よりもだ!七海の存在自体が奇跡!尊いイコール七海なんだよ!」
猫よりもって。世界一のイケメンが気合いを入れて力説している。だがしかし!
「嬉しいけど本気で言ってるなら不安だよ……」
流石に私も困り顔で蒼大を見つめた。盲目すぎる。愛は盲目って言葉があるけど、ちょっと度が過ぎてる。
「伝わんねーか」
「うん」
蒼大は真顔で頭を抱えた。でも数秒後、何か思いついたのかハッと顔を上げた。琥珀色の瞳がキラリと光る。
「七海から見た俺はどうだ?世界一カッコいいとか思った事ねぇ?」
なんて愚問!
「ある!さっきも思ったし、毎日思ってる!蒼大は世界一カッコいい!」
「それだよそれ!」
「あっ」
蒼大に言われて息を飲んだ。言わんとしている事が伝わってくるよ。私は盲目じゃなくて真実だけど。
「んでさ、もし俺の事軽くでもカッコいいって言う女が俺の近くにいたらどーする?」
蒼大の問いかけに、私の中で何かがザワザワとうごめいた。
「林檎潰す。片手で」
想像しただけで、右手に力が入る。ギリリッと骨の鳴る音がしたかもしれない。胸の奥が黒く染まっていくような、嫌な感覚。
「だろ?!」
「半径10メートル近づかないで欲しい」
「だろ?!」
やり切った表情の蒼大に私は大きく頷いた。好きだから不安になる。蒼大の事をカッコいいって言う女の子と話して欲しくない。世界一カッコいい蒼大を絶対狙ってるって思っちゃう。
そんな想像をするだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。モヤモヤして、呼吸が浅くなって、心臓がドキドキと早鐘を打つ。本当に嫉妬って凄い。こんなに苦しくて、こんなに切ない。
「俺は、七海以外の女と話す気は全くねぇけど」
確かに蒼大が他の女の子と話しているのを見た事がない。いつも私の方だけを見ていてくれる。
「ありがとう。私は仕事上話さない事は出来ないけど、蒼大以外を好きになる事はないよ!絶対に!だって私の彼氏は世界一カッコいいもん!」
「七海……」
「蒼大……」
見つめ合い二人でぎゅっと手を取り合うと、レノックスの「ゴホッ」と言う咳払いとピンクマンの呆れた声が聞こえた。
「似たもの同士の二人はお互いしか見えてないから、喧嘩する事は無さそうだねー」
ハッと我に返る。そういえばまだリビングでした。二人からの視線が痛い。
思わず軽いキスをしそうだった。危ない、危ない。
新居に引っ越してから一週間、私と蒼大は未だに深いキスをした事がない。理由は蒼大が我慢出来なくなるから。
思い切り抱きしめあった事もない。理由は蒼大が我慢出来なくなるから……
でも私的にはそろそろ踏み込みたい。理由は蒼大が好きだから。もっとイチャしたい!温もりを感じたい。
てな訳で。レノックスとピンクマンをお見送り。玄関でバイバイと手を振って、ドアを閉める。
夜。月明かりが窓から差し込んで良い雰囲気。蒼大の手を取り、ベッド脇まで連れて行く。
立ち止まり目を細め、じいっと見つめてみる。
「目標はバックハグ……」
呟くと蒼大は聞かなかった事にしたいのか、そっと目を閉じた。長いまつ毛が影を作って綺麗……だけど!
「バックハグ……」
もう一度囁くように言ってみる。
「だぁっ!鬼か!」
「鬼は蒼大だよ!いつまで経っても軽くしかキスしてくれないし!そー言うの蛇の生殺しって言うんだよ?」
「そのセリフを七海が言うか……」
「おねがい」
必殺の上目遣いをすると、蒼大は観念したようにベッドを指差した。
ゴロンと横になり背中を向ける。新しいシーツの匂いに、微かに蒼大の匂いが混ざっている。心臓がドキドキと高鳴る。蒼大もそっと横になった。ベッドが微かに揺れる。
はぁ、ドキドキする!とうとう後ろからぎゅっと……ぎゅっと……
「……しないんかーい!」
「ハハ!騙された」
振り向くと蒼大は凄く良い顔して笑っていた。楽しそうだけど悔しい。
蒼大の必殺技を奪い、しくしくと泣いたフリをしてみる。
「好きだからもっと近づきたいだけなのに……」
「冗談。あっち向いて」
泣き真似をやめて再びウキウキで背中を向けると、今度はちゃんと蒼大の手がお腹の辺りに伸びてきた。重なる身体。
背中越しに伝わってくる、蒼大のガッチリした胸板と、ドクン、ドクンという少し早めの心臓の音。首筋に触れる吐息がくすぐったい。
はぁ、胸の高鳴りが止まらないっ!でも優しく包まれただけじゃ物足りない。蒼大の大きな手のひらに、自分の小さな手を重ねる。
「ぎゅってして」
「お、おお」
観念したのか、蒼大の腕に力が入りぎゅっと抱きしめられてバックハグ完成。蒼大の体温に包み込まれる——
胸の高鳴りときゅんって締め付けが最高!恋愛ホルモン的な物が出まくっている気がする!
「守られてる感あるし最高」
「こっちも守ってる感ある。だがもうすでに我慢できなくなる兆候が」
「もう?!」
「わりぃ」
「ダメぇ」
始まった私と蒼大の攻防戦。蒼大の手をガッツリ押さえて守りに入る私。
「鬼ぃいいい!お腹とかっ、他の場所も体が柔らかいんだよ!それにやけにいい匂いがして俺の俺が刺激されんの!」
蒼大の声が切羽詰まっている。他の場所と言うのはお尻だろうか?確かに密着している。
「いいじゃない別に。私も免疫ないけど、もし何か当たったらバットだと思うよ!」
「アホかー!!」
「冗談」
「クソっ」
すんすんと泣き真似が始まったので解放する事に。振り返って泣き真似している蒼大の頭を撫でると手を取られぎゅっと握られた。
二人きりの時にこんな真剣な顔するの久しぶりだな。ってくらいキリッとした表情をしている。野球を始めてから身体つきも良くなったし、日焼けして健康的になった。金色だった髪の毛も伸びて、今じゃスッカリ黒髪で男らしい。
そんな蒼大が、私の左手の薬指にそっと口付けた。柔らかい唇の感触に指先が熱くなる。
「もーこれ以上我慢できないし、結婚しよう。言葉遣いは絶対直す」
悩んだり、まだ早すぎるなんて言わないよ。私ももっと沢山蒼大を感じたい。
何年経ってもこのままでいたい。慣れるんじゃなくて、一生蒼大の一言にときめいて生きたい。
贅沢かもしれないけど、蒼大にもずっと今の気持ちでいて欲しい。そんな二人になれると良いな。
「うん!私、蒼大に出会えて本当に幸せ」
満たされた気持ちでいっぱいになって蒼大を見つめると、蒼大も琥珀色の瞳で見つめ返してくれた。
自然と、瞳が潤む。
「俺も。中学ん時、友達に付き合って来てくれてありがとな」
「私こそ。見つけてくれてありがとう」
「俺達マジで運命の相手だったよな」
「うん」
無理に自分を作らなくてもいい、自然体で一緒に居られる。これを言ったら嫌われるんじゃないかとか、そんな心配も蒼大だったら皆無だよ。
「幸せにするから」
「もう幸せだよ?そして、私も蒼大を幸せにする!」
「俺ももうあり得ねーくらい、幸せだから。ありがとな」
私達は潤んだ瞳で微笑み合い、軽いキスをして、結婚する事に決めた。




