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誘惑のお時間

 振り向いた蒼大はそれはもう、今まで見た事がないほど困り顔で。


「……良いけど駄目なんだ」


 って弱々しく答えた。何故?


「なんで良いのに駄目なの?」


「俺的には良い。大歓迎。ぶっちゃけくっつきてぇ」


「じゃあいいじゃん!」


「でも駄目なんだって」


 依然困り顔の蒼大。良いのに駄目とか、これはまさかアレじゃないの?乙女じゃなくて……


「武士なの?」


「はっ?」


「拙者結婚するまで指一本触れませぬ。的な」


「ブハッ」


 顔まで作って武士を表現したからか、蒼大が吹き出した。

 私のこれが駄目なのね?すぐ笑いを取ろうとするところ!だって蒼大の笑顔好きなんだもの。沢山見たいし一緒に笑いたい。

 でも、今は駄目だ。一歩進みたいから笑いは抜きで、もっと女の子っぽくしてみよう!


 落ち着いた蒼大が「それとはちょっと違うんだよねー」と言ってきたので拗ね顔をして見せた。


「私はもっと仲良くしたいんだけどな」


「七海ぃ!本当は俺ももっと仲良くしたい!でもまだ駄目なんだって!」


 必死な蒼大。なんだか頑なに拒否られて切なくなって来た。


「なんで?中学の頃から私のこと好きでいてくれたんじゃないの?」


「ああ。ずっと好きだ!今もこれからも。つか、七海を拒否したくないから我慢してくんね?」


 ん?拒否したくないとは。これは押し甘え路線で行った方が良いかも。


「どうして我慢するの?拒否しちゃヤダ。もっと蒼大にくっつきたいの」


「がぁっ!そんな可愛い声で可愛い事言うのはやめてくれ」


 蒼大は悩ましそうに頭を押さえ悶えた。

 効いてる効いてる。私は蒼大と野球仲間、ビジネスパートナーでもあるけど、男と女でもあるんだから。適度なイチャも必要だと思うの。


「じゃぁ手繋ご?」


「それくらいなら……」


 少し近づいてギュッと手を握ると、蒼大は何と戦っているのか、悩ましげな声を上げた。


「ゔあ」


「何?」


「いや、理性を保とうと思ってだな」


「嫌なの?」


「嫌なわけねーだろ。本当はこう、ギュッと抱き寄せて……駄目だ。近くにいすぎて想像でもヤバい」


 蒼大は再び悩ましそうに頭を押さえ唸った。

 多分想像とはアレであろう。大胆かもしれないけど言ってしまえ!


「私、蒼大とならいいよ?」


「グハァッ!誘惑するのはやめてくれ!うぁあ!」


 蒼大は大袈裟と言って良いくらい悶えまくっている。さすがに気になるよ。


「本当に何なの?」


「言っても引かねぇ?」


「引かないから言って!気になるもん」


「実は母さんから2人で最高に幸せになりたいなら、キスから先は結婚してからする事。って占いで出たつってさ。焦らないように念を押されてんだよ」


 蒼大は悩ましげに頭を抱えている。けど。


「それのどこが引くの?」


「だって母さんの言いつけを守るマザコンみたいって思われたらやだろ」


「そんな事思わないよ!リッカ神の言う事は絶対だもの!」


「ガチ信者になってた!」


「当たり前だよ!ラッキーアイテムバックにどれだけ救われたか分からないもの」


 蒼大は本気で引かれると思っていたみたいで驚いた顔をしているけど、リッカ様の言う事に間違いなどないのです。


「それに、キスまでは良いってことでしょ?」


「いや、そーなんだけどしちまうと我慢が……」


「じゃ、しよ?」


「グッハァ!」


 蒼大が変なテンション過ぎてちょっと面白くなって来た。

 私はズリズリと蒼大のすぐ隣に移動。たくましい腕をギュッと抱きしめる。肌越しに伝わる体温。触れた瞬間に蒼大の身体が石みたいに硬くなったのが分かった。


「フホォ!」


 ぷぷ。どっから声出してるの?こんな蒼大初めてで新鮮。面白すぎる!


「蒼大〜」


 甘えるように肩に顔をスリスリ。


「うおおおお!七海鬼か……」


「鬼じゃないよ?蒼大好き」


「ふおっ……」


 ダメだ、もう我慢出来ない。


「あははははは!」


 我慢出来ず声を上げて笑うと、蒼大は悔しそうに歯を食いしばった。


「くっそ……男は大変なんだよ!」


「何が?」


「うっ!そ、それは七海には言えねぇ」


 そのくらいわかるけど!私の事子供だと思ってるのかな?本当にキスくらいしたいよ。切実。


「蒼大大好き。キスしていい?軽く!」


「ウグハァ」


「ダメ?」


「……軽く、軽くなら」


 ギッとベッドが軋む音。蒼大は起き上がり、私の真上から覆い被さる。天井の明かりが身体で遮られ、私の視界が一瞬で蒼大一色になった。

 前偶然この体勢になった時、自分が蒼大の好きな人だったら顎を少し上げてキスしてもらうのにって思った。


 その時を思い出しながら少し顎を上げると、熱い眼差しで見つめていた蒼大の顔が、瞬時に真っ赤に染まった。


「んっ」


 催促するように声を出すと、蒼大の顔が吸い寄せられるようにゆっくりと近づいてくる。


 ——ほんの少しだけ唇と唇が触れた。


 触れるだけの、軽いキス。暫く重なっていたけど、パッと離された。


「……これ以上すると我慢できなくなるからここまでな」


 変わらず真っ赤な蒼大につられて、私も多分真っ赤な気がする。喜びやドキドキで顔が熱い。


「うん」


 キャーって叫びたいほど幸せ。

 でも蒼大は力尽きたように私の隣に倒れ込んだ。


「……七海が可愛すぎて死んだ」


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