涙と運命のヤンキース
夜が明けて——
朝からサトウ王と共に、お城の裏庭の一角で眠っている、蒼大のお父さんのお墓参りを済ませた。
日本を思わせる静かな庭園の立派なお墓の前で、蒼大は長い間、静かに手を合わせていた。
その後、私と蒼大は2人で「たちばなじんじゃ」に訪れた。名字が立花だと聞いて、絶対にこの場所も見せなきゃと思ったからだ。
神社の鳥居をくぐり狛猫を見た途端、蒼大はクスクスと悪戯っぽく笑った。こんな笑い方するの珍しい!
「どうしたの?」
「ここに祀られてるのは多分母さんだ。父さんは犬派だったけど、母さんは猫好きだった。それに、母さんのリッカって名は、名字の立花からきてるしな」
蒼大に言われて、ハッと気づいた。
立花は音読みで「リッカ」とも読む。
と言うことは……お父さんは、この異世界で国を創る時、お母さんの旧姓である「佐藤」を国の名前にして「立花」の名前を、この国の神様として祀った……
どれだけ世界が離れても、消える事のない深くて強い愛の形を見ている気がして、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
前に来た時「他の神様のお社で、リッカ様に祈っちゃってごめんなさい!」とか思ったけど、ここで良かったんだ。私はそっと目を閉じ、胸の前で手を合わせた。
リッカ様、素敵な息子さんに育てて頂きありがとうございます。ラッキーアイテムバッグもとても助かりました。
蒼大の事はきっと幸せにします……これからも見守っていてください。
祈るように御礼と決意を告げた。この思いが伝わると良いな。
ゆっくりと目を開けると、蒼大はまだ肩を揺らしてクスクスと笑っていた。
「何がそんなに面白いの?」
「んあ?多分、父さんはここに来て母さんの事を祈ってたんだろーなと思ってさ」
あ。蒼大の横顔を見て分かった。どこか泣き出しそうな笑顔。多分面白がってるんじゃなくて、嬉しいんだ。泣きそうなくらいに。
「そうかも。きっとリッカ様の事だけじゃなくて、蒼大の事も、弟さんの事もずっとここで祈ってたと思う」
私の言葉に、蒼大は少しだけ目元を赤くして、フッと微笑んだ。
「……そうだな。よし、行くか」
そう言って、蒼大は私の手をぎゅっと握りしめた。
お城に戻り、レノックスとサトウ王と合流し和食レストランへ。
一応、蒼大はサトウ王の前では言葉遣いとか気をつけてたみたいだけど、美味しいものを前にすると素が出るわけで。
「美味ぇえええ」
すき焼きを口に入れた瞬間、そう叫びながら凄い勢いで完食した。うん、気持ち分かる!
「そう言えば騎士団は何日お休み貰えたの?」
食後のお茶を飲みながら、何気ない話題が始まる。
「あー、実は……騎士団辞めて来た」
意外すぎる答えに驚きすぎて、ついガタッと立ち上がってしまった。
「あんなに騎士様になりたがってたのに!どう言う事?」
「七海が騎士がカッコいいって言うからなりたかっただけっつーか」
蒼大の言葉にレノックスがヒュゥと揶揄うように口笛を吹いた。もう、今そう言うの良いから!
「でも辞めるの早すぎるよ……皆に迷惑かけたんじゃない?」
「大丈夫、団長もピンクマン達も辞めた」
「団長まで!?」
私とレノックスの声が見事にハモった。
揶揄っていたはずのレノックスの顔が一気に青ざめ、ガタッと勢いよく立ち上がる。
確かに団長が辞めるなんてただ事じゃない。しかもピンクマン達って言ったよ!
でも蒼大は至って普通。
「クルーデン伯爵も許可済みだから心配しなくていーよ」
「父上が?どう言う事なのか理由を教えてくれ!」
必死なレノックスに向かい、蒼大は申し訳なさそうに苦笑いした。
「わりー、辞めたやつら皆、野球やりたいって」
「えええええ!?」
これには私とレノックス、そしてやりとりを聞いていたサトウ王まで揃って声を上げた。
タイムリーすぎだけど、なんで!?
「なんで急に野球!?」
「牙ブタの倒し方教えてくれってピンクマンがうるさくて、素振りを教えてたら今度は野球やってみたいって言いだしてさ。手ごろなボール持ってきて軽く試合やってたら……」
皆ハマっちゃって、団長が野球を広めようと言い出し、クルーデン伯爵に交渉しに行ったらオッケーだったらしい。
んで、野球選手になりたい人達はあっさり騎士団を辞めチームを結成したと……
あれ、私達離れていても通じ合っているんじゃない?やっぱり運命の相手なのかも。
「ちょっと待って!実は今丁度クルーデン領にチーム作ろうって言ってたの!サトウ国や他の国でも野球計画始動してるから、最高のタイミング!」
蒼大は目を最大に開き私の両手を取った。
「マジで?!さすが俺らだな」
「だね、凄いよ!運命感じる!で、何人いるの?チーム名とか決めた?」
「今んとこ9人で、チーム名はクルーデン騎士団と俺の名前ド・ヤンキーからとって、クルーデンヤンキースに決まった」
ソウタ・ド・ヤンキー
密かに変だと思ってたけど、ここで最高に良い仕事してたわ!さすが蒼大すぎる!




