サクサク進むよ人生は
これはもう一気に運命の歯車ががっちり噛み合って、回り始めたと言って良いかもしれない。
牙ブタを倒した時、パワーヒッターの片鱗を見せた蒼大。実は子供の頃の夢は野球選手で、小学6年生の途中まで野球クラブに入っていたらしい。
今の夢は私を幸せにする事って言ってたけど。えへ。
そしてサトウ国で行われていた講習会が野球始動会議に進化。蒼大もアドバイザーとして加わることになった。
「っす!」
初参加の蒼大が軽く頭を下げ挨拶をすると、各国のお偉いさん達も何かしらの風格を感じ取ったのか返事が「っす!」だった。
どこの世界に行っても、人から注目されるカリスマのオーラが蒼大にはあるんだと思う。
「私たちの国で野球は流行ると確信している。ソウタ、ぜひヨイ国で指導を!」
「いや、ソウタくんはぜひ我が国に!」
「うちの国でも流行るのは目に見えてる! 是非うちの国に!」
あっという間に各国の王様たちによる、野球経験者である蒼大の取り合いが白熱。
そんな中スッと静かに手をあげたのはレノックスだった。
「残念ですが、ソウタはわがクルーデン・ヤンキースのキャプテンなので……各国の代表選手の方々が我がクルーデン領へ勉強しに来て頂けますか?」
ニッコリ微笑みマウントを取ったレノックス。各国のお偉いさん達は渋々オッケー。
というわけで!
各国の代表選手たちがクルーデン領に順番に合宿に来る『合同野球合宿』の開催がサクッと決定したのだった。
そして、蒼大が何かを思いついたように私に耳打ちしてきた。
「七海、あの100万野球の布教に使おーぜ。世界各地にスタジアム建てんのどう?」
「最高!」
お互い軽く拳を握ってゴッツンコ。
すぐにサトウ国と野球を始める各国にスタジアム建設を発表した。
「なんとありがたい!」
「よっ!太っ腹!」
各国の王様たちから大絶賛され、会議は拍手喝采の中で終了した。
野球の為に予定を伸ばして滞在していた各国の方達も、私たちも。お世話になったサトウ国に別れを告げて、それぞれの帰路についた。
すると——予想もしていなかった事が起きた。
参加国の発信する野球始動情報が広まり噂を呼び、サトウ国にバカンスに来ていなかった国からも問い合わせが殺到する事態に。
勿論、断ることなどせず大歓迎で布教。気付けば30の国と地域が参加する事になり、すぐに各地でスタジアムの建設が始まった。
こんなにサクサク進むのは、この道が合っているからこそ。
そして現在。私達は未だにクルーデン伯爵のお宅に居候中。蒼大がハンスに連絡をして、スタジアム建設の依頼と一緒に「少し大きめの家が良い」とリクエストはしてある。
「ちなみに少し大きめってどのくらいの家を想像してるの?」
「あー、野球チームが作れるくらい子供が欲しいってハンスに言ってある。それを考えると……」
「はっ?!殺す気?」
「あはは!ジョーダン!チームの皆が泊まりに来られて、更に庭と室内にトレーニングルームとかあったら良いなと思ってさ」
「びっくりした!トレーニングルームね!さすが 蒼大」
こんな感じで付き合ってからも変わらず仲良し。何も変わってない。そう、何も。
付き合い始めてからもう3ヶ月。野球の布教やスタジアム建設の件で、毎日目まぐるしく時が過ぎていく。
でも、恋人同士になったというのに、二人の距離感が付き合う前と変わらなさすぎなのよ!
昼間はあんなにカッコよくチームを纏めてキャプテンをしているのに。夜、二人きりになると急に大人しくなる蒼大。
正直キスとかしたいんだけど、全くされない。
私そんなに魅力ないのかな?いつも一緒のベッドで寝ているのに付き合う前と距離感が変わらないなんて!
今も離れて背中合わせ。これ修学旅行か合宿かな。
毎日毎日静かな部屋の中に、蒼大の規則正しい寝息だけが聞こえてくるだけ。
広く逞しい背中が、すぐ手の届く距離にあるのに。
こんなんでどうやって野球チームが作れる人数作るつもり?!冗談だけど!
一人で勝手に悶々として、胸の奥がザワザワ。このままじゃ、気になって朝まで眠れそうにない。
悶々としすぎて気になるから言ってみようかな。私達は付き合ってるんだから言っても良いよね?
思い切ってくるりと蒼大の方を向き、背中に向かって声をかける。
「蒼大」
「ん?どした?」
「もっと、近づいちゃダメ?」
蒼大はビクッと大きく肩を揺らすと、ゆっくりとこちらへ振り返った。




